フランス語の鼻母音 "en" は「アン」なのか「オン」なのか

このまえルミネ有楽町をぶらぶらしていたら "1er Arrondisement" というアパレル・ブランドが「プルミエ アロンディスモン」と表記されていた.これにはちょっと驚いた.なぜなら "en/an" の表記は「アン」が標準的に用いられていて,例えば "France" は「フロンス」ではなく「フランス」と表記されるからである.でも実際には "en/an" は「オン」のように聴こえるよなー,と個人的には思っていて,"entrée"(前菜)を「アントレ」と書かれる/言われると超絶違和感を覚えていた.

国際音声記号では "en/an" は /ɑ̃/ なので,"a" を鼻音化したものということになる.おそらくそれが根拠となって「アン」と表記しているのだろうけど,実際に聴くと違和感がある.まあ無理にカナ表記するのがダメなんだろうなと思って溜飲を下げていたけど,もう少し調べてみると,面白い情報が得られた.どうやらパリ地方では鼻母音の発音が変化しているようで,/ɑ̃/ が /ɔ̃/ に変化しているのはかなり確からしい(/ɔ/ は「低いオ」).私が聞くフランス語はニュースが多いので,パリ地方の発音の印象が植え付けられているのかもしれない.あとこれは個人的な意見だけど,"en/in" を日本語的に「アン」と発音するとマジで伝わらないけど「オン」ならギリ伝わる気がする(根拠なし).

La seule évolution importante prouvée dans nos données pour ces voyelles est le mouvement de /ɑ̃/ en direction de /ɔ̃/

https://www.cairn.info/revue-la-linguistique-2001-2-page-33.htm

他にも "in"(/ɛ̃/)は発音記号としては「エン」だけど「アン」に近いっていうのもよさそう.例えばこの図を見るとそうだし,この解説でもそう(表記上も数字の "un" は「アン」).

結局何が言いたいとかは別にないけど,「フランス語の発音を無理にカナ表記するのが無理なんだよ」とかって引き下がらなくても,実際に "en/in" は「オン」なんだよ!って叫んでもいいのかもしれない."France" は「フランス」じゃなくて「フロンス」なんだよ!

(余談)他にも "eur" の表記は「ウール」ではなくて「アー(ル)」にしてほしい.例えば "Légion d'honneur" を「レジオン・ドヌール」ではなく「レジオン・ドナー(ル)」とすれば,これが "オナー(honour;名誉)" に関することなんだと一発で分かると思うんだよな.実際の発音にも近いし.他には "fleur" は「フルール」ではなく「フラー(ル)」と表記すれば,これが "フラワー(flower;花)を意味するっていうことが即座に了解される.

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