手刷り活版の手法とその魅力

今回は手刷り活版の手法を通して、その魅力をお伝えしようと思う。

私が手刷り活版と出会ったのは、とあるデザイン会社の社長が行っているサービスであった。その会社は私の住む県内、車で40分ほどの場所にあったため、非常に便利な場所として利用させていただいている。


活版印刷とは

三連作『片恋』解説にも書いたが、活版(凸版)印刷とは、刷る部分が盛り上がった版に紙を押し付けて印刷する方法である。
中でも文字に特化したものを活版印刷と呼ぶようだ。これについては諸説あり論議もされているらしいが、ここでは割愛する。
凸版・活版の違いについて興味のある方は、この方のブログをお読みいただければ、面白いと思う。


作品に手刷り活版印刷を使った理由

刷る部分が盛り上がった版に紙を押し付けて印刷する、と先述したとおり、活版印刷はその圧を変えることで、押し付けたときにできる紙の凹みを浅くも深くも変えられる。
それはタッチで表現を使い分ける絵描きのように、文字で様々な表現を行うことが可能なのだ。
今作『片恋』シリーズでは、紙を自身の心に見立てた。
その”心”に、思う相手への感情を『強さ』によって深さと変えて一枚一枚手摺りしたのである。

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とりわけこの『片恋-悲嘆隠せども-』では、綺麗に印刷できる紙の大きさ以上の紙を使用したため、いろいろな苦労があった。何枚失敗したかわからない。
一番強い想いを表現する本作では、裏に凹みが到達するくらいの圧をかけて印刷する必要があった。

圧をかけるには紙を用紙側にセットし(枕と呼んでいる)、その枚数で変化させるのだが、多くなると版側にある機械の跡がつく。
ならばと版側を前へせり出させると、インキが版台にまで付き、全体が黒くなってしまう。
このギリギリのラインを模索しつつ、かつ、目算でしか位置決めのできない、想定以上の大きさの用紙に刷るのは冒険であった。
おかげで、納得のいく作品となったのは非常にありがたい話だ。


活版はエモい!

活版印刷された凹みをご確認いただけるだろうか。

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凹んだ部分に光が反射し、文字が立体的に映し出される。
この境界線が我々の感情に訴えかけるもの、それは文字の美しさだ。
今回は太いボディのレトロな書体を選択したが、細いものは細いものでまた趣が深い。
大胆なものはインパクトを呼び、繊細なものはより繊細に。
感情が揺さぶられる、それが活版だ。

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↑ こちらはインクジェット印刷したものである。

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↑ こちらが活版印刷である。

このように、インキの黒さの差はあれど、平面的なインクジェットと比べて、活版はより視覚的に訴えてくるのがエモいのだ。


活版印刷の魅力が少しでも伝わったなら非常に嬉しく思う。
この、活版の持つ魅力を踏まえて、『片恋』シリーズの解説を含め再度ご高覧いただけると、また違った見え方がするのではないだろうか。


■三連作『片恋』解説
https://note.com/kaminomiki/n/n3376fe2bd435

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■2020年4月14日 神野美紀