憧れは理解から1番遠いと、時を経て理解した檸檬の頃の思ひ出はほろほろ
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憧れは理解から1番遠いと、時を経て理解した檸檬の頃の思ひ出はほろほろ

星友

シン・iMacがカラフルで可愛らしいなと眺めていたら、この林檎のロゴマークを初めて見た中学時代の記憶が曖昧さの真綿に包まれ蘇って来た。1998年、ノストラダムスの大予言の終末論すら入り込む余地なしの狭い視野で、硝子のハートをいっちょ前に内包し密やかにパンクしている気でいた14歳。麗しいベルサイユのばらの世界観は、きっと何処かで現実と地続きに存在していると信じていた私は、あるひとりの不思議な魅力を放つ少女と出会う。彼女の部屋にはスケルトンiMacブルー・グリーンカラー。ガール・ミーツ・ガール夜露死苦、儚くて眩しかった半目の日々。

入学と同時にテニス部に入部してはみたけれど、当時ハスキー目の声だった私は、ハイトーンボイスの女子たちに一向に馴染めず、暫く明日はないっすと励んだ挙げ句、通過儀礼みたいなこわい先輩呼び出しをきっかけに心の中の何かが停止し退部するに至る。傷心の帰り道、セーラー服の袖を肘までまくり細く真っ白な両手に軍手をはめて空き缶のゴミ箱を漁っている彼女と目が合った。驚く私に『時間ある?手伝って。』と声をかけると、黙々と作業を続けながら『懸賞のシール集めてるの。』と楽しそうに笑う。何だかよくわからないままに熱意に感心した私は一緒に任務を遂行し、終了する頃には明日の作戦会議をしていた。

自分だけの秘密基地みたいな気持ちを打ち明け合う内に、彼女の視線を通して映る世界は何よりも特別に感じられ、凛とした開拓者の様に危なっかしくも豊かな好奇心は止め処なく溢れた。部屋に招かれたある日、水槽みたいなきれいな箱のような何かを目の当たりにする。それは、想像の無機質さと違いキャラ立ちした可愛さがあって、アダムとイヴの林檎の印が付いていた。彼女は慣れた手つきでキーボードを打ちながらHPの作り方を教えてくれた。交換日記で内緒話を共有するように、パスワードという秘密めいた響きにいちいちときめいた。

あっという間に卒業が近づき、毎日過ごした彼女とは進学先が違い、次第に会わなくなった。そんなことを予想していたのかは分からないけれど、卒業式の帰り道、忘れられない事をしよう!と懸賞好きの彼女が当てたOasisのライブチケットを本当に行きたい人にプレゼントする。という今考えると謎すぎるミッションを執り行った。最寄り駅で『Oasisチケット差し上げます♡』と書いたスケッチブックを掲げて2人で改札前に立ち、無事Oasisフリークの自称楽器屋店員のお兄さんに贈呈した。あの高揚感は未だに憶えている。

今なら分かる。私は、どうしようもない程に彼女に憧れていたんだ。思い出されるのは暗黒の感情が殆どのあの頃。未来も霧の中に隠れ得体の知れない不安で胸いっぱいだった私が夢中で追いかけた理想の少女は、いつもあっけらかんとケラケラ笑っていた。勇者みたいな彼女にいつも笑顔でいて欲しくて、自分の中のパンドラの箱も躊躇なく開けてなけなしの希望を使ってでも面白い人に成りたいと真剣に思っていた。無謀で無邪気な情熱の価値なんて全く気にも止めず、理解していなかった。ありあまる純粋さも今となっては記憶の隅に追いやり過ぎて探せない。

前を向きたい思いとは裏腹に、進めなくなる時がやっぱりあって、生きていると降り積もる個人的歴史の中の後悔や諦めを持ったまま心を自由にすることはとてもエネルギーを使う。久々心が踊った虹色のiMacに購買意欲が湧く理由は、いつの間にか何処かに置きっ放しの開かずの扉を開く鍵は、実は直ぐ側にあるって内心気がついているからかも知れない。彼女は元気にしているかな。

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星友
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