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【パレスチナの歳時記】ラマダン、祈りの時を告げる仕事 inガザ

 5月23日、イスラム教徒の人にとって一年で最も神聖な時期であるラマダンが終わりました。ラマダンは、断食と普段以上の善行、欲の節制が求められる期間を指します。普段より神聖な気持ちになるとか、食のありがたみが感じられるといいます。一方でお祭りのような雰囲気もあり、夜になると普段よりハイテンションな人が多いとも(ラマダンとは?詳しくはこちらを参照↓)。

その後の3日間はラマダン明けのイードという祝日で、おめでたいので花火が上がったり贈り物をしたりして過ごします(今年はどうなのでしょうか。トルコの友人は祝日ではあったが親戚の家には行けなかったと言っていました)。

さて、クリスマスのサンタさんのように、ラマダンにも特別な職業があるそうなんです。今回はガザからそんな仕事をご紹介したいと思います。

ラマダンの伝統:夜明けを告げる歌 アブー・アトワンの物語

アブー・アトワンさんが起き出すのはまだ夜も明けやらぬ3時。奥さんを起こして、断食前最後の食事であるスフールの準備をお願いすると、衣装を身に纏い、通りに出て歌と太鼓で人々に夜明けの祈りの時間を告げる。彼はムサハラティー。ラマダン期間中ボランティアで毎日歌い、太鼓を鳴らし、人々が祈りに向かえるよう働いているのだ。ガザのラッファ地区を、気心の知れた幼馴染のパートナーとタッグを組んで練り歩く。皆遅くまで家族との時間を過ごすため夜中じゅう起きている人も多いが、通りには人の姿はない。
 ムサハラティー(彼の職業の名前)の台詞はこうだ:
「時間だ、目を覚ませ。早く起きてアッラーをたたえよ。ラマダンが今年もやってきた。許しの一月が」※許しを乞うのではなく他人を許すという意味。
 彼はこう歌いながら家々を回り子どもたちに呼びかける。目覚まし時計のような役割であるため、彼の声は近所中に響き渡る。

 34歳で美容師の彼には3人の子どもがいる。小さな家に兄の家族も共に暮らしていて、彼自身の5人の家族と障害を持つ母親、それに兄の家族の7人を合わせた13人を彼の稼ぎだけで生活させなければならない。
 「こういう話を聞くと、私のような人間が大変な生活のなかで人を楽しませる仕事をすることに(しかも無償で)びっくりするかもしれないね。でも私は一度だってお金の為にと思ったことはない。刺繍されたこの衣装を着て、太鼓をたたいて練り歩く。その日の役目が終わったとき、この町を制覇したような気分になるんだ。ヒーローみたいなね。~子供の頃、私はこの人たちの声を聴くのが楽しみだった。母親が食事を準備していて、一緒に食卓を囲んで祈りの時間を過ごした記憶はこの声とともにあるんだ」
 彼の子供時代から数十年、スマートフォンの普及などで祈りの時間に目覚めることは簡単になった。けれど、人々はムサハラティーの声を待っている。子供たちはバルコニーに出て、ムサハラティーに続いて歌う。

「美しいラマダンのお月様。今年も健康で祝福されますように」

ラマダンも残りわずかになると、人々は戸を開けてムサハラティーにお礼や心づけをしたりもする。受け取った香水やコーランは彼の宝物だ。

「一番覚えているエピソードは・・・黒くて大きな犬に追いかけられたこと笑 大の男2人が太鼓を置いて逃げだしたからね」

アラブの伝統文化を受け継ぐため、2011年から活動を続ける彼が唯一ムサハラティーを断念したのは2014年。イスラエルが大規模なガザ空爆を仕掛け、皆外出が出来なかった時だ。イスラム教徒の人は断食はしていたものの、それぞれに身内の不幸が相次ぎ、ラマダンの神聖な雰囲気や感覚はなかったと話す。今年はCovid-19の影響があるなかでのラマダンだ。ムサハラティーの歌にのせてコロナへの注意喚起をしながら、彼は早朝の町を歩く。

「人生最後の日まで生きることを楽しまないと。死を待つような生き方をして何になるのかな?」

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