BC6「僕のやっているバラエティープロデュースとは何か?」

[水道橋博士のメルマ旬報 vol.83 2016年4月10日発行「オトナの!キャスティング日誌」より]

皆様おはようございます。TBSテレビでバラエティプロデューサーをやっています角田陽一郎(かくたよういちろう)といいます。

自分はテレビのバラエティ番組のプロデューサーではなく、バラエティにいろいろやるという意味でバラエティプロデューサーと名乗っています。まず面白いことから始めてみる、それをテレビにするかもしれないし、イベントにするかもしれないし、映画にするかもしれないし、ビジネスモデルにするかもしれないし、書籍にするかも…。
「専門はこのジャンルだから○○だ!」と決めつけるのではなく、まずいろいろバラエティに知って、いろいろ体験しよう!そしてそれをおもしろく楽しく形にしたい!

先月末の1週間近く、東京を離れ旅をしながら、和歌山高野山、大阪、福岡、大分別府で、様々な案件を立ち上げるためのバラエティプロデュース活動をしておりました。当然その間には東京の案件も電話とメールで進めていますが。ちょっと例にあげてみると…

和歌山高野山にて、新たな宗教+芸術+エンタメの融合イベント。
大阪にて、新たな時流を作るためのアート活動。
福岡にて、ある学校の講義をリデザインして、よりおもしろくより楽しくする、講義のリビルド。
大分別府にて、新たな祭り(フェス)の創設。

今回のこの旅は、自分の仕事の進め方にとって、とてつもない新たな可能性を見つけた旅でした。
僕が普段やってるバラエティプロデュースとは、既存のイベントだったり番組だったり書籍だったりを単にプロデュースするだけではなく、むしろ昔から長くある既存の文化を、再解釈・再定義・再構成して、言うなれば昔ながらの慣習や行事に、21世紀の様々なテクノロジーと演出を混ぜ合わせて、あらたな文化活動を産み出すことなんだって理解しました。
これらの各地の案件は、僕が思いついただけの突拍子の無いアイディアもあります。東京のテレビマンの独りよがりかと心配していたのですが、むしろ各地の既存の文化の担い手の方々にご説明すると、それこそ褒められたり、賛同してくれたり、協力を約束してくれたりしました。すごく自信になり勇気付けられました。じゃんじゃん進めよう!
楽しいだけでなく、だからと言ってマジメならいいというわけでなく、ちゃんとしてるのに楽しい!集客とか売上向上というだけでなく、その地域だからこそやることに意味のあるコンテンツ。
それを産み出すことが僕のやりたい、そして僕が得意なバラエティプロデュースなんだって気付かされました。

情報革命が進む中、20世紀の大量消費社会から21世紀は少量共鳴社会が訪れつつあります。情報革命により人間の生き方も一変します。
情報革命とは言うなれば、情報を手に入れる困難さが限りなく簡単になったということです。以前ならその情報を手に入れる技術こそが求められたのでした。そしてそれを知ってる・知らないという尺度が人の価値の判断基準でした。知っていること=知識の量が求められたのです。
しかし今は知らなければスマホで検索すれば良いのです。こんなにも知識を手に入れることが簡単になったのならば、我々はむしろその手に入れた知識が本当に正しいかどうかを自分で判断できる知性が求められているのです。20世紀の大量生産・大量広告・大量消費というマス=大衆の時代は「よくわからない人にも売っちゃえ!」「よくわからないけど流行っているから買っちゃえ!」という話です。それは消費者の知性をバカにした(低く見積もった)行為です。
これからの21世紀の未来は適量生産・適量宣伝・適量消費という、知性を持った個人が欲欲しいモノだけを欲しい分だけ手に入れる時代なのです。
これからの少量共鳴社会は、価値観が変わります。

1.お金より時間が価値になる、資本主義から時本主義へ
「自分の時間を何をするために使ったか?」そして「その時間がその人にとってどんな経験になったか?」という尺度が新たな価値を生みます。

2.「ひとりひとりの心に、どのくらい響いたか?」
視聴率や市場占有率などのどれだけの人数が触れたかより、個々人それぞれへの影響力指数が新たな尺度になります。

3.年代別・年収別マーケティング等が無力化します。個人のそれぞれの趣味趣向が社会や市場を動かすようになり、データ等では計れない魅力あるコンテンツの提供が求められます。


どことどこが統合して『業界第○位に!』『シェアアップ!』『ブランド力強化!』みたいな話って、買う側からしたら選べる選択が減るだけで、長い目で見ると結局その商材やその業界そのものの魅力が減るだけではないでしょうか。例えば携帯電話も、以前のいろんな機種があってバラエティに富んでいた時の方が、普段の会話の中で携帯電話の話で盛り上がる機会が今よりも何倍もあった気がします。「おれはパナのP」だとか、「auのインフォバーかっこいいよね」等々。でも今やスマホの機種の話をしてる人見たことない、せいぜいiPhoneかアンドロイドかを話すくらい…。シェア争いに明け暮れて、合併して自分たちがその業界を寡占すれば、業界首位になれたとしても、その業界自体の魅力が無くなっちゃったらそもそもビジネスとしても意味ないんじゃないでしょうか。コンビニの種類もどんどん合併して、今や山手線ゲームが出来ないくらいに減ってしまいました。

山手線ゲームが出来ないジャンルは結局衰退します。いろいろあるから意味があるのです。いろんな人がいるから楽しいのです。それが多様性であり、僕が言うところのバラエティなのです。
バラエティプロデュースとは、多視点で判断し行動を最適化する、簡単に言えば“いろいろやってみてからいろいろ考える”=「バラエティ的思考」により、広告・メディア・コンテンツの総合プロデュースすることです。

今までが「好きなことを仕事にしたい」だったとしたら、これからは「好きなことを仕事にしないと生きていけない」に変わってくるということ。ここ数年どの人と話しても、それに“気づいてる人”と、“気づいてない人”とに二極化してるように感じられて仕方ありません。それはむしろ年代だったり、性別だったり、地域性などではなく、“気づいているか”と“気づいていないか?”の違いなだけ。世代・性別・職種・学歴・偏差値等のレッテルで人を選別することにもはや意味がないのです。
さらに厳密に言えば、気づいてるのに、気づくと今までやってきた自分の生き方を否定されているようで、“気づいていないふりをする人”が、実は社会の中では一番多いように思います。僕も含めて自戒を込めて大企業に勤めてる人とかは特に顕著です。もしかしたら気づくだけの洞察力はあるんだけど、それを否定して、なんとか既存のビジネスで生きながらえよう!と自分たちを騙しているのです。多分そういう人は、キツイこと言えば、近い将来死に絶えると思います。
でも、好きなことを仕事にするしかない、って社会はものすごく素晴らしい未来だと思うのです。だったらさっさとそっちにシフトチェンジした方がよいんじゃないでしょうか?

僕はバラエティプロデュースをしている中で、それこそいろんな方々とあらゆる案件、未来の企画のお話をたくさんします。先日、尊敬するクリエイターのご自宅にお伺いして、お話をしていたら、その方がこんなことをおっしゃっていました。

①好きなもので売れるもの
②好きなもので売れないもの
③嫌いなもので売れるもの

④嫌いなもので売れないもの

④は論外だけど、①が勿論いいけど、③よりも②でありたいと。好きなものしか作らないと。好きなことしかやらないと。
この意見に僕はものすごく共感します。特に年々歳を重ねるごとにその思いは強くなります。歳食うごとにすごくすごくやりたいことが溢れてきます!
なんていうかいい成績取っていい結果を残そうとあくせくと悪戦苦闘してた若い頃に比べて、むしろ成績とか結果よりも大事なことを歳取って見つけた気がするのです。そして、その大事なことを丁寧にやってると、すると結果とか成績が、結局付いてきます。自分を認められようとしてる時分には、なかなか認められないとでもいうか。

とかなんとか思っていたら、やりたいプロジェクト、書きたい作品、実現できそうな企画が、100個以上は優にあるな。どんどんやらないと、間に合わん!
まあ若い時分、今までテレビのフレームの中であぐらをかいてたから、これからかなりの勢いでぶっとばしますか。
という意味で、もう仕事なのか趣味なのか人生なのかよくわかりません(笑)。ただひとつひとつを丁寧にカタチにしたいです。いやー、歳とるのも悪くない。
読んでいただきありがとうございました!

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