箱の中身

  荷物が届いた。開けてみると、現れたのは片手に乗るくらいの小さな箱と数枚の手紙。手紙一枚目には
「この箱を開けると不幸になります。絶対に開けないでください」
 と書いてあり、残りのページはこれまてに箱を開けたせいで不幸になったという人々の顛末が写真付きで記されていた。中には目を覆いたくなるほど凄惨な写真もある。

 いたずらだろうか。あいにく差出人は書かれていない。
 箱は宝箱のような形をしている。怖いもの見たさで蓋を少し持ち上げてみるが、さっき見た写真を思い出しすぐにやめる。

 まさか捨てるわけにもいかないだろう。なにかの拍子に蓋が開いてしまい突如として不幸が降りかかるなんてごめんだ。となれば、肌見離さず持っておくのが一番だ。

 とりあえず蓋が空かないように、紐で固定することにした。たしか、紙紐があったはずだ。あれでグルグル巻きにすれば、ちょっとやそっとでは空かないだろう。そう思い、テーブルに箱を置いて紙紐を探す。

 紙紐は押し入れにしまい込んだ記憶がある。だが、しばらく前の事なのでどこにあるのか詳細はわからない。結果、押し入れの奥まで探すハメになってしまった。

 突然、テーブルの方からガタン、と音がした。はっとしてテーブルを見ると飼い猫がテーブルの上にいて、例の箱を前足でチョンチョンと突いている。箱は今にもテーブルの端から落ちそうになっていた。

 心臓が飛び出そうなほど高鳴り、その勢いのまま押し入れから飛び出す。すると猫は驚いたようで慌ててテーブルから飛び降りた。その時、前足が箱に当たり、ついに箱は床へと落ち、その衝撃で蓋が開いてしまった。

 とんでもない不幸が起こる。さっき見た凄惨な写真がまた頭をよぎった。それから自分に降りかかる不幸を想像する。恐ろしさのあまり体が震える。「嘘だ嘘だ」とつぶやきながら、吸い寄せられるように箱へと近づく。

 箱の中には1枚の紙が入っていた。そこには嫌に丁寧な字でこう書いてあった。

「10年後の自分へ。仕事頑張っていますか? 毎日大変だと思います。きっと友達も恋人もなく寂しい生活を送っていることでしょう。たまには、こんなドッキリがあってもいいかもね。大成功!」

 10年前の記憶が呼び起こされた。こんなくだらない遊びを思いついたのは間違いなく自分だった。「タイムカプセル!」と一人ではしゃいでいた自分を思い出す。

 過去の自分に一本取られた。なんだか無性に悔しかった。


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