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「役者は1日にしてならず」平泉成編

昭和の中期では、年功序列は当たり前でしたし、学歴によって選別され職場に配置されるということも当たり前だったような気がします。平泉成は高校卒業後すぐに就職した職場で、半年程度しか働かないで辞職してしまいました。なぜならここでは大学をでていなければ出世はできまい、と気付いたからだった。

似たようなことを思った経験がありました。
私も高卒です。
就職して2年経過したのちに同い年の短大卒の後輩が入社。4年経過したのちに同い年の大学卒の後輩が入社して来ました。当時は夏・冬のボーナスが出ていましたので6月と12月はウキウキしたものでしたが、その金額の差に愕然としました。
一年目の連中のほうが私より多かった。偶然知ったことでしたが…。
そこで、ハタと気付いてみると、先輩方を見てみても、大卒の方が先に役職を貰えていた。

そうだったのかと。社会の仕組みはこうなっていたのかと、気付いた時にはどうしようもありません。
テレビで活躍しているあの人もこの人も、気付いてみればどこかしらの大学に入学している。ビートたけしもタモリも所ジョージも…「大学で出会って結成しました」というプロフィールもよく目にしました。

高校にいたとき、大学に行くことの意味に気づいていませんでした。大学で特にやりたい事がないし、家庭環境的にも難しいだろうと勝手に判断していました。勉強もどちらかと言えば嫌いでした。周りに大学進学者が少なかったこともあるかもしれません。
今となっては、大学は、特に理由が無ければ行くべきだと強く思います。

余談が長くなりましたが。
平泉成のインタビューに戻りましょう、かなり上司からもヤイヤイ言われたようですが、後腐れなく辞めてしまいます。ずいぶん判断が早いな、すごいなと思いました。実はこのとき、会社の寮で相部屋していた人物が市川雷蔵の知り合いで、「役者になりたいなら紹介しよう」と言ってくれていたことはかなり幸運だったのではないか?と思いました。
ここまでの8名分のインタビューの中でも、ずいぶん飛び級的な入り方をしているように感じます。

血縁関係もないのに、あのトップスターの【お声のかかっている存在】になれた、というのはどう考えてもラッキー。入社半年で辞めはしたものの、その会社の寮で市川雷蔵の知人に出逢ったのですから、その会社へ入社したことも、人生的には無意味ではなかったことになってしまいます。面白いですね。

この市川雷蔵さんとの思い出が、私にとっては、半分は妬みのような気持ちもあるのですが、それ以上に、スターって凄いなと思えるエピソードでした。

いきなり大映ニューフェイス合格からの芸能人生スタートですから、半年の養成期間があったとはいえ、右も左も分からない状態だったのだろうと、ここまでの8名のインタビューを読んでくると想像がつきます。

前出の前田吟(誕生日は約4ヶ月違い)のパターンでは、幾つもの養成所で演技というものを積極的に教えてもらって職業俳優になる自覚を持って活動していた。とにかく生きるために必死だった。どんな役でもお金になるならやらせてもらっていた。
平泉成はそこまでの必死さはなかったものの、大映ニューフェイスといういきなりの出世コースに乗れたものの、あまり大きな役はもらえない。
それで、みんなが嫌がって手をつけないような役を積極的にやるようにした。端役でも、一生懸命やることによって次に繋げようとしている意識が感じられました。
これは前田吟の話にも共通する面ですけれども、とにかくどんな役でもやらせてもらう!という気概のあることが道を拓くんだという気はしますね。

セリフのないエキストラでも、俳優課へ行って台本を読み、どんな場面なのか考えて行動するよう教えてくれたのは市川雷蔵だった。
増村保造監督と勝新太郎の考え方が違っていた現場での経験談も興味深かった。時代劇の斬られ役をしていた時の、雷蔵と勝新の刀捌きの違いについても読んでいて面白かった。

多くの役を演じつつ、平泉成は自然と脇役の面白さに目覚める。
更に大映が倒産してフリーの役者になったり、映画の時代が終わってテレビの時代になったり。

「なんとか腕を磨いて、それで子供の学費を払おう。そういう発想が一番強かった。
自分は高校しか出ていなかったけど、子供にはせめて大学くらいは出してやりたくてね。
俳優というのを『自分が選んだ仕事』と考えた時に、その仕事で家族を養えなくてどうするんだというのがありましたね。」

…近藤正臣、前田吟、平泉成。夏八木勲のインタビューにもありました「家族を引き連れて、食っていかなければならない」…
この意識があることが、仕事への熱量に多いに関係してくるわけで、これは世間一般にもきっと言えると思うんです。彼らが子育て真っ最中、20代30代の頃の日本の景気が良かったのは、みんな子育てで金が要る、しゃにむにがむしゃらに仕事してたお父さんがいた。
この本の表紙にはモノクロの俳優たちの写真が裏表紙までビッシリと並べられているんですが、今までは個々人の俳優に見えていたけれど、なんだか【お父さんたち】のように見えてきました。
家族が出来て、子供が居る。責任があって、嫌でも働かなきゃならない、それは自由を制限されて苦しいことかもしれないけど、それこそが日本経済を勢いづかせてくれていたのではないか?と思えます。

平泉成が、脇として巧みに主人公を引き立たせていた【平泉成なりの緻密な計算】の書かれている部分も素晴らしくて、視聴者の気持ちが主役とシンクロするように仕向けながらも自分を目立たせない悪役としての画面への映り方が書かれていて眼を見張りました。
なるほど…!!!と思わず息を飲みました。
挙げて下さってる例が分かりやす過ぎて感動しました。

「台本を受け取って、最初は『どうしたらいいんだ、分からない』と思うこともありますよ。それで分かるまで時間の限り練習をします。百回でも二百回でもセリフを喋ってね。それだけやってると、何か見つかるんですよ。セリフを一回で覚えた、はいOKというわけにはいかないんですよね。」

寺山修司監督の作品に出た時の話もあったり。
カルチャーショックを受けたそうです。
そして、
志村喬、小栗一也、東野英治郎、左右田一平、大滝秀治という錚々たる大御所の名前が出てきた時にはときめきました!
彼らに影響を受けたり、自分の立ち位置を確認したりしていたこと。諸先輩がたの役への取り組み方を見て自分が恥ずかしく感じる経験、そんな話にとても感動しました。

そして、段々と歳下と仕事することの方が多くなってくる訳ですが、

「今の若い人たちも上手いですよ」
と言い切ってくれるところがいいじゃないですか。

平泉成は、末吉という芸人さんなどにモノマネをされていたりもしますが、モノマネして誰もが知ってて笑えるほどに知名度が高いのって、凄いことだと思います。
今回も非常に面白かったですし、いろいろなことを思いました。

Spotifyで、私の番組を探して聴きに来てください。

https://open.spotify.com/show/7sTmJ80ECcap2RTzn2IeTq?si=p-Lf6PQfS32nC7yTrSb44w

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