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幽霊の声

私は毎年、夏に更新されるほぼ日の怪談を楽しみにしている(読者から実話を募り、連載している)。
それから、2chで実話として投稿された怪談も大好きだ。
いずれも「実際にありそうだ」というリアルな感触がするのが、たまらない。

霊感がないなりに、自分にもそういう体験がないかな、と思い起こすと、「幽霊の声」についてなら語れそうだ。
私は幽霊を見たりすることはできないけれど、「幽霊の声」にまつわる3つの話を、経験と伝聞で得ている。

というわけで、「幽霊の声」に関する3つのお話と、私なりの所感を書いてみた。

(1)母が介護先で聞いた声

私の母は介護の仕事をしている。
クライアントのお宅で、泊まり込みで仕事をしている。
その母親から、4年ほど前に聞いた話。

とある介護先の部屋で、母親は嫌な感じがする仏像を見つけた。
母は見えないが、嫌な予感として察知する程度はできる人で、「これは良くないな」と思っていたらしい。
母が寝室として借りることになったのは、その仏像の隣の部屋だったという。

そのお宅での深夜2時頃、母は壁を叩く音を聞いて起きた。
案の定、仏像のある部屋の壁から聴こえてくる。
母は無視して寝込むことを決めた。
昔、祖母に「こういう時は無視しろ、相手してはならない」と言われたからだそうだ(ちなみに、祖母は『見える』人だ)。

狸寝入りをしていると、今度は例の壁の方から声が聞こえてきたという。
低い男性の声で、
「うぉぉぉぁぁあああぉぉぉお、うぉぉぉあぁぁあぁおぉぉ……」
という声、「う」と「あ」の中間のような音の声が、強弱をつけて延々と。
だが、猛烈に疲れていた母親は、うるさいが無視して寝たという。

翌朝、家の人と相談して、その仏像を供養してもらって以降、音は鳴り止んだそうだ。

(2)自分が金縛りのときに聞いた声

(1)の話を聞いた時、私は「あれ?」と首をかしげた。
「その声、私も聞いたことある……」
母親の顔色が変わり、「どこで!?」と迫ってきた。
「うちで」
母が、シャレにならん、という顔をした。

当時ペーパードライバーだった私は、郵便配達員の友達を無理やり先生役にして、車の運転の練習に付き合わせていた。
配達員友は公園の駐車場で駐車の指導をしてくれたのだが、そこがやばかったらしい。

その公園での練習後の夜に、私が必ず金縛りにあっていたからだ。
3回利用して、3回ともその夜に身動きがとれなくなった。

金縛りにあう時刻は決まって午前2時頃で、左耳の中からガンガン響く野太くて低い声に起こされた(耳の外からの声ではなく、耳の中から響く声だった)。
うぉぉぉぁぁぁああぉぉぉぉ、うぉぉぁあぁぁぉぉお」
男の声がうるさいなと目がさめると、全身が動かない。

とりあえず、「手の指の先が動けば、金縛りは解ける」という知識はあったので、指に全力を込めて動かした。
体感で5分ほど格闘して、金縛りを解くと、同時に声がやんだ。
これが第1セットだった。
金縛りは解けた直後に第2セット、第3セットと続いた。
いずれも渾身の力で小指を動かし、なんとか撃破した。
金縛りになっている間は例の声が響き続けていた。 
金縛りは、あの駐車場を使った夜の恒例行事となっていた。

一方、配達員友は金縛りにはあわなかったらしい。
ただ、私が車を操作している間、強烈な頭痛に見舞われていたそうだ
私に気を遣って黙っていたとのこと。すまん。

そして、配達員友はもうひとつ、駐車場にいたお猫様の視線が気になっていたと語っていた。
私が操作する車の動きを、猫がずっと首を動かしながら追っていた姿を配達員友は見かけていて、妙に引っかかっていたらしい。
「俺らの車に何かがいたんだと思う」
お猫様は3回の練習のいずれでも、16時に決まって現れては、不思議そうに車を見ていたという。

(3)同僚が肝試しで聞いた声

3年前、前職の同僚が、中学生時代に肝試しをしたときのことを話してくれた。

当時、同僚は廃屋となっている民家へ、宵の時間帯に友達数名のグループで向かうことになった。

同僚には好きな男性がいた。
その彼が肝試しの時に「彼女ができた」とその人を連れてきたので、同僚は大変ショックを受けたという。
廃屋に向かう前、コンビニで懐中電灯などをそろえながら、彼女は自棄になっていた。

同僚のグループは廃屋に無事に着いたが、友達は玄関扉の前で躊躇して、中に入らない。
失恋のショックから「いっそのこと殺してくれ」と思っていた同僚は、
「じゃあ私が中に入る」
と言って、一人で廃屋に侵入したそうだ。
失恋ってすごい。

彼女は、廃屋の中で写メを撮りながら進んだと聞いている。
真っ暗な廃屋なのに、写メは全部真っ赤になっていたと語っていた。
外で待機している友達が電話をかけてきたので、応答しながら進んだそうだが、電話をしながら同僚は「うるせぇな」と思っていたそうだ。

うるさかったのは電話の先の友達の声ではない。
数名分の、部屋中に響く、
「うぉぉぁぁぁあああぉぉぉぉ、うぉぁぁぉおあああぁあぁおぉおぉ」
という低い声のことだった。

電話している友達に、妙な声がしていると確認をしたそうだが、
「変なことに、その声、電話の相手には聞こえてなかったんだよね」
とのことだった。

同僚はそのまま廃屋を一周し、玄関に戻った。
待機していた友達がほっとした顔で彼女を出迎えた直後、悲鳴を上げたという。
「腕に一本キズができてたの、刃物で切られたみたいに。
それで着ていたワンピースが真っ赤になってさ。
廃屋の中では全然気づかなかったんだよね、痛くもなかったし」

ちなみに、廃屋はかつて、刃物と火に絡む事件があったとされていた場所だそうだ。

話を聞き終えた私は、同僚に「声までしていたのに、建物の中は怖くなかったんですか?」と訊ねた。
同僚曰く、「失恋のショックでそれどころじゃなかった」そうで、まったく怖くなかったらしい。

失恋すげぇ、幽霊相手に無敵だな。

ある種の衝撃が私を襲ったが、波が引いた後に私はふと気付いたのだった。
「あれ? 同僚も、同じ声を聞いている」

所感

幽霊の声は、どうやら「うぉぉぉあぁぁぁぁおぉぉ」という呻き声に聞こえることが多いようだ。
母も、私も、同僚も同じような声を聞いている。
聞いた場所も年代もバラバラだけれど、怪奇現象と思われる現場で、共通する声を聞いているのは興味深い。

私たちは霊感なしの人間だったので、うめき声のように聞いているが、ひょっとしたら、霊能者や霊感がある人なら、言葉として感知できるのではと思う。
(言葉として知覚する方が怖そうだけど……)

というわけで、「う」から始まり、「あ」だの「お」だのが滑らかに続く低い呻き声が聞こえたら、幽霊がいらっしゃる、のかも知れない。
猫が喧嘩のときに出す低い唸り声を、おじさんボイスにチェンジして、少しスローモーにした感じのやつが聞こえたら、間違いない。

*   *   *

余談。
金縛りの時にこの声が聞こえたら、幽霊相手に怒ると効果的かも。
私は3回目(最後に駐車場を利用した日)の金縛りのとき、

「テメェうるっせぇんだよ!!
死んでるかもしれないけれどブッ殺すぞ!!」


と心の中でマジギレしたら、金縛りが解けた。
いや、眠いし、毎回3セットもやられると疲れるんだよね。
マジギレは幽霊も恐怖を感じるらしいので、もしよかったらお試しあれ。

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