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#007 『もえぎ草子』(3) ~読者は無力~

Radiotalk『架空の本屋ラジオ』
#007 『もえぎ草子』(3) ~読者は無力~

『架空の本屋ラジオ』~~~第……七回?
いらっしゃいませ、ごきげんよう。えまこです。

引き続き、『もえぎ草子』のご紹介をしていきます。
過去二回の配信では『もえぎ草子』の内容をチラチラっと、お知らせしてまいりました。
平安時代を舞台にしています。
『枕草子』が随所にちりばめられ、キャラクターとして清少納言さんも登場します。
主人公の萌黄(もえぎ)ちゃん、12歳の女の子が、なかなか厳しい境遇でどうにかして頑張って生きていくお話です。

その萌黄ちゃんの周りに常に大事なアイテムとして役割を果たす、そういうものとして登場するのが『紙』……ペーパー、和紙ですね。
この、これらについてお話してまいりました、はい。
ネタバレをしないようにっていうなかなか難しい配慮のもと、突っ込んだ紹介ができずにもだもだしていますが、お話の後半のほうにちょっと、触れていきたいと思います。はい。

萌黄ちゃんが苦しい境遇に置かれるとか、つらい道を歩くみたいなことをずっと言ってるので、お話の印象が悪くなっていやしないかという心配がちょっと生じてきたんですけれども。
確かに、正直ですね、著者の久保田先生が萌黄ちゃん、主人公に与える台本はすごくシビアだなぁ、っていう印象はあります。はい。
平安時代の、この時代の身分差による理不尽な目に遭う、っていうようなこと。
その身分差の中でも自分は低い身分として生まれついた、っていう生まれつき持っていた環境による、最初から植わさってる……植えられている、なんでしょう、あきらめのような気持ち。
そういうものも、感じてしまうようなところがある。はい。

萌黄ちゃんっていう子が、卑屈な子ではないんですね。
決してこう、ズケズケ前に出るタイプでもなくって、どちらかというと大人しく控えめな、優しい女の子という感じですけど。
でも……ここで、やっぱり悲しいことがあったら嘆いたりっていうのはあるけれども、いつまでもグズグズとはしていないで……
今ここにあるもの・自分の手の内に残されたもので、どうにかしてやっていかなきゃいけないんだっていうふうに、自分でちゃんと自覚をすることのできる。
そういう意味ではなかなか聡明なお嬢さんだなという感じがします。

誤解を受けて働いていた大内裏の下働きの部署を出ることになってしまった萌黄ちゃんですが、彼女に不安を感じるというか、目が離せない・放っておけないっていう気持ちに常にさせられるっていうのは、頼れる大人との縁がとても薄い子だなっていうところに起因すると思います。
そういう意味では、わずか12歳の女の子なんだけれど、常に一人ぼっちの感じがするんです。
頼れる先輩とか、あと同じ部署で働いている人たちとか。
再会することになる幼なじみの男の子、お庭で働いている男の子とかも出てきて、とっても気を許せる相手っていうのもできるんですけど。
どうしてもこう、萌黄ちゃんの一人ぼっちの孤独な感じの心を、またその孤独であることの事実を救ってくれる人が、どうも近くにいる気がしない。
そういうハラハラがあります。

かといって、読者は本当に無力で、読んでることしかできない、当ったり前なんですけど。
こう、目の前で、こんな……こんな目に遭っている女の子に手を差し伸べることができないこのもどかしさ。
そういうものに、結構、始終読者はさいなまれながら、読書を進めていくことになります。はい。
なんかね、可愛らしくて放っておけない感じっていうのはあるんですね。

そんな萌黄ちゃんが、大内裏を出されて、町でさまようことになったとき、出会う人がいます、が。
すんごいしたたかな女性と出会います。
この方は紅葉(もみじ)さんというお名前で。
ちょっと萌黄ちゃんと名前の近い、響きが近いというか。
作中でも「親子みたいじゃないか」っていうようなところがあるんですけど。
大人の女性です。
自分の才能・才覚で、芸事を披露してお金をいただいて、それでその日のごはんを食べているっていう、そういうたくましい生き方をしている女性です。
萌黄ちゃんのもともとの出身が、内裏・大内裏の周辺ではなく、庶民の・町の中だったとはいえ、たぶん紅葉さんの生き方っていうのは身近に見てきたものでもなかったでしょう。
なので彼女にとってはやはり未知の体験っていうことになります。
しばらくその、紅葉さんにくっついて、どうやって生きていくかっていうことを模索するという場面が続きます。

ただ、この紅葉さんも、大人の人ですけど。
彼女にしばらく寄り添って暮らす大人の人ですけど。
だから「安心だ」って、「やーっと大人の人に出会うことができた」って、「これで頼れる相手ができたからもう萌黄ちゃんは大丈夫だね」っていうふうな気持ちにはならないです。
この、この人大丈夫なのか、こんな危うい生き方、こんな危うい考え方をしていて……
なんかね、ばれなきゃいいの精神みたいなのがあるんですよ。
そこがたくましいんですけどね、たぶんね。
こういう生き方を女一人でできているっていうのは、すごい、まぁ、一種の強さですよね。
すごいことだなと思います。はい。

そんな紅葉さんとの出会いで、萌黄ちゃんは今までにやったことのない生き方、暮らし方、お金の稼ぎ方、ごはんの、食べるためにどうしたらいいかっていうことを試していくようになります。
そういう流れで、彼女も自分の力で生きていく、なんかこう、手段を試すっていうことの強さを少しずつ身に着けるようになる。
習うより慣れろの感じで、現場に放り出されたような感じがありますけど。
なので、台本の厳しさっていう印象はまったくこれで変わらないんですが(笑
でも萌黄ちゃんはそれに対して淡々と頑張れる子っていうので……
ほっそりと頼りない足で歩いているように見えて、でもこの子が心折れることはまぁなかろう、っていうような不思議な、ぎりぎり最低ラインの安心感みたいなものはあったような気がします。

この萌黄ちゃんを、やっぱりいろんな意味で助けることになるのは『紙』の存在です。はい。
紙を集めて使って、これでまた新しくお金を得る方法っていうのを考え付きます。

これも、やっぱり紙の価値っていうのが現代と違うので、「ああなるほど、『こういうものが売れると思う』っていうふうになるんだ」っていうのも、なかなか面白かったですね。
やっぱり、現代のような手の込んだ、機械でじゃないとできないような技術っていうのがないので、すごく、面白がってもらえそうな仕組みっていうのがシンプルなんですけど。
そこに、シンプルなそこの答えに至ったときに、なんかこう、すっきりと、晴れ晴れとした気持ちにちょっとなりました。
そうやって少しずつ少しずつ、自分の生きる道を切り開いていく、萌黄ちゃんです。はい。

萌黄ちゃんの、まぁお友達っていっていいでしょうか、小竹丸(こたけまる)くんっていう男の子がいますけど。
彼は内裏・大内裏のお庭で働いている男の子です。
女房さん方に「あんなお花を持ってきてちょうだい」とか言われたら調達してくるとか、お庭の植木の世話みたいなことをしてるのかなという。
お父さんと一緒にそうしてお庭に住んでいます。

その彼が、萌黄ちゃんがまだ大内裏の下働きをしていた頃に一緒に仲良くなって、ある程度の時間を過ごすんですけど、そうしているうちにやりたいことを見つけて、夢を見つけます。
で、その夢を叶えるためにやっぱりお金が必要だっていうことになるんですけど。
この小竹丸くんも身分でいうと、もう下のほうの、庶民の人っていうことになります。
なので、やっぱりまとまったお金を今持っているわけではない、稼がなきゃいけないっていうので、エライ人たちの気まぐれに付き合わされるっていう目に遭います。
でもそれに付き合うとご褒美がもらえるので、そうしたら夢を叶えることにかなり近づくっていう。

このエピソードがやっぱり結構つらくって。
小竹丸くんはだから、大変真剣ですよ、自分の夢のためなので。
なんですけど、それを仕組んだエライ人たちが、彼の夢を結果的に踏みにじるようなかたちに、彼が夢のためにしてきた努力を無にしてしまうような事件が起きます。
これはもう、もう、見ていて本当に……憤りを感じるというか。
上の、エライ方々にとっては、お遊びだったりちょっとからかっているってふうだったりするんですけど。
下々の人たちっていうのはそれで人生が変わってしまうんですよね。
そういう厳しさも目をそらさないで書いてある、そういうお話なんです。

なので、主人公の女の子が、主人公特権でキラキラーッとなんとかなるっていう話ではないんですよ。
『自分の持てるものでどうにかする』っていうことを頑張って生きていく、そういう少女のお話なんです。はい。

まだ、続きます。

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