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『芸能人の写真を勝手にツイートするのはNG?』|平林弁護士がアドバイス!SNS法律相談所(2015.6.10)

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※掲載内容は、Webメディア「kakeru」での公開当時のもの(2015.6.10)のものとなっております。ご了承ください。

こんにちは、平林健吾です。2004年から弁護士をしています。現在は、共同経営しているシティライツ法律事務所で、主にIT業界やエンターテインメント業界のお客様にリーガルサービスを提供しています。山と映画とお鮨が好きです。

「炎上」「ソシャハラ」「情報流出」「プライバシーの侵害」…みなさんが普段使っているTwitterやFacebook、LINEでSNSのトラブルが増えています。この連載ではよくあるSNS上のトラブルを取り上げ、何が問題なのか、どう気をつければいいのかを弁護士の立場から解説します!

相談者 Iさん (高校生)

数ヶ月前のことです。渋谷で友だちと買い物をしていた時に、アイドルのNさんを見かけたんです。
大ファンだったのですごく嬉しくて、思わずスマホで写真を撮影してしまいました!興奮が冷めず、誰かに自慢したくてそのままTwitterに投稿しようとしたんです。

そしたら、一緒にいた友だちに「芸能人でしょ?ツイートしていいの?」と言われ、ハッと我にかえりました…結局、ツイートはしなかったのですが、芸能人の写真を勝手にツイートするのはよくないことなんでしょうか。。

大好きな芸能人に会ったらやっぱり友だちやフォロワーに自慢したいです!芸能人(有名人)を見かけたときに気をつけるポイントを教えてください!

※SNS上のよくあるトラブルを、相談がきた仮定で演出しています。

最近、HKT48の指原莉乃さんを無断で撮影した写真のツイートが、同じように話題になっていましたね。

そういうお仕事だから嫌とは思わないよーん。気持ちいいかどうかでいわれたら気持ち良くはないけど、指原のこと知らなかったら撮らないし、大分から出てきて、ちょっとずつそういう風になってるのは素直に嬉しいよ(— 指原 莉乃 (@345__chan) 2015, 5月 4) https://t.co/shdlcU5G6D

大好きな芸能人を見かけたら、うれしくて、思わず写真を撮ったり、撮った写真をツイートしたりしたくなってしまう気持ちも分かります。
では、街中で無断で芸能人の写真を撮影したり、撮影した写真をツイートすると、法律上、何か問題があるでしょうか。

このような場合に、まず配慮しなければならないのは肖像権です。

肖像権というのは、人が、みだりに自分の容ぼうを撮影されたり、公表されたりしない権利のことです。この権利は、芸能人に限らず、すべての人に認められています。肖像権を侵害すると不法行為(民法709条)となり、損害賠償責任を負ったりします。

もっとも、無断で人の容ぼうを撮影したからといって、常に肖像権の侵害になってしまうわけではありません。

芸能人は肖像権侵害が認められにくい?

では、どのような場合に肖像権の侵害になるのかというと、

・撮影された人の社会的地位(政治家などの公人か、芸能人などの著名人か、あるいは一般人か)

・撮影された人の活動内容(何をしているところだったのか)

・撮影の場所(公共の場所か、あるいはプライベートな場所か)

・撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性(撮影する必要があったのか)

など様々な点を考慮したうえで、問題になっている撮影行為が、社会生活を送るうえで人々が我慢すべき限度(受忍限度)を超えている(と裁判官が判断する)場合に、肖像権の侵害になるというのが、現在の日本の裁判所の考え方です(「和歌山毒カレー事件報道事件」最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決)。

そして、芸能人は、人気を得るために名前や容ぼうを世間に積極的に広めているので、一般人に比べて我慢すべきレベル(受忍限度)が高く、肖像権侵害が認められにくいと考えられています(「おニャン子事件」東京高裁平成 3 年 9 月 26 日判決、「マーク・レスター事件」東京地裁昭和51年6月29日判決など)。先ほどのツイートで指原さんがおっしゃっている「そういうお仕事だから」という部分が裁判でも考慮されるわけです。

そうすると、世間にも広く知られた芸能人を街中で偶然見かけた時に、ツイートして自慢しようと思って、その芸能人の普段の様子をこっそり撮影し、写真をツイートしても、受忍限度の範囲内として肖像権侵害にはならないと思います。

※これは、「街中で」、「ツイートして自慢するために」、「普段の様子を」、「こっそり」撮影した場合についての見解であって、撮影場所、撮影目的、芸能人の様子、撮影方法などが変われば、結論が変わる場合もあります。また、写真と一緒に、プライバシー情報をツイートしてしまったりすると、別途、プライバシー権侵害の問題が発生することはあり得ます。

パブリシティ権を知っておこう

また芸能人には、パブリシティ権といって、自分の肖像などの商業的な価値(パブリシティ)を勝手に利用されない権利が認められることがあります。たとえば、自分のお店の広告に無断で著名な芸能人の写真を載せ、その芸能人のパブリシティを利用して広告の効果を高めようとすると、パブリシティ権の侵害になります。

しかし、街中で偶然見かけた芸能人の普段の様子を撮影し、その写真をツイートしただけでは、その芸能人のパブリシティを利用したとはいえないため、パブリシティ権の侵害にはなりません。

法律に抵触しないとしても…

とはいえ、たとえ芸能人であっても、プライベートでは世間から放っておいてもらいたいという人が多いのではないでしょうか。街中で偶然芸能人を見かけても、そっとしておいてあげるというのが、大人のマナーなのかなと思います。

また、芸能人本人がツイートされた写真を見つけて不快感を表明したりすると、世間の人々がこれに便乗して一斉に非難してきたり(炎上)、ひどい場合には、身元が特定されてあなたの個人情報がネット上に晒されるといった被害にあうこともあります。どういう結果を招くおそれがあるか、よく考えてからツイートするようにしましょう。





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