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小説は書き出しが命 名作の書き出しまとめ

「小説は書き出しが命」と言われるように、小説は書き出しが重要です。読者に長い長い文章の連なりを読んでもらえるかは、書き出しが面白いかどうかにかかっています。
今回は文豪から現代の作家まで、名作たちの書き出しをまとめていきます。お気に入りの書き出しを見つけてみて下さい。

『吾輩は猫である』夏目漱石

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

言わずと知れた、日本で一番有名な書き出しだと思います。
「吾輩」という仰々しい一人称の後に「猫」という可愛らしい動物が続くギャップ。そして「『吾輩』は猫『である』」と偉そうに一人語りを始めたかと思ったら、「名前はまだ無い」と、生き物として一番最初に授けられるはずの名前がないことを告白している拍子抜け感。
僅か16文字で、ぐわんぐわんと読み手の感情を揺れ動かしてくれています。

『雪国』川端康成

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

これも有名な書き出しですね。真っ暗なトンネルを抜けて視界が抜けたら、真っ白な雪が広がっていたという視覚的な美しさが際立っています。これから始まる小説に期待感が煽られますね。

『走れメロス』太宰治

メロスは激怒した。

唐突に始まって読者を置き去りにしてしまう疾走感。「メロスって誰?」「なんで激怒してんの?」と、こっちが激怒してしまうかのような説明のなさに、ついつい先を読んでしまう力があります。

太宰治の小説の書き出しは、他にも魅力的なものがたくさんあります。

『女生徒』太宰治

あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い。

眼を覚ました時の気持ちを「面白い」と表現する巧みさに、冒頭から釘付けになります。そして、この書き出しを読んだだけで、この文章が女性のものだと感じることができます。

『女生徒』は、ある女子学生の何気ない一日をただ書き連ねた日記風の小説です。読者に、平凡な女の子の一日を読んでみたいと思わせるには、よほど惹きつける書き出しにしなければなりません。

朝の目覚めを「面白い」と表現する感覚を持つ女の子の日記、一度読んでみたくなりますよね。

『恥』太宰治

菊子さん。恥をかいちゃったわよ。

こちらは女性の言葉で書かれているので、やっぱり女性の発言だとわかります。一体どんな恥をかいてしまったのか、ちゃんと聞いてあげようと思いますよね。自然と腰を据えてじっくり聞く体勢になってしまいます。

『風の又三郎』宮沢賢治

どっどど どどうど どどうど どどう

宮沢賢治の小説はオリジナルのオノマトペ(擬音語)が魅力的です。『風の又三郎』では書き出しから「どっどど どどうど」と、お得意のオノマトペで始まっています。風の音を「どっどど」と表現する宮沢賢治の手腕が光っていますね。

『桜の樹の下には』梶井基次郎

桜の樹の下には屍体が埋まっている!

衝撃的な書き出しですね。衝撃的ではあるんですが、妙な納得感も同時に感じられる不思議な一節です。この書き出しを読んだ瞬間に、この小説は絶対に面白いと確信できる強さがあります。個人的に大好きな書き出しです。

『風の歌を聴け』村上春樹

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」

村上春樹のデビュー作の書き出しです。なんてキザな文章なんでしょう。突然「完璧な文章など存在しない」と言われても、そんなこと考えたことなかったからいまいちピンとこない。更に「完璧な絶望が存在しないように」と続いていますが、例えを出してくれてありがたいけど、完璧な絶望についても考えたことがなかったので、やっぱりこの例えもピンとこない。とってもぼやっとしている文章です。まさに「完璧でない文章」です。

だけどなんだか惹きつけられます。彼の小説を色々読んでいくうちに、ここに深い意味が込められているのかもしれない、と何度も立ち返らせてくれます。

『コインロッカーベイビーズ』村上龍

女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を口に含んだ。

これはとてもびっくりしちゃう書き出しですよね。この書き出しを二度読まず、すんなり次の文章に移行できる人はいないんじゃないでしょうか。

「赤ん坊の腹を押」すなんて、乱暴なことするな〜って思った矢先、「性器を口に含んだ」って。この人どうしちゃったの?って驚かされます。「舐めた」じゃなくて「含んだ」なのが、様子が頭に浮かんでしまいます。女は誰なのか、なぜ性器を口に含んだのか、この先の文章を読んで解決しないと眠れません。

『重力ピエロ伊坂幸太郎

春が2階から落ちてきた。

なんて詩的な書き出しでしょうか。でも読み進めていくと、春とは季節の春ではなくて、弟の名前であることがわかります。でもその弟が2階から落ちてきたとはどういうことなのか。実際に読んで確認するしかありませんね。

『火花』又吉直樹

大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。

カッコ良すぎますね。威勢の良い夏祭りの雰囲気が、夏の暑さと共に地響きのように伝わってきます。

今や文筆家としての印象が強い又吉さんですが、「芸人が本を出した」という印象が強かった処女作の『火花』で、この書き出し。これは只者ではないぞと世間に思わせた、素晴らしい書き出しだと思います。

『サラバ』西加奈子

僕はこの世界に、左足から登場した。

単なる逆子で生まれただけなのに、「左足から登場した」って書かれると、まるで意志があって一歩踏み出したかのような印象を持ちますね。この主人公が、自分の意見を持つ理知的な人だってことが伝わります。

西加奈子さんの小説は、印象的な書き出しが多いです。

『推し、燃ゆ』宇佐見りん

推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。

唐突に物語が始まっているのに世界にグッと引き寄せられ、更にこの後続く文章への期待感が高まる書き出しです。

2020年の芥川賞をかっさらった現役女子大生。この書き出しは後世に残るものになるでしょう。


以上数々の名作から書き出しのみ抜粋しました。僕が好きな小説が並んでしまったのでだいぶ偏りがあるのですが、どれも書き出しだけでなく中身も面白いので是非読んでみてください。好きな書き出しの小説があったらコメントで教えてくれれば嬉しいです。このnoteに加筆するかもしれません。

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