見出し画像

【演劇】セチュアンの善人(劇団俳優座)

 2024年9月21日(日)、俳優座劇場で、劇団俳優座の『セチュアンの善人』を観劇しました。記録を残します。

■はじめに

 『セチュアンの善人』は、ベルトルト・ブレヒト(1898~1956)の作品です。私は、これまで「ブレヒト」の名前は聞いていたのですが、作品を観るのは、今回が初めてでした。
 また、私は観劇するとき、本で調べることがあります。その中の1つが、春風社から出版されている『エッセンシャル・シアター 西洋演劇史入門』です。今回は、この本からの引用も含むと思いますし、感想よりメモが多くなってしまうような気がします。

■あらすじ

人間が人間を搾取する架空の町セチュアン。
そこに住む男娼のシェン・テ(森山智寛)は、神様に一晩の宿を提供し、そのお礼にちょっとしたお金を手にいれる。シェン・テはそのお金で小さな店を開くと、噂を聞きつけた知人や親戚が店に押し寄せ、居候。困ったシェン・テは架空の人物、従兄のシュイ・タに変装。優しいシェン・テがこさえる問題を、時折現れる従兄のシュイ・タが冷静に解決していくのだが…。

劇団俳優座のHPより。

 インターネットを検索すると、セチュアンを、中国の四川と訳しているページもありました。架空の町の設定ではありますが、中国の町をイメージしている部分もあるようです。
 シェン・テは、通常、女性が演じる娼婦のようですが、本作では、森山智寛さんが演じる男娼とされていました。森山さんが、シェン・テとシュイ・タを、一人二役演じます。
 また、特に後半は、もともとのブレヒトの戯曲から大きく改変されていたようです。アフタートークで、演出の田中壮太郎さんが話されていました。こうした演出(変更点)に着目するのも面白いかもしれません。

■メモと感想

(1)原理主義的作品

 私が本作を観た一番の感想は、悪い意味ではなく「原理主義的作品だなぁ。」ということです。

 人が善く、みんなの要望を断りきれない人。対照的に、合理的な考えで経営を拡大していく人。そして、神様たち。
 資本主義の波に乗り、拡大していくお店。従業員との間に発生する問題。また、2つの人格を持つことになったシェン・テは、内面的問題にも直面します。

 登場人物、話の流れともに、すごくシンプルに作られていて、問題点を突き詰めて行くように感じる部分がありました。それぞれが何かの象徴であると捉えることも出来るかもしれません。そして、個人的には、こうしたシンプルなつくりを、自分は好きなように思います。

(2)ブレヒトについて

 Wikipediaによると、ブレヒト(1898~1956)は、ドイツの劇作家、詩人、演出家とあります。
 メモを書きだすとキリがなさそうなので、手元の『エッセンシャル・シアター 西洋演劇史入門』から、自分の問題意識に関わる部分を一箇所だけ引用します。

観客が自分自身で批判的判断をせずに受け身的に流されてしまうほど圧倒的な共感的反応を引き出すような演劇では駄目だということである。<中略>彼は観客にもっと積極的、批判的に見ることを勧め、彼らの上演への関わりを変えたかったのである。

『エッセンシャル・シアター 西洋演劇史入門』274ページより。

 私の問題意識としては、①観劇は読書より受け身的になりがちな気がするという点と、②(読書についてもそうなのですが、あまりのめりこむのではなく)作品との距離感をもう少し取りたいという点があります。

 ブレヒトは、もっと進んでいて、観客が作品と距離をもって、作品を批判的に観て、劇場の外で問題を解決することも念頭においていたようです。こうした彼の考え方は、「マルクス主義」「異化効果」「第四の壁」など、もっと学ぶ必要がありますし、それこそ批判的に捉えて考えてみる必要もあると思います。長くなりそうですし、メモの要素が強くなりそうなので、本稿では、これ以上深く立ち入らないようにします。

(3)社会人として働く身から考えて

 シェン・テの店が拡大していくなか、社会人として働いている自分の立場から振り返り、「こういうことは、自分の職場や社会環境でもあるなぁ。」と考えさせられる場面がいくつか(いくつも?)ありました。

 例えば、1つの部署に沢山の人は置けないこと、真面目に働いている人は追い出しにくいこと、同じ業務を繰り返すだけではなく生産性を向上させて行かなければならないこと、自分を売り込むことが必要になること、などなどです。

 こうした労働問題は、ブレヒトの生きた時代だけでなく、現代においても起こっていますし、環境問題なども含め、「資本主義の限界」という切り口で現代でも語られています。
 詳しくは書きませんが、終盤は、登場人物たちの台詞の中に、現代の問題も織り交ぜられていました。そして、3人の神様たちが、そうした問題に、どのように判断をし、どのようなコメントを出すのかという点も、見どころだったように思います。

(4)作品としての感想

 最期になってしまいましたが、作品としての感想を記載します。
 本公演では、桐朋学園芸術短期大学の大学生も参加し、若手からベテランの方(※表現が上手くなくてすみません。)まで、幅広い年齢層の役者の方々で演じられ、賑やかでした。
 また、主人公のシェン・テが、シュイ・タというもう一人を演じる(別人格を持つ)ことから、少し主人公と距離を置いて作品を観たような気がします。これも、ブレヒトの狙った効果でしょうか。
 ブレヒトという人物は、自分(私)にとって、少し面白い人物のように思われ、興味がわきました。

■最後に

 記事を振り返ってみて、今回は、ブレヒトがどんな人か、作品・作風など含め、初めて知ることも多く、少し尻切れトンボのようになったように思います。反省点です。ここは、今後の学びで補っていきたいです。

 そして、最後になりましたが、冒頭の画像は「コーヒー」で検索し(※シェン・テのお店です)、Kanaさんの作品を使用させて頂きました。ありがとうございます。

 本日は、以上です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?