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むずかしくないプロダクトデザインのはなし① なじむか目立つか。

先日友人と話をしていると、デザインって一般の方にわかりにくくなってて、色々誤解が生まれてしまっているんじゃない?というトピックになり、それがどうやらずっと頭のなかでモヤモヤしてたので、ちょっと新しいコラムを書いてみようと思います。

ずばり、「むずかしくないプロダクトデザインのはなし。」


コラムの目的は、デザイン業界以外の人にデザインを知ってもらうこと。

このコラムは、デザイナー以外の人にプロダクトデザインのことを正しく理解してもらおうという目的を持ったコラムです。現役のデザイナーからすると「何をいまさら」と思われるくらいの内容かも知れませんが、上記にもあるとおり、「業界が勝手に盛り上がって深めて、一般層がそこについていけていない」という状況を目の当たりにしたので、こういうスタンスのコラムがあってもいいんじゃないかと思い書くことにしました。

そもそもプロダクトデザインってなに?

プロダクトデザインという言葉が、今ではちょっとずつ認知はされてきていますが、いまだに何の仕事なのか説明が必要な時がほとんどです。グラフィックデザインやファッションデザイン、インテリアデザイン、建築などは多数の人が想像できると思いますが、プロダクトデザインはわからないという人も多いかと思います。そうした誤解をまず解きます。

プロダクトデザインとは何かを完結に言うと、「商品のデザイン」です。この商品には、パッケージデザインや最近はアプリなども含まれているようですが、正しい定義上はアプリ等はデジタルデザイン(ユーザーインターフェースデザイン)と区分けられています。商品という定義上このあたりは人によって認識が違うという曖昧さはありますが、ポスターなどはグラフィックデザインという領域になります。ポスターもお金を払って購入する、いわば商品ではありますが、視覚情報による価値提供なので教育の分野が違います。アプリも同様に、商品ではありますが視覚情報やそれを操作する操作感のデザインであるため、教育現場ではプロダクトデザインとは分けられています。まずここは混同しないようにする方がいいと思います。

また商品デザインから一歩踏み込んで、家電製品や器、家具などの工場や職人によって生産される物自体のデザインを工業デザイン(インダストリアルデザイン)といいます。工業デザインはプロダクトデザインという定義の中に存在します。車はトランスポーテーションデザインという枠組みとして、プロダクトデザインの中に含まれます。その二つは同じ教育課程上に存在しますが、実際は全然違うデザインのスキルや知識を必要とします。

家電製品の工業デザイナーが車(乗り物)をデザインすると、全然違うアプローチになると思いますし、カーデザイナーが家具や雑貨をデザインすると、それを専門にしている方とは全然違うアプローチになります。このあたりも曖昧さはありますが、良し悪しは受け手次第ですので黙認されているという感じです。ただ、アプリをデザインする人が設計した家に住みたいかというとそれは結構難しいと思いますし、カーデザイナーが考えるウェブサイトのデザインってあまり想像がつきません。そうした超横断的なことは結構難しいという状況です。漠然と引かれたラインで区切られており、その隣くらいの分野では仕事をするというマルチプレーヤーが最近は増えてきたように思います。建築家やインテリアデザイナーは家具や雑貨など、家の中に置くものをデザインしたりというのは結構一般的なイメージだと思います。

という私も、家電製品や日用品、雑貨、文具、乗り物、アクセサリーなどの工業デザインをしつつ、それに付帯するロゴマーク、カタログ、パッケージなど領域はだいぶ広くなってきました。現場がこういう状態なので、本来であれば教育課程もそのように複合的にデザインを教える、あるいはカテゴリーの再定義が必要かも知れませんが、今はそうなっていないためこのようにまず書きました。

本日のお題は「そのデザインはなじむか、目立つか」

第一回目のコラムですが、普段プロダクトデザインをする上で、どういうことを考えながらデザインしているかを簡単に綴っていこうと思います。

何かをデザインする時、私はそれが置かれる環境に対して、その物がまず印象としてどのようにしておくべきか。ということを考えます。その「しておくべき」は道理上正しいかどうかという純粋なものもあれば、クライアントがブランドを持っている場合、そのブランドとしてそれはどのように考えておくべきか。という視点になったりもします。その一番簡単な質問として、「今からデザインするものは、それが置かれるものとして、なじむか目立つか」という二択としてまず考えます。今日はそのあたりを少しお話します。

空間になじむためには。

例えば部屋の多くは、四角く区切られ、壁もまっすぐ。天井もまっすぐな物が多いと思います。ヨーロッパの古い建物とかに行くと天井が丸みを帯びていたりもしますが、今は日本の部屋のお話としてまず書いていきます。

なじむとはどういうことでしょうか。違和感が無かったり、そこに溶け込んでいたり、フィットしていたりという言葉が出てくると思いますが、なじんでいるというのは反発していないということだと思います。つまり、このお題「空間になじむ」ためには、その空間に反発しないようにする。そのためにはどうするかというと、部屋を構成する要素で物をデザインすれば、馴染みます。

たとえば限りなく平面でできた洗濯機。空間に馴染んでいます。

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Brand/Panasonic

洗面所等に置くPETの容器。

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Brand/無印良品

同じような意図の外付けHDDなんてのもあります。

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Brand/Lacie   Design/Neil Poulton

これらのデザインは、それが置かれる空間の要素を借りてデザインしていて、そこにすっきり収まったときに何とも言えない心地よさをユーザーに提供します。これは外観の印象ではなく、空間と視覚的に、または物理的に調和している状態にデザインするため、このようになるという道理が働いています。今は形状の話をしていますが、壁紙が白い部屋だと白いものは溶け込みます。あまりないかも知れませんが、青い壁の部屋だと同じような青色の物は溶け込みます。

空間に目立つには。

では逆に部屋で目立つ存在にしようと思うとどうするべきかというと、さっきの逆を行います。四角い部屋に動植物に見られる有機的な形を持ち込めばそれは目立ちます(アクセントになります)。より具体的な動植物のイメージの物は空間の中ではとても目立ちます。

例えばこんなのを家に置くと、目立ちますよね。おさるが電球を持っているような照明器具。

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Brand/Seletti  Design/MArcantonio RAimondi MAlerba

風に揺れる帽子のような印象的なカーブを持っている照明器具。

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Brand/Petite Friture  Design/Constance Guisset

どのように使い分けるべきなのか。

色も壁が白に対して、赤や青の物を持ってくると強い印象になりますが、白やグレーなどを持ってくると調和します。良い意味でそのギャップはアクセントと言いますが自分の生活空間にこれを持ってきたときのことをイメージすると、違和感を感じる方もいるでしょう。特に日本人の多くは調和している状態に落ち着きを感じます。意図的にアクセントを求めない場合は、空間に調和するカタチや色をデザインで選ぶと失敗しないですしデザイナーも最初の道理に加えて、そういう顧客ニーズやブランドの方向性によってデザインを使い分けていると思ってほしいです。それも物によって買い分けてもいいと思います。

例えばダイニングチェアは馴染むもの、リビングのソファは少し目立つもの。など自身のデザインに対する要望がある場合は、上記の法則により考えると良いと思いますし、デザイナーはそうした意図をデザインに組み込んでいます。

デザイン性と作家性の違い。

個人的な信条の話をすると、デザインとアートは違い、デザインには作家性というものは本来必要ないと思います。私自身も手癖のような物はもしかしたら出てしまっているかも知れませんが、本来周囲の状況や社会の情勢などに多くの影響を受けたものをデザイン性と言うのだと思います。スタイルという物がその人から感じない場合は、そうした諸条件に従順なデザイナーだと思っていいと思います。またそうした様々な条件によりある程度の所までは論理から定義できます。反対に作家性というのはその後のプロセスに生まれる物か、あるいは最初からそうした諸条件に影響を受けない状態のことだと思います。

冒頭の写真は私がデザインを担当した炭酸水メーカーですが、これは空間に馴染みつつ、適度なアクセントになるように先ほどの法則によりちょうどいいところを狙ってデザインしています。このプロダクトデザインが空間にきっちり調和するというのも将来的にはあるだろうと思います。ただ今はまだこれらの商品は新しい物であって、それが置かれる場所というのは炊飯器や電子レンジに比べて少し特別な場所を与えられる状況だからだと思っています。ユーザーの体験として今はまだ特別なものだと思うからです。ただそれが冷蔵庫や洗濯機、テレビなどもう特別な体験ではなく当たり前の物になってきたときは、完全に空間に溶け込む、あるいはビルトイン(何かに格納)されていくニーズが高まってくるでしょう。その時には全く四角い物になるかも知れませんし、冷蔵庫やキッチンに格納されるという姿が望ましくなると思います。

巷ではデザイナーズ○○みたいなのが最近たくさんありますが、それは相対的にそうした作家性をコマーシャル的に前面に出したものが多いです。それもデザインかも知れませんが、本来はそうした作家性が無い物をデザインとしていますし、おそらく学校教育でもそのように教えてきていると思います。現在の工業デザインの礎とも言えるドイツのバウハウスの教育などは、さらに諸条件に対して理論的にデザインする手法であり、そうしたデザインは今もなお残り続けて輝きを失わない素晴らしさがあります。

自分の想定よりもかなり長くなってしまったのと、バウハウスとかデザイナーが好きそうでありつつ、同時に一般の方には興味が薄そうな話を書き始めてしまったので、今日のコラムはここらで終わります(笑)。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次はいつになるかわかりませんが、遠くない未来にまた別の「むずかしくないプロダクトデザインのはなし」を書きたいと思います。

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