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「動物に餌を与えるひとは善人」は宮崎駿のアイコンである/【感想】『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』福田里香

 フード理論とはあらゆる物語作品での食べ物〈フード〉の扱われから、人物との関わり方によりある決まった表現に落ち着くというもの。
それらを3つに集約したのが「フード三原則」だ。

フード三原則
1 善人は、フードをおいしそうに食べる
2 正体不明者は、フードを食べない
3 悪人は、フードを粗末に扱う


 この三つだけでも「あるある」である。
本書は作品におけるフードシーン「あるある」を解説したもので、14章《動物に餌を与えるひとは善人だ。自分が食べるより先に与えるひとは、もはや聖人並みである》のジブリ映画のフード理論には特に膝を打つ。
 
 『風の谷のナウシカ』でナウシカは先にキツネリスのテトにチコの実食べさせる(風の谷の子供たちから餞別に貰った大切なものという伏線あり)。
 『もののけ姫』のアシタカは早駈けしたヤックルにすぐさま水を飲ませ、『魔女の宅急便』ではキキが黒猫ジジの食事を作り、『天空の城ラピュタ』では朝ごはんを食べる前に小鳥に餌をあげる。

“宮崎駿作品における最大のフード的特徴は、おいしそうな食べ物がいっぱい出てくるよね、といった漠然としたレベルではない。宮崎監督は「食べさせるべきひとには、ちゃんと食べさせ、心が通じ合わないひととは、決して一緒に食べさせない」という、確固としたフード文法を持つ稀有な作家なのだ。(中略)そしてこれは「動物に餌を与えるひとは善人だ」という彼流のアイコンなのである。”

 宮崎駿の卓越したアニメの表現力とジブリキャラクターの明確なルールがフードによって浮き彫りにされた素晴らしい章である。

 思えば、タランティーノの映画も同じだと思った。
パルプ・フィクション』ではサミュエル・L・ジャクソンはハンバーガーを美味しそうに食べ、直後に人を撃ち殺すけど、実は殺し屋から足を洗いたがっていたし、『イングロリアス・バスターズ』でユダヤハンターのランダ大佐はスイーツのシュトゥルーデルを美味しそうに食べるが、タバコを残りのシュトゥルーデルに押し付けて消す。
前者は〈善人は、フードを美味しそうに食べる
後者は〈悪人は、フードを粗末に扱う〉に当てはまっている!

おお、フード理論凄い!
と思ったけどタランティーノの映画『デス・プルーフInグラインドハウス』ではスタントマンマイクが美味しそうにナチョス食べてたけどサイコ野郎だった(笑)。

フードをそう扱わせて「そうきたか!」とお約束の逆張りを楽しむ上でも必読な本であった。


◆福田里香が唱える話題沸騰の「フード理論」、ついに書籍化! オノ・ナツメの小粋なイラスト50点以上収録! ◆マンガやアニメ、映画、ドラマ、CMなど、古今東西のさまざまな「画像」に、よく似たフード表現=「ステレオタイプフード」がたびたび登場する。そこには一定の法則のようなものが存在し、込められた意味がある。 そんな「ステレオタイプフード」の隠れた真相と意味を、お菓子研究家・福田里香が楽しく明快に解説してくれる、含蓄たっぷりのエッセイ集!

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ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50 
福田里香/著 オノナツメ/挿画
太田出版 ※品切
ISBN:978-4-7783-1313-5

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