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第358段 『ドストエフスキーとの59の旅』by亀山郁夫

亀山郁夫さんの『ドストエフスキーとの59の旅』最高だった。
全体に通底する感傷的に生きることへの氏の肯定感が心地よい。あまりに素晴らしくて一気に読んでしまった。ドストエフスキーとまだ出会えてない自分の人生の過去への若干の後悔と、これから出会えるという未来へのワクワクする期待感。

生きた人間の存在が、ケシ粒のように空しく感じられる空間。逆に、この空間としのぎを削って生きる小説の主人公たちの大きさ。実在の人間は名もなく死に、架空の人々の記憶は、人類の知のタンクに収められて綿々と生き続けていくという、このふしぎな矛盾。p.217

一人の人間が他の人の死を願望し、人の苦しみを黙過し、人の死を運命に向かって唆す。それが人間が人間であることの、ある意味では根源的といってもよい条件の一つなのだ。そのように考えることは、わたしの恥部であり、恥部は隠さなくてはならなかった。そして幸い、ドストエフスキーがわたしの身代わりを務めるかのように、その「根源的」な恥部をさらけだしてくれた。

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