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佐藤尚之 『ファンベース』のレビュー

2018年2月発売。
「さとなお」の愛称で知られるマーケティング・広告業界で有名な人の本。マーケティング担当者はもちろん、広報・PR・広告担当にもおそろしく参考になる内容です。

ファンベースとは? 既存客を大切にする

ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方が、これからの時代には絶対に必要、と説く内容です。

分かりやすくいえばファンベースとは、新規客ではなく既存客を大事にする施策です。

既存客にフォーカスしても売上には寄与しないのでは?という疑問が出てくるのはある意味自然。それに対して、なぜファンベースが重要なのか?ということを冒頭でデータとともに説明しています。

ファンベースが重要な理由

なぜファンベース施策が重要なのか?その背景をまずざっと要約。

少数の顧客が多くの売上に貢献しているから(パレートの法則に近いものをデータ付き・各種業界別で紹介)
時代と社会が急激に変化しているしているから(人口激変、ウルトラ高齢化、未婚率増加、超成熟社会、情報過多)
ファンは新たなファンを呼んでくるから(近い友人のおすすめがパワーを持つ時代に)

以上の内容が、約80ページ分。

この要約だけだとロジックが分からないかもしれませんが、この冒頭たった80ページを読むだけで、ファンベースは超大事だ!と思いこまされちゃいます。豊富なデータと事例つきだから。思いこまさちゃうなんて表現悪いですね。まぁそのくらい考え方をひっくり返されます。

ただ、中長期的なファンベース施策だけが大事だと言っているわけではなく、認知を広げるための単発・短期施策、つまり広告とかキャンペーンとかも依然として必要だ、とは本書でも随所でふれています(ファンベース施策により、単発・短期施策の効果も増やせる、というのも主張)。

具体的に何をすればいい?

じゃあ、ファンをつくり、育てるためには具体的に何をすればいいの?というのが後半で語られます。

本書がすすめる施策内容を一言でまとめるのは難しいですが、最重要ポイントは約2割のファンを意識しよう、2割のファンの気持ちを考えようということだと思います。(一般的に購入者の約2割がファンになるから)

また、SNSについてもたびたび触れられていて、その本質的な役割について語った下記の部分は、とても大事だと思います。

「現時点でのSNSは『リーチ量をあげるメディア』ではなく、『リーチ質をあげるメディア』と捉えたほうがいいと思う。不特定多数への拡散としてはまだ弱いメディアだが(テレビのほうがずっと強い)、それよりも、企業とファンのつながりを強くする・・・(省略)・・・つまり、SNSこそファンベースで活かすべきだ(p.67、太字筆者)」

SNS関連で興味深かったのは、バズは認知拡大にそれほど効果があるわけではないく、むしろバスはファンに自信を与えるのに効果的な方法ととらえるべき、という主張。

私の短い経験としても、これは肌感として理解できます。バズってマッチの火みたいに、瞬間的に燃えてもすぐに消えちゃうんですよね。それでファンが増えるわけでもない。

新規ファンを得るためのバズではなく、既存ファンに「私の支持してる企業ってバズるくらい良いもの、良い価値があるんだ」と伝えるためのものくらいに考えようということです。

企業価値の考え方

それから、ファンの共感を得るためには、企業が大切にしている価値の「支持されているポイントはどこか?」を知る必要がある、と本書にありました。「企業が大切にしている価値」ではなく、「企業が大切にしている価値で支持されている価値」です。企業価値はお客さんが決めるってこと。ただ、お客さんが何に価値を感じているのかを企業側は知らないことが多いと。

それを知るための施策として、ファンミーティングを推奨していて、そのやり方を細かく紹介した項はイベント担当者にはすごく参考になると思います。

デジタルメディア・広報担当であれば、「お客さんが自社の何に価値を感じているのか」ということは明確に把握・共有しておく必要があるなと思います。

具体的にいえば、ツイッターのコメントとか反応は簡単に無料で取り組めること。定期的にきちんとまとめるべきし、イベントでのアンケートなども参考になるはずです。それらをSNSを中心に強調していきファンを育てていこう、というのが本書の主張です。

最高に参考になります

・・・というわけで、控えめに言って最高に参考になると思います。

「まずはとにかく読んでください!」とだけ声を大にして言いたいのですが、
とりいそぎ要点だと思えるようなことをまとめてみました。

余談ですが、本書でたびたび言及されていたトマトジュースのカゴメ。その株主の99.5%は個人株主(ファン株主)で、そのうち約3分の1が主婦層だそうです。カゴメ、なんか単純にすごい。

最後の章で、PR・広報の仕事って最高の仕事じゃん!ということが書いてあり、実務の刺激にもなりますよ。

PS
本書の中心でもある「コミュニティ」についてもっと知見を増やしたいと思うので、そういう方面の本も今後レビューしていきたいと思います。よければフォローしてくださいね^^


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