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利他の可能性、そして義理人情の世界へ

前回に引き続き、NHKのETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界〜海外の知性が語る展望〜」で登壇された世界の知性へのインタビューから考えたことを書いてみます。

3人目に登壇された仏経済学者ジャック・アタリさんは、11年前の2009年の著書『危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』の中で市場のグローバル化や自由な流通による未知の感染症によるパンデミックを予想されていた方。

アタリさんは、最悪の事態を避けるために最悪の事態を予測しておいた方が良いとメッセージを発信しています。また、下記の日経の記事にもあるように、新しいテクノロジーを使って国民の管理を強める独裁主義への懸念が増大していると述べています。


先に上げたETV特集では、現在、パンデミックの中で差別や分断が以前より目立ってきていることについて言及し、

今こそ、利他主義ーAltruismーによる連帯が必要、だと。

アタリさんが述べる利他は自己犠牲的なものではく、ある意味利他主義は合理的利己主義にほかならないと言います。

他者を守ることがこそが、自分を守ることに繋がる。

「歴史を見ると人類は恐怖を感じる時にのみ大きく進化する」という繰り返しが見え、今、この状況をむしろ活かして、利他的な経済や社会の実現に向かうことの重要性を述べています。


利他的であることについては様々なメリットがあることが昨今、欧米でも注目されています。

2015年には、オーストラリア出身の哲学者、ピーター・シーガー氏が提唱する効果的な利他主義の勧めとして、『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』という本が出版(NHK出版)され、起業家たちの間で広がる寄付文化が提唱されています。

ある意味、“地球全体”という視点で行動する観点で寄付というお金の使い方を提唱し、そこに自分の幸福感に繋がるという世界があることを伝えています。

※著者のピーター・シガーのメッセージーはTEDに登壇された時の映像を是非ご覧ください。


あえて戦略的に自分への幸福感の”効果”を求める形で、利他であるということには若干の違和感を感じるところもありますが、そもそも利他であることが人間にとって幸福であるという生命としての土台の可能性には注目したいなと。

実際に、利他的な行動が自分自身の人生の幸福感に関係するデータも色々と出ています。


さて、この利他的であることは、元々日本では、日本文化の中で「義理人情」として根付いているのではないでしょうか?

実際にスタンドフォード大学でマインドフルネスを教える、スティーブンマーフィー重松先生は、著書『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』の最終章(第8章)のタイトルを「義理、人情、責任(Responsibility)」として、他者とのつながりの中で生かされていることへの”気づき”から生まれる他者への思いやりと、思いやりのある行動自体が自分自身の心の安定にも繋がる義理人情の世界を伝えています。

責任と共に、日本の文化である「義理人情」の世界が、優秀な人たちが集い個人間の競争が激しいストレスフルな環境だと言われるスタンフォード大学の学生にとって、マインドフルネスにつながる”心の救い”になっているのが面白いなと。


そして、現在のコロナへの各国の対応をみている中で興味深い記事を見つけました。

ベトナムでは、SARSと鳥インフルエンザの悪夢を経験していたこともありコロナを上手く封じ込めていると言われています。

厳格な早めのロックダウン政策が功を奏しているところもありますが、それを支えているのが、「昔の日本のような人情」だと下記の記事では書かれています。そこには物資などの買い占めもなく、“助け合い”の精神を発揮していることがコロナの封じ込めにつながっているようです。


仏経済学者ジャック・アタリさんが言う利他主義の世界はこのベトナムで繰り広げられている「昔の日本のような人情」が支えている世界なのかもしれません。

最後に、仏経済学者ジャック・アタリさんがETV特集で発信されていたメッセージを。

”パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らねばならない”

”協力は競争より価値があり、人類は一つであることを理解すべきだ”

”利他主義という理想への転換こそが人類のサバイバルへの鍵である”

このメッセージが指し示す方向性の可能性を引き続き探究していきたいと思います。


※関連書籍と動画


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