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【クリミナル・マインド シーズン8】おじさんファイター

「ああ、いいね——それでいい、チーズは少なめで。————一時間で帰る」
 電話を切った男がコンビニから出ようとする。年齢は五十代くらいで、ゲーム・オブ・スローンズのネッド役——ショーン・ビーンの風格にギデオン捜査官のような優しい目をした男。モッズコートを羽織って右手に持っていたのは、愛する妻を喜ばせるために用意しておいた花束だった。あとは、閑静なコンビニとなった外側のシャッターを閉めて————

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「あー! ランドさーん」リンリンと自転車のベルを鳴らして、中学生くらいの少年がたずねてきた。後ろからもう一人、ぽっちゃりした少年がついてきてる。
「よかったー! まだ開いてて」ニット帽をかぶり、赤のダウンジャケットを着た黒人の少年が言った。
「いやー、もう帰るとこだ」店主であるランドは規則的な行動を重んじるタイプだった。たとえ、売り上げになるとしても、残業はしないタイプである。
「ビリーが死んじゃうよー! お菓子、食べないと」中途半端な演技で、黒人の少年はそれらしく情に訴えた。いっぽう、ビリーというぽっちゃりした白人の少年は——黒いパーカーを着ていて、中途半端に長い金髪をしてる——どこか抜けていながらも、ランドおじさんの様子をしっかりと観察している。
「おおげさな」ランドは二人の少年を見渡しながら言った。
「僕……もう、だめ……気絶しそう」三文芝居にすらならない演技で、ぽっちゃりしたビリーはすぐ横にあるコンビニの壁に、自転車ごとよろけてみせた。
「ほら! やばいよ、低血糖だー」
 ランドは少し頬をつりあげ、鼻で笑った。
「ったく、じゃー、三〇秒だけだぞ」
「「やったー!」」
 よろけていたビリーの動きが早くなった。二人の少年は急いで目当てのお菓子を探しにいく。
「あと、一二秒だ——早くしろ!」煽ってはいるが、ランドの口調は優しかった。彼れは仕方なくレジカウンターまで行き、レジの鍵を開けた。
 ランドが「ほら」と言い、“よこしな”という合図をおくると、少年たちはお菓子と飲み物をレジに置いた。
「人命救助だね! ランドさん」身勝手な頼みをきいてくれたお礼に、黒人の少年は店主をおだててやった。さらに「勲章もらえるよ」とまで言ってやった。ビリーは相変わらず観察中。
 ランドは「調子いいこと言ってー」と言うと、黒人の少年は白い歯を見せながら笑っていた。
「ほら、帰れ」
 精算を終えた少年たちは、満足げに帰っていった。
 両頬がほんのわずかつりあがり、ランドの心は軽くなる。たとえ、本音ではなかったとしても。
 これでやっと自宅に帰れると、ランドはコンビニのドアを閉めて鍵をかけている最中に、思わぬことが起きてしまう。突然、後ろから硬いもので殴られ、後頭部にもろ受けてしまったランドはその場に倒れてしまった。パーカーのフードをかぶった体格のいい男が、倒れたランドの足をつかんで暗いコンビニの中へと急いで引きずっていく。まだ、ランドの意識はあった。痛みからの唸り声をあげつつ、レジカウンターまで引きずられたあと、殴ってきた犯人はシャッターを閉め出した。
 意識をとりもどしたランドは犯人の足首をつかみ、強力な握力と腕力をつかって床にたおす。そして、そいつの体の上にまたがり、強烈な拳をなんども振りおろす。が、犯人の男も負けてはいない。必死の抵抗でランドをふりほどき、二人はその場に立ち上がる。
 ランドはこう見えて、アマチュアの総合格闘家でもあった。だから、そう簡単にはやられない。せっかくのお花は踏まれてダメになったが、今はそれどころじゃなく、るかられるか。
 ランドが格闘家らしく構えの体勢にはいると、フードをかぶった犯人の男は自前のバールを手に持ちだした。
 まるでアクション映画のような展開だが、現実は厳しかった。アマチュアの格闘家といえでも相手は強力な武器を持っているため、腕でガードしても激痛は防げれない。その怯んだ一瞬のすきをつかれ、ランドは逆に馬乗りされてしまい、憎しみと怒りのこもった全力のパンチをもらってしまうのだった。
 それも、なんども——
 なんども。

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【見どころ要素↓】
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「闇は光が修復できないものを復活させる」
 詩人 ジョーセフ・ブロツキー

【おすすめ洋画↓】復讐つながり
『ケープ・フィアー』 
 推奨度★★★★☆

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【感情のトリガー↓】
【喜・妖】幸せに忍び寄る妖気な影
【哀・怒】復讐の被害を受ける家族
【哀】14年間溜めた復讐劇の始まり
【緊】大人になりたい少女の葛藤
【驚・哀・憎・恐・晴】不測の事態

【感想】
 ほんとはもっとあったであろうシーンを極力省き、いっさい無駄のない、必要なシーンだけ集約したような映画でしたね。二時間近くある作品にもかかわらず、あくびが出るところはなかった気がします。
 ジャンルがサイコ・スリラーですので、好き嫌いが別れるかと思いますけど、逆恨みの恐怖を味わいたい方にはおすすめですね(笑

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