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B2Bのデータマーケティングって、どんな活動?どんな状態?

こんにちはカミムラです。今週のイベントに急遽登壇することになりました。「事業成長を加速させるデータマーケティング実践のリアル」と題したFORCAS社のセミナーに。

「データマーケティング」がメインテーマになるのですが、はたしてこれはどんな活動・状態を指す言葉なのでしょうね?定義がズレちゃうとディスカッションが空振りしそうなので、不安でググってみました。

そしたら出るわ出るわ、中身がうすめなSEO記事。ポジショントーク、販促誘導、歴史や周辺情報などなどなど。B2C向けの考え方も多いし。数件調べましたが、B2Bのデータマーケティングそのものに対する理解は深まらず。

というわけで、おそらくイベントをお聞きになる方も「データマーケティングってふんわり理解できるし、なんか必要そうだけど、実際なんのことなんだろうね?」と思っている方も多いかなと思い、先に僕が考えていることを整理してみます。

データマーケティングって?

ほんとデータマーケティングってなんなのでしょうね。活動なのか状態なのかもわかりません。でもあえて自分で仮説を立てるならば「デジタルツインができている状態」「集中力の最適配分活動」だと思います。

デジタルツインができている状態?

デジタルツインとは、デジタルトランスフォーメーションの流れの中で、主に製造業やIoTの文脈で使われている概念です。僕の頭に浮かんでいる状態を定義するのにぴったりなので使っちゃいます。

デジタルツイン。つまりデジタルの双子。デジタル上に2人目がいる。現実世界の事象をデジタル上に写像できている状態です。マーケティングでいうならば、お客さんの動きと、マーケティング活動、そして営業活動が、データベースに写像されているということです。具体的には、どのお客さんがどのウェブページに訪れたのかや、資料請求をしたのか、セミナーに参加したのか、展示会では誰と名刺交換をして、どんな話をしたのか。そこに対してインサイドセールスがいつ電話して、どのような会話をし、アポイントを獲得したのか否か。営業はどんな話をして、購買プロセスはどのような状態にまで進んだのか。そういった現実世界での事象が、データベースに記録されている状態です。

実際は、そのデータの多くはMAとCRMに保存されることになるでしょう。MarketoやPardotとSalesforceとかでしょうね。そうすることによって、現実世界の動きを正確に把握することができますし、保存された記録を通じて過去を分析し、パターンを見出し、未来を予測して、PDCAを回すことができるようになります。

集中力の最適配分活動?

もう一つは集中力の最適配分活動です。これはPDCAの第2段階目だと思っています。通常、PDCAという言葉は戦術改善の文脈で使われることが多いです。施策を行った結果をチェックしてみて、結果に基づいて次の施策を見直す。具体的には、それは広告集客の見直しかもしれませんし、Webサイトの導線改善かもしれませんし、セミナーの満足度の改善かもしれません。その施策をもっと上手に回すための改善に使われます。とどのつまり、戦術改善です。これが第1段階のPDCA。

じゃあ第2段階のPDCAとは何なのか?データに基づいて最も効率的な注力点を特定することです。前提として組織管理者の立場からすると、組織内に改善した方が良いこと、やった方が良い事は数え切れないほどあります。施策面、人材面、仕組み面、星の数ほどの選択肢。とても全部はできません。最良の敵は良ってやつです。なので「人材もしくは予算をどこに投下するか?」を絞り込まなければいけません。それこそが管理職の最大の仕事です。

でも実際のところ、どこに資源を投下することが最も目的に効率的に近づけるのか、これを定量的に把握できている組織は多くはないと感じてます。なぜできないか?デジタルツインができていなくて断片的な情報しか意思決定層が把握できていないからです。感と経験による直感は必ずしも大外れはしませんが、見落としも多いです。

僕自身の経験でも、そんな悲しい見落としはこれまでたくさんあります。当時、新しく関与することになったある事業部では、リード獲得商談としてセミナー運営にとても注力していました。毎月のように新しいコンテンツを創作して、新しいセミナーを企画して、集客をして、当日運営をしてリードを獲得していました。セミナー参加者には、インサイドが丁寧に対応して、そのうちの何人かはアポイントを取って営業に引き渡して対応してもらっていました。

実際、この事業部のリードの大半はセミナーから生まれていました。マーケの担当者はセミナーからのリードを増やすことに集中力の大半を投下していました。けれどその事業部の事象をデジタル上に写像すると驚く発見がありました。

確かにリードの81.7%はセミナーから生み出されていました。アポイントの54.2%もセミナーから生まれていました。けれどセミナーからのアポイントは8.1%しか営業のパイプラインにはなっていませんでした。では実際に営業が生み出した年間2.2億円のパイプラインはどこから生成されていたのか?セミナーからのパイプラインは全体の2.4%でした。そして87.5%がウェブサイトからの資料請求と問い合わせから生まれていました。にもかかわらず、ウェブサイトへの強化投資はあまり行われておらず、セミナーへ多くの集中力が投下されていました。

87.5%のパイプラインを生成していたリード獲得チャネルと、2.4%しかパイプライン生成していなかったチャネル。どちらにテコ入れすべきでしょうか?この事実を知っていれば、誰もがウェブチャネルに割くという意思決定をすると思います。営業だけがうすうす感じていたその偏りに、マーケもプロダクト担当も気づいていませんでした。当時のセミナー担当は真摯に自分の担当業務に取り組んでいて、自分に任せられているセミナーを良くするためにPDCAをかけて前向きに改善に取り組んでいました。

数字にしちゃうと自明な話ですが、そんなことってそこらじゅうにありませんかね?担当している彼らに非はなく、管理職の采配の問題です。「メンバーの集中力をどこに投下させるか。そして、その意思決定にどう説得力を持たせ、腹落ちさせるか」が集中力の最適配分です。

この例のような、非効率を取り除くための意思決定材料になるのが、デジタルツインで写像されたデータです。これをもとに、どこに限りある資源を投下するかを判断する。時間をお金を。特にマーケのような企画職においては「人の集中力」をどこ割くべきなのかの意思決定をする。こんな活動がデータマーケティング活動だと思います。

どうやってデジタルツインの状態に近づく?

データマーケティングのベースになるのはデジタルツインです。言うは易し。どうやったらそれが実現できるでしょうか?2つのことが必要です。まずは1つ目、記録するための箱が必要です。それはMAやCRMになるでしょう。リードの獲得状況を記録する、インサイドセールスの活動状況を記録する、営業の活動状況を記録する。そうすることで、The Modelでフレームワーク化されたような分業構造が写像できますし、デマンドウォーターフォールで示されるようなファネル構造を写像することができます。そのデータベース構造を作らねばなりません。

幸い、この分野は情報もツールも溢れています。PardotやMarketo、Salesforceに代表に代表されるシステムにはプリセットされたデータベースがあります。The Modelを解説した書籍もありますし、セミナーでは無料でこういった大上段の構造を話してくれるスピーカーも多いです。ですので、ゼロから考えなくてもデジタル上に写像するハコを構築するためのヒントは溢れています。これに比べ格段に難しいのは2つ目です。オペレーションへの組み込みです。

オペレーションに組み込むためには?

オペレーションに組み込まれていると言う事は、担当者が毎日毎日行う仕事の中で自然にデータが入力され続けているようにすることです。担当者が仕事を行うことと、データを入力することが密接に組み込まれている状態。彼らはデータを入力し忘れるなんて事はなくて、通常通り仕事をしていれば自然にデジタルツインにデータがたまっている、そんな状態が理想です。

逆に、デジタルツインを作るために、担当者が余計な仕事を増やされてる、という認識の状態だとあまり良くありません。ましてその入力活動に納得感がなければ間違いなく失敗します。データの未入力、不十分な入力結果、そうなればデジタルツインは現実を反映したものになりません。この分野こそ最大のクリエイティビティと「人のリアル」がある分野だと思っています。

ですが、ここに関する具体的な情報を語る人は多くありません。少なくとも、組織でシステムが上手に活用されている夢物語を提唱するベンダーから積極的に発信されることはなく、理想と現実の大きなギャップがある分野です。

ここはどうしたら良いのでしょうか?もし権限を使えるならばそれが近道です。データを入力しなければ上司から怒られる、入力しなければ査定が下がる、入力しなければ会議で指摘される、そういったことを担当者の査定権限を持っている上司が言うことです。しかも継続的に。ただ実際、これは理想論であって、そういったことを強力に推進してくれる管理職がいるケースは非常に稀です。もし自分の会社にそういった上司がいるならば、すぐにそれを使いましょう。最も近道です。現実的な処方箋はインターフェイスを工夫することです。

現実とデジタルツインの境界(インターフェイス)を工夫する

B2Bマーケティングはオンライン完結ではなくインサイドセールスや営業が関与する2ステップセールスです。後半の活動はオフラインで行われます。そのため多くの情報は、担当者が手動入力しなければなりません。これをどうやって日常に組み込むのか?現実とデジタルツインの境界をつなぐものはデータ取得・データ入力のインターフェイスです。特に入力面はオペレーションシステムのUIと呼ばれるものですね。

例えばうちのインサイドセールスは、資料請求やセミナーに参加してくれたお客さんに電話アプローチをしています。これをCRMに写像しようと思うと、Salesforce上には、セミナーの申込み履歴、セミナーの出席履歴、セミナーのアンケート結果の記録が必要で、そしてインサイドと会話した後には、キャンペーンメンバーに会話結果を記録し、活動を登録し、取引先責任者を更新し、アポイントが獲得できていれば商談登録をして、Chatterに投稿する、という記録が必要です。計5箇所

お客さんに電話一本かけるごとにそんなに多くの入力が発生するオペレーションは担当者に受け入れられるでしょうか?僕だったら嫌です。入力しているヒマがあったら一本でも多くお客さんに電話したり、お客さんの事前調査に時間を使いたいです。早晩、入力をサボるようになります。最初は上司に怒られるからしぶしぶ入力しても、だんだん少しずつサボって入力しなくなり、入力内容・頻度が減っていくことでしょう。上司も毎週指摘をするのは疲れるので数週間やったら大体指摘もしなくなって行きます。そうしてデジタルツインは現実を写像しなくなっていきます。

じゃあどうするのか?技術を使ってインターフェイスを工夫します。インサイド活動であれば、まず前段のセミナー参加の時点の情報をどう取得し記録するインターフェースにするのか。現在のうちでは、セミナーの申込み履歴、出席履歴、アンケートはWebinar化も相まって全てPardotのフォームで取得しています。そうすることで、誰がどのセミナーに申し込んだのか、実際に参加したのか、満足度はどうだったのか、質問は感想は。すべてキャンペーンメンバーに自動的に記録されています。一人一人の情報だけでなく、セミナー単位の集計や比較もレポート1つで可能です。これはデータ取得のインターフェイスの工夫です。

インサイドが連絡する場面ではどうでしょうか?うちのインサイドが日々利用しているレポートにはセミナー参加者が並んでいますが、そこには「ACT」ボタンが1個付いています。このボタンを押すと専用の入力画面に移ります。ここにどんな活動をしたのか、どんな話をしたのか、その結果どうなったのかを記録していきます。完了ボタンを押すと、キャンペーンメンバーの更新と、活動の登録と、取引先責任者の更新と、アポイントが獲得できていれば商談の作成と、そしてChatterグループへの投稿の全てがなされます。全自動です。インサイドが電話して取引先責任者にメモはつけたけど活動をつけ忘れたとか、アポを取ったのに商談を作り忘れた、なんてことは一切起きません。この画面1つで完結するからです。この画面以外から記録をつけようともしません。この画面からが1番ラクだからです。

こういった入力インターフェイスを用意することで、データ入力が運用に自然に組み込まれていきます。デジタルツインを実現できるオペレーション構築のために効果的な事は、データを記録するための箱作りと、担当者の日常に自然に組み込まれるインターフェース作り、この2つだと思っています。

箱とインターフェイスがあれば、人のオペレーションは変わるのか?

最後に、優れた箱とインターフェースを作っただけで入力してくれるなんて事も残念ながらあり得ません。担当者たちにとっては自分たちの日常のオペレーションが大事です。その日常を変化させないといけません。日常を変化させるという事はすごく大きなエネルギーがいります。これを越えさせるには人と人とのコミニケーションが必要になります。変革の意図を説明し、彼らの日常の会議に同席し、運用が定着するまで伴走する。定着化の活動です。

実際、一度説明しただけで運用してくれるなんてことはありません。そんなエネルギーでは人の日常は変わりません。どれだけ丁寧に説明しても、やってくれるのは半分もいないでしょう。そしてやってくれた中でも正しくやれた人はその半分もいないでしょう。実際うちでも最初はそんな感じでした。

そんな時どうするか?「◯◯さん、あの新しい運用、5つ入力するうちこの3つができてないです。入力してください」と正論で言ってみましょうか。たぶん、煙たがられて終わるでしょう。感情的に新しい運用が嫌いになります。下手すると推進者のことまでも。。。

では正論で指摘する代わりにこんなのはどうでしょう。5つやるべきことがあったとして「◯◯さん、さっそく2箇所入力してくれてありがとうございます!次の3つもお願いしますね」。完成形の5つからの不足分でなく、現状のゼロからの変化分に焦点を当てる。できてないことに焦点を当ててくる外部の人は煙たがられますが、できたこと変わったことに焦点を当ててみんなの前でホメてくれる人はびっくりするほど見られ方が変わります。人を巻き込む推進力には、こんなところで違いが現れます。

データマーケティングのはじめの一歩は?

このデータマーケティングに取り組むために、どういったアクションから始めるのが現実的でしょうか?まずは小さなデジタルツインを作り始めることかと思います。

格納先のハコは理想的にはCRMやMA。できればRDB。それでなければスプレッドシートでもいいと思います。格納すべきデータはリードと商談。最初はリードだけからでもいいかもしれません。データ取得・入力のインターフェイスも、理想は自動化したりオペレーションへの組み込みですが、最初は月イチで手動でデータを引き抜いてデジタルツインにコピーする、でもいいでしょう。リードと商談が1つのデータベースに集約されていて、集計分析できるようになっていればまずはOKです。

データの中身については、入口と出口の情報が重要です。どこから来て、どこへ行ったか?です。リードであれば、どの施策から来たリードなのか、そのリードは有効と判定されたのか、営業にトスアップできたのか、商談化したのか。商談であれば、どのキャンペーンのリードから生まれたのか、どのインサイドから受け取ったのか。提案が進んだのか、受注したのか、いくらの売上になったのか。それらが入っていれば、どこが後工程に大きなインパクトを与えているのか、PDCAの第2段階目の材料が揃っていきます。先ほど例示したような、どの施策がどれだけ営業に貢献しているから、今後どこにテコ入れすべきか?の判断材料も出せるようになります。

小さく始めているうちに、それで良い意思決定ができるようになればより大きな範囲のデータを求められるようになるでしょう。そのとき、デジタルツインの範囲を広げたり、自動化したりオペレーションに組み込んだりの投資をしていけばいいと思います。組織がデータに慣れるには時間が必要です。無理に外科手術のような全体構造改革から始めなくても、それぞれの推進者にできる範囲から取り組むのがいいかと思います。

これからのDX、SalesOpsを推進する適任者

ITシステム整備は、情報システム部やエンジニアの専門分野でした。でも、僕がこの9年間、企業の営業・マーケのフロント部門から、バックオフィスの人事労務・総務・会計の分野までIT企画に携わってきましたが、その推進に最も役立ったことはシステムの知識やプログラミングではなく、現場のオペレーション理解と推進力でした。

実際、今でも僕はプログラミングができません。けれど、現代のSaaSシステムを使えばノンプログラミングでも中程度の業務システムは作れてしまいます。今求められているのは、人を変えられる推進力と、現場のオペレーションを知っていて、現場の気持ちが分かる人。営業・マーケティングの分野であるならば、営業経験者そのものだと思っています。

営業職のキャリアプランは、かつては営業のハイパフォーマー、マネージャーにしか繋がらず、他の専門職に繋がりづらいこともあったかもしれません。となると営業で実績を出せた、ほんのひと握りの人だけにキャリアアップの道が開けていて、普通の成果しか出なかった営業従事者のキャリアの選択肢は狭かったかもしれません。けれど今は、こういったITを活用した営業支援、B2Bマーケティング、データマーケティングの推進など、営業経験者が適した新たな役割が増えてきたように思います。

1人でも多くの営業出身者が、しかもトップ営業ではない普通の営業だった人が、この新たな分野に飛び込んでステキな成果を上げられたらいいなと思っています。

もっともっと具体的なことが知りたい場合は

過去にこんな資料も公開しています。

▼キャンペーンメンバーを使ったデジタルツインのハコ作りのリアル

▼インサイドセールスが日々デジタルツインにデータを写像してくれる入力インターフェイスのリアル

▼人のオペレーションを変えるコミュニケーションに盛り込む9つの推進力

▼デジタルツインのハコ作りに役立つ、The Modelやデマンドウォーターフォールの紹介リンク