(戯曲) 街などない

人物: 横子 浜子 川子 崎子/阿賀クリスティン
4人並んで椅子に座っている。
みんな、本を読んでいると思う。必死に知識を吸収している。
立って一列に並ぶ。

A 『街などない』
日本は、アメリカの51番目の州だと表現されることがある。アメリカの言いなり政治・経済・軍事・文化などから、しばしば揶揄される。そんなことあってたまるか!

B 日本は、北海道・本州・四国・九州の四島と、沖縄諸島をはじめその他無数の島々によって構成されている。竹島は韓国と、尖閣諸島は中国・台湾と、北方領土はロシアと、その領土を争っている。おまえたちには渡さない!

C わたしたちはいま、そんな島国の、世界有数の大都市である東京と、その周辺都市で構成される、“首都圏”にいる。ほかに、地方都市や田舎に住んでいる人もいる。山もたくさんある、地震もたくさん来る。ぐ~らぐらぐら、ぐりぐり!

D この島国を出て、アジアやアメリカその他の地域に暮らす人もいる。この国は狭いもんな!

A 日本には、外国人もたくさんいる。

B 日本へは、観光や仕事などで 外人がたくさん来る。

C 日本には、在留米軍があって、各地に57の専用施設、28の自衛隊との共同利用施設、119の一時利用可能施設がある。

D 日本の人口 1億2751万人

A 北海道 550万人

B 本州 1億342万人

C 四国 403万人

D 九州 1456万人

A 神奈川県民 894万人

B 在外邦人 113万人

C 外国人登録者 219万人

D 日本に住むエイリアン 55人。
平成21年10月1日現在の、統計局および入国管理局の統計。

C わたしたちは、そんな日本、の首都圏の、横浜で、、、

Aを残して、みんな座る。

A 主題。
わたしたちは、横浜市にいるが、横浜市は川崎市と、大和市・藤沢市・鎌倉市・逗子市・横須賀市に囲まれている。川崎市の向こうには、東京が、世田谷区と大田区がある。ちなみに横浜の青葉区・緑区・瀬谷区は町田市と隣接している。
わたしたちはその境界を電車で、車で、徒歩で、いつでも好きなときに跨ぐことができる。跨ぐとなにか変わるだろうか。
その線を、「ここまで川崎/ここから横浜」の境界を跨ぐのは何だ。
標識を見ながら、看板を見ながら、携帯の地図を見ながら、ビルが立つところ、煌びやかな繁華街、住宅街、畑、山、川、に惑わされず、同じ横浜市内であることをわたしは知る。では、跨ぐとなにか変わるだろうか。
横浜市内のわたし、川崎市内のわたし、わたし、きみ……。
もしも君が、目の見えない人、地図を知らない人、動物、宇宙人、であったなら……。

B、立ち上がる。

B わたしは川崎に住んでいて、終電で寝過ごしてしまったことがある。横浜市に入ってしまった。夜中、暗闇の中、がんばって歩いていたのだが、不安。わたしはタクシーを拾おうとした。タクシー!

『ごめんね、東京から来て帰るとこなんだよ。ここで乗せちゃうと地元のタクシーに怒られるから、次の拾って』

東京から来て帰るところなら、わたしの家は通り道だ。なのに、ここ横浜では東京へ帰るタクシーに乗れないと言う。……バカバカしい、タクシーの縄張りなんて。

B、座る。

A この縄張りというのが、いまいちわからないのは、それがその業界の常識であるということだ。常識はいまさら語るものではない。業界外の人間にはわからない、業界の常識、業界用語。業界内と業界外。

わたしたちはいま、4人の小さな――業界と呼ぶには小さすぎる、ほかにも無数にある小さなグループを作って……。
ここで共有されているのは、わたしたち4人が、ここの境域を巡って、主導権を巡って対立している。だが、きみにはその境域が見えるのか。わたしたちの共有する常識は、縄張りは、きみたちに見えているのか。わたしたちは、内部からきみたちに話しかける。きみたちには見えているのか。
わたしは横子、わたしは浜子、わたしは川子、わたしは崎子……

Aも座る。
みんな、並んで座っている。

横子 とりあえず、わたしの主導で、リーダーシップでいきます。異論がある人?

ほか まだ何も始まっていないので、何もわからないので、とりあえず異論はありません。

ほか わたしも。

横子 では、異論なしということで、わたしがリーダーシップをとります。

ほか (声をあわせて)はい!

横子 川子さんて(川子「はい」)いま彼氏と一緒に住んでるんですよね(川子「はい」)、どうですか?(一同、笑い)

崎子 どうですかって(一同、笑い)

川子 えー、、、普通です。

横子 普通ってなんですか?

川子 いや、、、普通ですよ。

横子 同棲してどのくらいですか?

崎子 いきなり(笑)

川子 えーと、3年になりますねー。

横子 セックスってどのくらいしてますか?

崎子 もうその話題かよ!

川子 え、言わなきゃいけないの?

横子 (急に白熱して)言ってください!

川子 えーっと、3回くらいですね

崎子 3回って月に?

横子 それって少ないって意味ですか?

崎子 なんで(笑)

横子 崎子さんも同棲してるんですよね?(崎子「はい」)崎子さんはぶっちゃけ何回するんですか?

崎子 え、月?

横子 崎子さんは同棲してどのくらいですか?

崎子 えっと30年ですね。

川子 へー。

横子 崎子さんはどのくらいやってるんですか?

崎子 いわないとだめなの?

横子 何回、月に何回、週に何回、一日に何回、1時間で何回、1秒あたり何人、自殺しますか?

崎子 わけがわからない。

横子 あなたが、週に何回も何回も、あなたのその同棲すると決めた男の……男ですよね?

崎子 そうですよ!

横子 その、数多いる男の中から選んだたった一人の男……、一人ですよね?

崎子 そうですよ!

横子 その、数多いる男の中から選んだたった一人の選ばれし男の中の男の、あなたが同棲することを選んだ男とセックスと言う、二人の人間が他人がいったいどうしてひとつになるのか、というセックスと言う、セックスセックスわたしの口から飛び出して申し訳ない(一同笑い)……申し訳ないが、そんななかあなたがそうやって二人がひとつになって気持ちいいときに……、気持ちいいんですか?

崎子 え……。

横子 いや、ぶっちゃけ、どうなんですか?

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