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留年確定した俺が敗者だと思ったら…。短編小説『ルーザーは誰なのか』

※有料記事ですが最後まで読めます。


「ハァッ、ハッ、ハ!」

 腕を速く振ると速く走れると、小学校の時に教わった記憶がある。
 先生は十中八九、速く走れるようになるために俺にそう教えてくれたんだろうな。
 けどさ、先生は

「どうして速く走らなければならないのか」

 までは教えてくれなかった。
 それはきっと、もっと成長してから自分で気付くことなんだろう。
 俺は今、そう確信している。

 先生、俺、高校生になってみてわかったよ。

 なんで速く走らなきゃいけないのかってさ。

 ……。

 遅刻かましまくって留年しないように速く走らなきゃいけないんだよなそうなんだよな!?


 あ、どうも。

 これ以上遅刻重ねると留年しちゃう俺です。
 本日も安定の寝坊で、目下のところ腕どころか腿も限界まですばやく上げ下げさせて速く走ろうとがんばってるよっ!

 ……同級生を「先輩」って呼ぶのだけはマジ勘弁だぞ。


       *


 校門が見えてきた。

 あそこさえ超えれば……

 ってところで、生活指導の田端が校門を閉め始めた。
 ヤツはこちらを向いて俺の姿を視認、

「フッ」

 と鼻で笑った。

 タバタアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!

 田端にはこれまで散々悔しい思いをさせられてきた。
 時間はまだ1分程度余裕があるってのに、田端は校門を閉じやがる。
 俺が抗議しても


「俺の時計は正確なんだ」


 と、得意げに言いながら自分の頭をツンツンと指差す。
 テメェの脳内時計で計ってんのかよ!
 今日も田畑時計で計って校門を閉じてんだろうよ。

 くっそぉぉぉぉ!

 あと少し。

 あと、少し!

 

 ……が、


 校門は閉じられた。
 鉄扉がこっち側とあっち側に分けている。
 こっち側が敗者なのは言うまでもない。

「おうおう、沢木、残念だったなー」

 田端が軽い口調で声をかけてきた。
 こんなちんけな門で隔ててるだけなのに、向こう側が遠く、とても遠くに感じるぜ…。
 ……と、


「え」

「……っ!?」


 俺と田畑はその轟音と衝撃に声を失った。

 爆ぜた。

 何が?


 学校が、だ。


 悲鳴と黒煙と炎が校舎内から同時にあがる。
 校舎と呼ぶには、もう形が崩れすぎてムリがあるけど。
 校門の手前で、俺は唖然としたまま燃え盛る校舎を見ていた。
 何が起こったかは分からない。
 田端が慌ててスマホを持ち出して何かを怒鳴っている。
 門を隔ててこっち側と向こう側。
 俺は敗者だったのに、今は――。


※あとがき
『不幸な門』というお題を元にして書いた即興小説を、加筆修正した作品です。
今回のお題は僕向きだったかなと。
人生何が起きるか分からないですからね。そういう心構えで心躍ることをモットーに生きましょ。

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