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少女騎士団 第一話

Das Armee 3. Madchen Ritterorden, panzer team "Flowering Dogwood"
Folge von : eins

とんてんかん、とんてんかん。
ぽてん、ぴちょっ。

頭の上からモニタ越しに雫が流れる。
ふたつがひとつ、みっつがふたつ、集まって、川になって流れ、しぼむ。
そうして、また新しい川が出来る、それの繰り返し。

私は雨が嫌い。

ー1

街の通りに川が出来ていた。
砲撃で潰れた建物の破片や埃で排水溝が詰まっていて、
行き場を失った雨水が溢れ出している。
そんな通りの隅々に土嚢を詰み同胞の兵士たちが肩を寄せ合っていた。

「ナコ。私たちは贅沢だねえ。」

ファブがクッキーをかじりながら、笑う。
こんな場所でも私たちは雨をしのげ、クッキーをかじる環境が保証されている。
私たちは“国営のアイドル”だ。
前線に出て、一般の兵とともに戦う。
私たちがともに、戦うことで同胞の士気が上がる。

ぱたっ!ぱたたたっ!

簡易指揮所のテントを打つ雨の音、大嫌いなタバコとコーヒーの香りが充満するテントの中。
外も中も、私にとっては息の仕方も分からないくらい劣悪。
遠くから砲撃の音が響き、兵士たちの慌ただしい靴音が響く。
テントの奥で電話のベルが鳴って”ティーチャー”の短い話し声が響いた後、
手を二度叩き、いつもの調子で「全員集まれ!」と叫んだ。

陸軍特殊機械化隊第三機械化騎士団“ハナミズキ”、
十二式試作歩行戦車"月華"という歩行戦車で編成された部隊。
それが、私たちに与えられた居場所だ。

陸軍の現行主力機である十一式歩行戦車“燦華”と違い、
“月華”に少女のパイロットが選ばれる理由は、
月華が燦華に比べて小柄であるため、
コクピットがおとなのひとには狭いからだと、おとなのひとが教えてくれた。

肩をすぼめコクピットへと身体を滑り込ませ、ベルトを締めて準備を整える。
「准尉、握手をして頂けないでしょうか?」
握る、その手は屍のように冷たくごつごつしていた。
「ありがとうございます准尉、ハッチを閉めます!!」
ガチン!ハッチを閉まると、同時に赤い照明が狭いコクピットの中を照らした。
首から下げたマスターキーを差し込み、
いくつかのスイッチに手をかけ、イグニッションレバーに指をかけ月華を始動させる。
エンジンとコンプレッサーが身震いし低い音を響かせた。

『こちら"ハイイロギツネ"。』
無線のノイズに”ティーチャー”のぶっきらぼうな声。
『リタリア聞こえるか?』
ー『はい。』
『ファブ聞こえるか』
ー『聞こえるよー。』
『リズ聞こえるか?』
ー『聞こえる!』

『ナコ聞こえるか?』
「はい。ティーチャー。」

”ティーチャー”は、おとなの、おとこのひと。

ー2

『こちらリタリア。九二八を通過、これより一三〇五まで前進を開始。以上。』

リタリア、ファブ、リズの月華を追う。
ギシッギシッと月華の歩調に合わせて、コクピットの中は金属の軋む音が響いた。
モニタから見える街には、土嚢が積まれた、その中に疲弊した同胞たちいて、
光のない眼で、私たちを見ていた。

私たちは戦場を駆る乙女の鬼神。

『こちら"ハイイロギツネ"!戦車が川を越えてくる情報が入った。リタリア!
 一一〇三にある六階建ての屋上から狙えるか?』
ー『はい。やってみます。』
『ファブ、リズ、ナコは、リタリアを中心に前面に扇状展開。』

前線に向かって進むにつれて、同胞の動きが慌ただしく、
そして、徐々に姿が見えなくなっていく。

ー『こちらリズ。一二〇四の大通りに面した建物の"中"に待機しまーす。』
『"ハイイロギツネ"。リズ!遊びじゃないんだぞ!』
ー『わかってますって!』

私はオーソドックスに建物の影に隠れることにした。

『ファブ!ファブは、どこにいる!?』
ー『え?えーっと…ねえ。』
『リズ!ファブが見えるか!?』
ー『ああっと?』
「ファブなら一二〇二の三叉交差点で待機しているようです。」
『分かったナコ。ファブ!危なくなったら、すぐに下がれ!』

スピーカーの向こうでティーチャーが深く息を吸い、パンっと手を叩いたようだった。
そして、
『みんな、生きて帰って来い!以上!』
と、いつも戦闘前に言う。
おとなは、ズルい。
識別名の"狐"そのもの。

−3

アンカとワイヤを使ってビルの屋上へ上がり狙撃体勢を作る。
通常モニタを左眼で見て大きな動きを確認し、右眼で覗く精密射撃用スコープ。
雨と低い気温に霞む通り。
コッキングレバーを引いて弾をチャンバーの中へ送り込み、呼吸を整えた。
左手の指で操縦桿を、かつかつかつかつと叩いて頭の中でオーケストラを指揮する。
鼻歌は呼吸を乱すから我慢だ。
クラシックの高揚感は心拍数を上げるから、指揮する事だけに集中力する。
指揮者は決して”空気”に飲まれてはいけない。
左眼で見ていた通常モニターに黒い影が映り、それを狙撃用スコープで追った。

「リタリアです。F型戦車と思われる車両が壱二壱六交差点を通過しました。」
きっと戦車の後方には敵の兵士が大勢いる。
『こちら"ハイイロギツネ"。次の交差点を少し過ぎた辺りで穴を空けてやれ。』

かつかつかつかつ。
呼吸、ゆっくり、身体を上下させないくらい、ゆっくり。

雨と薄い霧が少し邪魔。

風、弾丸のドロップ量。

F型は砲塔後部左側の一部装甲が薄い。

交差点に黒い影。

右手人差し指でトリガーを引く。

ガン!

月華を大きなハンマーで殴ったような衝撃が走る。
左眼で黒煙を上げ停止した戦車と交差点へ引き返し左右に広がる兵士たちを確認。
「初弾命中、対象は沈黙。」
コッキングレバーを引くと排莢された空薬莢がビルの下へと落ちていった。
交差点を左折する軽戦車二両と歩行戦車二騎を確認。
三両目の歩行戦車にトリガーを引く。ガン!
再び、月華に大きな衝撃が伝わり、目標から黒煙が上がる。

「軽戦車二両確認、歩行戦車二騎を確認、うち歩行戦車一騎は沈黙。」
『もう一度、戦車狙えそうか?』
ここからでは、もう、お目にかかれなさそうだ。
「いえ。恐らく無理です。」
『建物を降りて、ナコの後ろへ。』
「了解。」
ビルの屋上からリベリング降下をしながら通信。
「ファブ、リズ、ナコ、戦車が二両、歩行戦車が一騎そっちに行ったよ。」
ー『了解、リタリア。』

さて、私もファブのように通りの真ん中から敵を狙おうか。
敵の気が届かないほど遠い場所から長距離ライフルで。

−4

私が隠れる通りに軽戦車が来るみたいだ。
リタリアばかりにいい思いをさせはしない、まずは建物の中から飛び出て驚かしてやろう。

「ファブ!軽戦車は私がやる!」
『了解!ねえ?イーリ!それ以外は撃ってもいい!?』

彼女らの会話にティーチャーが『こちらハイイロギツネ。あまり"散らかすなよ"!』と言った直後、
ヴーーーッ!とガトリング砲が唸る音が聞こえた。
恐らく敵兵は大きな通りを避けたのだろうが、
そこにファブがいて見つかってしまったのだろう。

『あなたたちが、私の獲物だぁっ!!』

ファブが叫んだ、その光景を想像して苦笑い。
私の目の前を敵の兵士が六人、腰をかがめて小走り通った。
来た、建物が振動し天井の煤けた破片が落ちてきて装甲を打つ。
目の前をゆっくりと進む軽戦車。

来た。
来た来た来た!

血が沸騰する。

ペダルを踏み込んで建物から飛び出す。
月華と飛び出る瓦礫、軽戦車の横や後ろに付く兵士の驚いた顔。
雨の一粒一粒、敵兵の表情と顔のシワが、くっきりとスローモーションで見え、
私は月華の対戦近距離武器であるランスを軽戦車の横っ腹に思いっきり突き刺した。
戦車の装甲が軋む音と飛び散る火花。
ランスが食い込んだ先に空いた四つの穴から炸薬弾を発射すると、
軽戦車の反対側が吹き飛び、軽戦車の後方の扉から火が走った。

「ティーチャー!!散らからない訳がないでしょっ!!!」

−5

リタリアがF型戦車を沈黙させた。
ファブとリズは、いつも通りの行為に及んでいるだろう。
しかし、時間が経つのに、私のもとに誰ひとりとして来ない、この通りは使わない?
…いや、でも確実に"上がる"には、ここを使わないといけないはず。
月華を歩かせ、モニタを凝視する。
伝う雨、頭を打つ雨の音は一向に収まらない。

『こちら”ハイイロギツネ"。ナコ、何か変化はあるか?』
「いえ。」

答えた瞬間、ゴン!と装甲を叩く音が聞こえ、瞬時に狭い路地に走り去る敵の兵士を確認した。
装甲を叩いたのは手榴弾か?ペダルを踏み込み旋回しながら、逃げる敵兵にガトリング砲で弾をばらまく。

ドッ!ズン!!

足元から頭まで揺さぶられる衝撃に目の前が真っ暗になり、鼻の中にツーンと鉄の臭いが広がる。
吐き気が襲い視界が狭まっていく、揺れる脳の思考を止めたらおしまいだ。

ガン!カン、カッ!カカカッ!

装甲を打つ何かの音に、耳が、脳が、気が飛びそうになるくらい敏感に反応する。
この衝撃は手榴弾ではなく対戦車爆薬だ。
爆薬が機体にくっつかなかったのだろう、それが幸いだった。
視界の周りが黒くなり、ようやく見えているところで、ぼやけた計器をチェック、異常はない。
ノイズが入ったモニタが映し出す煙、この中にとどまっていては危ないと思い踏み出した。

煙を抜けた向こう、軽戦車が十字路から砲身をこちらに向けて、出てくる。
揺れる脳より体が先に反応、戦車は弱い横っ腹を見せている。
右手人差し指がトリガーを引きガトリング砲を撃ちながら戦車に向かい走り、弾丸が軽戦車の装甲を壊していく。
敵兵が隙間からロケット砲を放ったが弾頭は装甲が弾く。
しかし、衝突音が私の聴力をさらに低下させて、
脳震盪で頼りない私の三半規管を麻痺させた。
月華の肩部からランスを引き抜き、迷いなく軽戦車へと突撃する。

あと30メートル。

戦車が砲撃したとしても、この距離で砲弾は炸裂しない。

なら、どちらが早いか。

ロケット砲で、こんなに痛いんだ。
戦車の砲弾を受けたら、どれだけ痛いだろう?
月華の装甲が受け止められるのだろうか?

穴が、空いちゃったりして。

ドン!

−6

『初弾命中。対象は沈黙。』
「ハイイロギツネ、了解。リタリア、よくやった。」
『敵兵が引くのが見えます。』
「分かった。全機ナコを確保、確保だ。」
『了解。』
「私も出る。」

通信を閉じ、準備をしながら改めてリタリアの古参兵のような鼻のよさに感心していた。
新兵どころか子供の戦争ごっこのような動きのファブやリズにしても、
持てる戦力を有効に使っていると言えば、そうなるだろう。
どんな兵であっても、生身の人間に大砲を撃ち込むような行為は本来、躊躇われる。

「もし、そんな奴がいたら軍隊より病院に入るべきろうな。」

それを彼女たちは、冷静さと素早い判断力を持って行使している。
温かいコーヒーの香りが落ち着くテントから硝煙臭い雨が打ち付ける外へと飛び出る。

雨が、嫌いだ。

「ただでさえ、いつも頭の中で雨が降っているんだ、どうにかならんものか、この雨は。」
兵たちの慌ただしい靴音の中に消える独り言。
彼女たちの月華より大きな体を持つ九式二型歩行戦車“燦華”の機関銃に触れる。

“彼女たちのような少女を、アイドルとして持ち上げ戦わせるなんて、嫌な戦場だ。”

今日も、そう思い込むことにする。
そうでもしなければ、こちらがおかしくなってしまう。
「“国営アイドル、少女騎士団”か。笑わせる。」
これから見る“散らかった遊び場”に覚悟を決めて、ハッチを閉じた。

ー7

目を開くとカーテンの周りが、ぼんやりと光っていた。
時計は〇六〇一時を指している。
目覚まし時計のスイッチを切って、ベッドから足を降ろすと、冷たい床がおはようと言った。
ルームメイトのリズを起こさなように着替えて、一階へと降りる。
寮から出ると冷たい空気が髪の先に巻きついた。
息は白く、グラウンドの芝が薄く化粧をしているではないか。
はあっ!大きな白い息を作って噴水まで向った。
重い雲を見上げていると、空軍の三三式戦闘機の編隊が頭の上を飛び抜けた。

「ナコ!おはよう!」

声に振り返るとコートにマフラーを巻いたティーチャーが、いつも通り眉をひそめて立っていた。
「おはようございます。ティーチャー。」
敬礼をし、手を真っ直ぐ伸ばして脚に添わせる。
「散歩か?今朝は冷えるな。」
ティーチャーが私に目を止めると口許を緩めると鼻で笑った。
「何でしょうか?」
「三三式が上がっていったな、懐かしいと思ってな。」
「旧式とはいえ、まだ実戦に堪える性能を持っています。」
「そういう意味じゃない。昔乗ってたんだよ、アレに。」
緩んだ口許が、いつもの険しい顔に戻り、
次に話題は先日の戦闘で負った怪我の具合に向いた。
「痛むか?」
「まだ痛みはりますが問題ありません。」
「嫌な女だな。」
ティーチャーがコートのボタンを外しながら言う。
「どういう意味でしょうか?」
訪ね終わると同時に「お前みたいな子供が、俺にこんな事をさせるのが気に食わん。」と言って私にコートをかけ、
マフラーも雑に巻きつける。
「午後にでも返せ、体を冷やすな!」
足早に去る大尉の後ろ姿と、温かいマフラーとコートに染み付いたタバコとコーヒーの匂いが、
深くなる想いにコートを羽織ってこなかったことを後悔させた。

寮に戻り、食堂で紅茶を淹れて飲む。
温かい感覚が口から食道を通って、身体に染み込んでいく。
カップを手で包み込んで指を温め、テーブルの上に置かれた新聞を丁寧にめくった。
善戦、勝利、制圧、我が軍の活躍ばかりが記事が踊る。
大きな広告には“少女騎士団と、ともに戦おう”の文字。
そして天気予報の週間予報には曇り空か雨の予報ばかりが並んでいた。

「雨は嫌いなのに。」

食堂にスリッパをぺたんぺたん鳴らす音が入ってきた。
ファブが大きなあくびをしながら、ボサボサな髪を揺らし私の隣で机に突っ伏した。
「おはよう。紅茶飲む?」
「ふぇえい…」
彼女は朝が弱いのだが不思議と寝坊はない。
むしろ、起床の時間より早く起きる。
いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐな彼女の性格によるものだと思われる。
食器棚から”彼女のカップ”を取り出し、紅茶を注ぐ。
「ナコー?このコートはー?」
ファブを見るとティーチャーのコートに顔をうずめ匂いをかいでいた。
「ティーチャーのだよ。」
カップを置くと、ずずっと汚い音をたてて紅茶をすすった。
「仲良しー?」
「いいや、まったく。」
「そっかー。」
ファブが大尉のコートを枕にしようとしたので取り上げる。
「ご期待に添えず。」

〇六四五時になると起床の音楽が鳴り、ここの“少女騎士団”の仲間が食堂に集まってくる。
この寮で総勢四十人、それぞれの部隊には花や木の名前が付いて、私たちの隊は“ハナミズキ”だ。
「ナコー、ファブー、おはよー。」
ファブ同様髪をボサボサにしているリズ。
彼女の性格は大雑把、よく言えば活動的で意欲に満ち溢れている。
「おはよう。」
長い黒髪の彼女はリタリア。
彼女は冷静沈着、礼儀正しく姿勢がよく、狙撃に関しては群を抜いている。

“少女騎士団”は普通の軍人とは違う生活を送る。
基本的に午前から15時まで基地敷地内にある軍立の女学校に通い、勉学に励み、15時から訓練を行う。
訓練といっても陸軍のように何日も泥の森に隠れたりすることは、ほとんどなく、
“歩行戦車”に搭乗するための筋力と持久力、精神力を主に養う。

今日の訓練は筋力トレーニングの後に射撃が組まれていた。
リズが「筋トレのあとに射撃かよー。」と漏らした。
筋肉が疲れている上で銃器を持つ、持久力と精神力が試される。

射撃ブースでゴーグルを着けて、イヤープロテクターで耳を守る。
ハンドガンを手に取りスライドを引いてチャンバーに弾が入っていないか確認。
「マガジンに5発だ!」
教官の声に手早く、弾を入れる。
「銃とマガジンをテーブルに置け!」
きっと、この訓練はリコが得意だ、ファブもワクワクしているだろう、
イズは標的に穴さえ空ければいいと思っているに違いない、いい結果は二の次。
「両手をテーブルの上に!」

「てッ!!」

銃とマガジンを取り、マガジンを挿入。スライドをしっかり引き、現れる標的の頭部に穴を空けた。

少女騎士団 第一話終
Das Armee 3. Madchen Ritterorden, panzer team "Flowering Dogwood"
Folge von : eins Ende

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