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SX Designの時代 | ポスト・スマホ時代のUX Design

ポスト・スマホ時代としてのARの波は、すぐそこまで来ている。

今年末から来年頭にかけて発売されるnrealやSpectacles 3は、一般消費者が日常的にARグラスを使い始める時代まであと数歩のところまで来たことを感じさせる。

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さらには以下記事のようにAppleもARグラスの開発にかなり本腰を入れてきている。


このペースで行けば自分の楽観シナリオの読みでは、来年末ごろにはイノベーター層が普段使いしたくなるようなデバイスが発表されると思っている。

ではそうしたARグラスが一般普及した時代に、デザイナーは、更にはARサービスを活用する企業は何を意識するべきか。

それは「SX Design」だと自分は考えている。

この記事ではSX Designとは何か、SX Designにおいて扱っていくべき変化について書いていこうと思う。

◆ SX Designとは ~デジタルにおける従来のUXデザインとの比較~

SX Designとは、
Spatial Experience Design (※)を略した言葉であり、
デジタル・アナログを横断して空間・五感を含む体験設計を行うことであり、
デジタルにおけるUX Designの範囲を広げる考え方だ。

従来のスマホ・PCにおけるFlat Experience Design(≒従来のUX Design)が左下だとすれば、SX Designは右上の象限に位置する。

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横軸:デジタル・アナログの体験をOR関係ではなくAND関係で設計できるかの度合い

スマホやPCなどの平面的なデジタルプロダクトの体験デザインにおいては、デジタルとアナログの体験双方をシームレスにデザインすることを標榜してはいるものの現実的にはデジタル(例. WEBサイト)とアナログ(例. 店舗)の体験設計は全く異なるチームが担当しており、分断されることが一般的だ。

しかし、ARにおいては実際的に現実空間をユーザーは歩き回り、現実空間を下地としながら情報を摂取する。したがってデジタル・アナログを横断した体験設計が必要不可欠となる。


縦軸:スクリーン外の空間・五感体験をデザインする度合い

平面的なデジタルプロダクトにおいては、ユーザーが向ける視線や操作する対象はスクリーン内に閉じていた。

しかし、ARにおいては空間全てがスクリーン領域になり、かつ操作も奥行きを持ったものになる。ある情報をユーザーに提示する際に空間のどの位置に配置するのか、また操作はジェスチャー・声・視線などどれが最適で、どのように空間的なインタラクションを提供するのか、をAR時代の体験デザインにおいては考える必要がある。

更には、ARは感覚拡張技術なので、五感をはじめとする人間の様々な感覚に訴えていくことも重要。視覚や聴覚だけでなく、手触りや匂い、場合によっては味わいなどの体験も含めて体験設計をすることが求められる。

※ Spatial Experience Designは建築の世界で空間デザインの文脈で使われている単語だが、ここでは別の意味で用いている。(もちろん建築の考え方はとても重要なので大いに参考にしている。)

そうしたSpatial Experience Designの重要性が高まることで、左下の領域に留まっていたデジタルのUX Designが下の破線の範囲まで広がると考えている。

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◆ SX Designにおいて意識するべき3つの変化

インターフェイスがARなどの空間的なものに移行する中でSX Designの考えが必要なることは上記に述べた通りだが、
それではARに移行することでユーザーの行為にどういった変化が生じるのか。

その変化を抑えることでSX Designで取り扱うべき問題が明らかになるはずだ。

ARへの移行に伴うユーザー行為の変化は大きく以下の3つの領域に整理できる。

【3つの変化】
1. Inputの仕方
2. Outputの受け取り方
3. 取得データ


Inputの仕方の変化:SX時代の操作は声・動・脈

空間コンピューティング時代になると、当たり前だがタッチスクリーンが消滅する。

そのとき中心的な操作手法になるのが、VUI(声)・ジェスチャー(動)・コンテキスト(脈)の3つだ。

そしてそれら3つの操作手法は、「行為の能動性」と「手触り感の必要性」の掛け算によって最適な手法が選択されるはず。

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このあたりの話は過去に以下記事で詳しく述べたので、興味がある人は是非。


Outputの受け取り方の変化:

ARデバイスが普及することで、ユーザーが情報を取得する方法も以下のように大きく変化する。


1. アプリの概念がなくなる(アプリレスになる)

ARが普及するとアプリの概念がなくなる、少なくともユーザーは意識しなくなると考えている。

ARは基本的には視界情報をインプットにして、それに即した情報を消費するデバイスだが、あるモノを見たときにそれに最適なアプリをその場で見つけるというのはユーザーにとって難易度が高く煩わしい。

そこで視覚情報や音声情報をインプットにして最適なアプリの結果を瞬時に返すようにGoogleやデバイス企業は仕掛けてくるはずだ。

4Gによって従来はインストール前提だった動画のストリーミングが可能になり、GoogleのStadiaによってハイエンドゲームのストリーミングも可能になろうとしている中で、5Gが普及すればアプリのストリーミングサービスも当然出てくるはず。

見たものや発話内容をクエリとして、Google検索の結果のようにアプリのアウトプットが返ってくる世界は近いうちに来ると思う。


2. 現実世界とデジタル情報が対応する

これは当たり前だが、かなり重要な変化。

テクノロジーの進化の流れは基本的にはデジタル世界とフィジカル世界をいかに近づけるかという試行の営み。

それがいま、画像認識の進化やカメラの爆発的な増加、IoTによる各種センシングにより今までにないスピードで現実世界とデジタル世界が接近しており、その対応関係を最終的にアウトプットするものとしてARが利用される。

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3. 絶えず情報にアクセスし続ける

例えば以下動画のようにデート中に話題や相手の感情推測など、絶えず正解情報にアクセスすることを可能にするのがAR技術。

そこではスマホ以上にデジタル疲れの問題が深刻化するため、SX Designにおいて重要なテーマになってくるはず。


4. 音を伴う体験がデフォルトになる

動画や音楽サービスを除くスマホやPCの多くのアプリにおいて音は副次的な情報になっている。

しかしAirpodsの登場で音楽体験を前提にしたアプリがいくつも出たように、ARデバイスが普及し長い時間耳の横に装着されることになると、音がサービス体験の重要な一部になるはずだ。


取得データの変化:世界を記録し続ける時代

ARデバイスがスマホやPCと違うのは、ユーザーの生活の大部分の時間でカメラが外界に向いていることだ。

これによりミクロな観点ではユーザーに状況や行為などのコンテキストに応じた情報提示が可能になり、マクロな観点では世界がより多くの「目」によって記録されるため、完全なデジタルコピーが生成されてMirror Worldの形成につながっていく。

サービスをつくる側の立場でいうと、デバイスやOSを握る企業が上記のコンテキスト情報をどれくらいサービス側に開放するかによってARサービスの進化の方向性やつくり手としてやるべきことは変わってくる。

まとめ

SX Designは自分の中でもまだ半煮えの状態で、まだしっかりと定義やビジョン提示ができているわけではないのですが、とても重要な概念なのでこの記事をきっかけに色々な人と議論ができればいいなと思い公開してみました。

ぜひこういうテーマで議論を一緒にしたいという方は以下Twitterアカウントに連絡をもらえれば嬉しいです。

また、MESONは「Spatial Computing時代のユースケースとUXをつくる」をテーマに掲げており、様々なアセットを持つパートナー企業と組んでARサービスを日々考えつくっています。

そうした未来の標準を作る仕事に共感して一緒に働いてくれるメンバー、プロジェクトをご一緒できる会社を募集中なのでぜひ会社サイトかTwitterからご連絡いただければと思います。


AIやXRなどの先端テック、プロダクト戦略などについてのトレンド解説や考察をTwitterで日々発信しています。 👉 https://twitter.com/kajikent