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「触れたい」

先日、祖師ヶ谷大蔵BOOKSHOP TRAVELLERで行われた「BOOKSHOP NIGHT」での演奏を、一曲だけYouTubeにアップしました。


アップしたのは「触れたい」という曲です。
演奏の前に話したことを少しだけ。

新型コロナウイルス感染症の流行が始まった頃、僕は新宿の書店で働いていた。
新宿駅はいつだって人が多くて、だから色々な演説やスピーチをしにくる人がたくさんいた。駅前では毎日のように、道を挟んだ両側で正反対の主張が叫ばれていて、その真ん中を歩いて職場に通っていた。

その当時、新宿駅で見かけたいくつかの場面。
耳を塞いで「うるさいうるさい、わー!わー!」と叫ぶおじさん。
通路で急にしゃがみ込んで泣き出してしまったおにいさん。
壁に貼ってある色々なポスターを、端から順に破いているおねえさん。
そういう人を他にも何人か見た。
きっと、今、たった今、限界がきちゃった人たち。
おじさんもおにいさんもおねえさんも、恐らく会社に行くんだろうなっていう格好をしていた。きっとこんなはずじゃなかったんだろうなって格好をしていた。きっとついさっきまで、他のみんなと同じように電車に乗って、同じように会社を目指して、いつも通りの一日を過ごすつもりでいたんだろうな、と、ただただ勝手にだけれど、そんなふうに想像してしまった。
限界きちゃうよな。きちゃうよ。しんどいもん。俺だって叫んでしまいたいし、暴れたくなってしまうし、泣きそうになってしまう時があるよ。マスクは息苦しいし、メガネも曇るし、耳も痛いし、アルコールで手も割れてるし、普通に暮らしてるだけですごくしんどいよ。マスクの下で歯食いしばって、顔がすっごく熱くなってる時あるよ。職場のレジにはビニールシートかかって、声が聞こえづらいから接客もやりにくくて、消毒とかのオペレーションも増えて、なんかずっと忙しくて、なんかずっと本調子じゃなくて、でも誰にも怒っちゃいけない感じして、どうにかなりそうだよ。だからなんか、わかるよ。耳塞いで叫んでるのも、泣き出しちゃうのも、ポスター破くのも、わかる気がするよ。わかられたくないかもしれないし、軽々しくわかった気になるのも嫌だけど、でもわかるって思っちゃうよ。自分のことだって思ってしまうし、なんかすごく苦しいよ。

なんて、勝手にすごく思っていた。

一方で。
駅を出て職場に着けば、仕事仲間とおはよう、なんて挨拶をする。
おはよう、また感染者増えてるね、いつまで続くんだろね、やってらんないね、なんて笑って言い合いながら仕事を始める。笑顔で接客をしてるみんなを見ながら、すごいな、なんて思う。
だけど、みんな笑顔で接客しててすごいけど、しっかり仕事しててすごいけど、日々くらっているキツさは、そんなに変わらないのかもしれない。
外から見える形で表れる人も、そうでない人もいるけれど、みんなそれぞれに苦しさがあって、なんて、そんなの当たり前で誰だって知ってるんだけど、知らなかったみたいな気持ちにこの時すこしなりました。


なんか思ったより長くなってしまったけれど、そういう色々を思って書いた曲です。
夜の本屋さんを真っ暗にして行うイベントで歌ったので、とても暗い映像ですが、ご視聴いただけたら嬉しいです。

次回のBOOKSHOP NIGHTは12月10日の予定です。
よろしくお願いします。

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