中学生団員 28

そこそこ有名な進学校だった。

生徒たちは中学受験のため、小学生の頃から放課後は遊ぶことなく毎日進学塾へいき、夜遅くまで勉強し、休日に至っては朝から晩までずっと塾の中に籠って勉強させられていた。



俺は親に言われてしぶしぶ中学受験しただけで大して勉強もせず毎日放課後も6時くらいまで遊んでいたから、当然のようにA試験B試験と落ちてC試験でまぐれで入学できただけであったが、他の生徒たちはずっと勉強してきただけあって、本当に勉強が良くできた。



ただ、勉強が出きることと頭の良さ、知識の豊富さはまた別である。


俺は一応大人だけれども、今も中学受験をする小学生の指導をする前は軽く予習をしたり、なんなら解答を見ながらでないと指導できない。

それはそれで俺に問題があるが、ただつまりは、中学受験のために覚える知識は大人になって生きていく上で必要ないということだ。進学校の生徒は進学校に入るための知識だけを詰め込まされていただけで、それと頭の良さは関係ない。

そもそも、本当に頭が良かったら、6年間も男子校に入ろうなんて思わない。


そんなわけで、彼らは勉強のスペシャリストではあるが、笑いのセンスは皆無だし、缶詰の開け方も栓抜きの使い方も知らないし、勉強以外の知識が全くといっていいほどなかった。


特に、性の知識に乏しく、入学したての頃、遠足か何かで列になって歩いていたときに、ある生徒が「ずっとこすって、こすつりつづけていると、出る。」と射精のシステムを自慢げに話していて、それを聞いた生徒が「すげー!お前ってやっぱり何でも知ってるな!!」と目を輝かせて感心していた。


と、書いている俺も俺で、実は性の知識が乏しかった。



俺の通っていた小学校は、どちらかというとガラが悪めというか、街中でエアガンの撃ち合いをしてたり、その気になりやすいクラスメイトをおだてて6000円くらいする巨大なエアガンをノリで買わせたり、放課後になると体育倉庫の屋根によじ登ってそこをアジトとしそこから通行人に向かってエアガンを乱射するなど、主にエアガンを使用した悪さが横行している不良小学生の溜まり場だった。




しかし、その割に性に関しては何故かみんな潔癖で、一時期俺が不良小学生グループのリーダーに気に入られて同級生なのにパシリにされるという歪んだ友情関係で結ばれ毎日その子の家に遊びにいってた時期も、たまたまついていたテレビで水戸黄門の再放送をやっていて由美かおるの入浴シーンが流れると、「あっ!エロいやつだ!」と全員顔を下に向けて見ないようにしていた。
それくらい貞操観念が高かった。




小6のとき、男子と女子が別々の教室に行かされ、そこで性教育の授業があった。

五十代くらいのT先生が、男性の身体で精子が作られ、女性の身体に卵子があり、精子と卵子が合体して受精すると子供ができる、ということを説明したあと、受精の瞬間の卵子のビデオを流して「これは貴重な映像だぞー」と言いながらみんなに見せた。


しかしながら俺は、そしてみんなもおそらく同じ疑問を持っていたと思われるが、男性の身体に精子があって女性の身体に卵子があることまではわかったが、それがどうやってくっつくのか、そのシステムが全くわからなかった。

まるで、右の箱にいた鳩が布をかけて外すと左の箱に移動しているマジックのような、Mr.マリック、もしくはセロにしかできないことのような、どんなトリックを使えばそんなことができるのかという不可能なことに思えた。セロって今何してるんだろう。髪型がピアノマンに似ていた。




俺が頭のなかでパニック状態になっていたとき、同級生の中野くんが手を挙げて、

「受精っていうのは、どうやってするんですか?」

と質問した。

俺は、そしておそらく他のみんなも、「そうそう!よくぞ聞いてくれた!」と思った。


するとT先生は、にやけながら

「もう~、知ってるくせに~!」

とだけ言って、答えてくれなかった。


中野くんは「いや、本当に知らないんですけど、あの、」と困惑していた。俺も困惑した。



中学生になり、初めてAVを観たとき、その謎が数年越しに判明した。

そのときの驚きは、磯野貴理子が磯野貴理に改名したときの驚きの比ではない。


俺は、目の前の画面で行われている行為を観て、いやらしい気持ちになどならず、むしろ驚き、感動、

「ハッ!その手があったか!!」

と、これまでずっと謎だった難問が、まさかこんなシンプルな方法で、完全なる盲点、点と点が繋がった、そうか、片方が突起を持ち片方が穴を持っている理由が、はぁーなるほど!初めてそんなことしようとした生物って凄いな!だってさ、本能でじゃれ合うとかキスだとかある程度のところまでいくのはわかるけど、何かの弾みで挿入されたときに「あっ、ごめんごめん、あっ、」みたいな、で、その後あれはなかったことにしてお互い振る舞うみたいな感じになるであろうに、すげーな、とか、

受精のシステムに快感を付随させて自ら行うよう仕向けているシステムの狡猾さというか、その行為のシンプルさと合わせて、改めて生物は神様が製造したロボットなのではないかと思わされ、そこにも驚きや恐怖すら覚えた。


磯野貴理が磯野貴理子に名前を戻したときの驚きすら、あの日の驚きは越えない。






ちなみに全然関係ない話だが、全く別の日の授業でT先生が

「円における半径と面積の関係は何でしょう?」

と質問したとき、中野くんが手を挙げて、

「愛し合う夫と妻」と答えた。

生徒たちはみんな爆笑した。


中野くんはよく授業中にそうやってボケていたし、T先生もいつも「しょうがないなー」って感じでみんなと一緒に笑っていた。


ところが、その日のT先生は、中野くんの答えを聞くなり

「ふざけんじゃねーバカヤロー!」

と真っ赤な顔になって怒鳴り、ブチギレながら中野くんの身体を引きずって教室の外へ連れ出した。

廊下から、何かをしらの体罰の音と、中野くんの

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

という涙ながらの叫び声だけが響き渡った。


たぶん、あの日T先生は、前日に嫁に逃げられていたのではないだろうか、と俺は今でも思っている。

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一応、劇団です。主宰の「団長」、雑事の「団員」の二人と、デザイン担当の「デザ員」の3人で構成されています。

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