見出し画像

映画唯一の負をトヨエツが全て背負っている /【感想】『ラストレター』

岩井俊二好きなら、その好きの部分がてんこ盛りの岩井俊二映画。
高校、セーラー服、夏服で図書館、ひぐらし、中山美穂にトヨエツ。

 姉が亡くなり、姉の同窓会に出席した妹の松たか子が高校時代に姉へのラブレターを受け取っていた先輩の売れない作家福山雅治と姉になりすまして文通すると、高校時代と姉のその後が語られていくという話。
メールが一般的になった現代において「手紙」という通信手段は慎ましくスローテンポで宛先の主を想うことの大切さを教えてくれます。
日本郵便のCMかと思うほど。
 手紙のやり取りが波及していくというドライブ感は、ああ、これこれ、自分は今岩井俊二観てるなぁと懐かしい気持ちになった。
こういうところが岩井俊二は上手いですよね。

 また高校生や子供たちの自然な喋りの中にたまに見える辿々しいセリフ回しがいかにも岩井俊二演出。懐かしささえ感じる。
 しかし豊川悦司だけ妙に暑苦しく、全体のトーンからするとトヨエツのシーンが異様に生々しい。
本作は全体に“生活”の匂いがしないだけに、豊川悦司とその妻(中山美穂!)が住む薄暗い集合住宅と場末の居酒屋というのも絵的にとても対照的でした。「あいつの人生に影響を与えたか?」というセリフはこの映画ではかなり暴力的な言葉ですが、この映画唯一の負の部分をトヨエツが全て背負っていることは、ある意味卑怯な配役ですよね。それだけにこの映画におけるアンカーとしてのトヨエツの存在感は際立っていました。結局、初恋の相手だとか、好きだとか嫌いだとか、思い出だとか、そんなこと年取っても考えられるのは結局“生きる”ことに努力しなくても生きていける人間の戯言じゃないのかと。あの生々しいシーンで福山雅治が上滑りしている様は結構意地が悪い。
僕はここに岩井俊二の老成を垣間見た気がしました。
 
 しかし透明感のある淡い色彩のワンピース姿の少女二人に好意的に囲まれる福山雅治という絵柄は、岩井俊二には集英社のマーガレットコミックス的なビジュアルのフェティシズムがまだまだ全開で宿っていることも証明され、まだまだいけますよ(何が?)

 最後に軽く真相のどんでん返しもあり、ああ、自分は今、たしかに岩井俊二の映画を見たな。と実感しながらエンドロールを眺めていました。

 岩井俊二、岩井俊二と繰り返し言ってますが、岩井俊二でなければこの映画は成立しないということで、岩井俊二による岩井俊二のための岩井俊二ファンへのまごうことなき岩井俊二映画です。

鑑賞日:2020年1月20日

画像1

「Love Letter」「スワロウテイル」の岩井俊二監督が、自身の出身地・宮城を舞台に、手紙の行き違いから始まった2つの世代の男女の恋愛模様と、それぞれの心の再生と成長を描いたラブストーリー。姉・未咲の葬儀に参列した裕里は、未咲の娘・鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内状と未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるため同窓会へ行く裕里だったが、学校の人気者だった姉と勘違いされてしまう。そこで初恋の相手・鏡史郎と再会した彼女は、未咲のふりをしたまま彼と文通することに。やがて、その手紙が鮎美のもとへ届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎と未咲、そして裕里の学生時代の淡い初恋の思い出をたどりはじめる。主人公・裕里を松たか子、未咲の娘・鮎美と高校生時代の未咲を広瀬すず、鏡史郎を福山雅治、高校生時代の鏡史郎を神木隆之介がそれぞれ演じる。
公開日:2020年1月17日
2020年製作/121分/G/日本
配給:東宝


最後までお読みいただきありがとうございました。 投げ銭でご支援いただけましたらとても幸せになれそうです。