【第一話】ヤクザに騙されて原宿に服屋を出店し、24歳で2000万円の借金を背負い、2年で完済しなければならなくなった時の話。

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テーブルの上に置かれた500万円の札束。

24年間生きてきて帯になった札束を初めて生で見た。

固唾を飲むって正にこういう状態のことを言うんだろうな、と思った。

有楽町にある雑居ビルの一室。

部屋には神棚と何やら人の名前が書かれた提灯が無数に並んでいる。

金平(仮名)「海木君。これから一緒にビジネスをして行くわけだけどさ…」

プロレスラーの様なガッシリとした体型にティアードロップの茶色いサングラスを掛け、手首には高級そうな腕時計、首にはイカツイ金のネックレスを付けているその男は僕にそう呟きながら色々な説明をし始めたが、目の前の札束とその男の迫力に圧倒され何も耳に入ってこなかった。

原田(仮名)「おい、海木聞いてるのか?とりあえずここの契約書にサインをして」

原田は僕が所属していたモデル事務所の社長だった。

ロンドン留学から帰国し、スタイリストやデザイナー、そしていつか自分のお店を持つのが夢だった僕はアシスタントや就職には付かず、自力でなる方法を模索していた。

当時、スタイリストになるなら数年間は給料無し、休み無しのアシスタントに付いて修行する、デザイナーになるのにも企業に就職かメゾンに入ってデザインやパターンなどの修行を積んでその後に独立というのがセオリー。

どちらも続けられる自信がなかった僕はそれらを経験せずに両方の夢を叶えようとアルバイト、作品撮り、服作りをしながら服屋に売り込みに行く日々を過ごしていた。

そんな中で偶然にも知り合ったのがこの原田だった。

留学する前にモデルをやっていた僕は再びモデルをやりながらスタイリスト、デザイナーを目指せば良いんじゃ?と原田に誘われて所属することになった。

確かにコネクションも増えるし、チャンスが増えるかも、と思った僕は原田の事務所に所属することになり、そしてその1年後、原田に「お前、才能あると思うし、俺が出資するから店を出さないか?」と誘われて今に至る。

僕はてっきり原田が出資するのかと思ったら、何の説明もされないままこの有楽町の事務所に呼び出され、何者かも分からない(明らかにヤクザだが…)この金平がスポンサーだという事実を「今」知ったのだ。

そして、まだ24歳の世間知らずの僕にこの契約書にサインをしろと迫っている。
絞り出す様な声で僕は言った。

僕「あの…契約書とか良くわからないので持ち帰って、ゆっくり考えてからでも良いですか…?」

すると原田と金平は顔を見合わせ、鼻で笑いながら言った。

原田「お前、ここまで来てそんなこと言ってんの?そんな奴とビジネスを一緒にやれないよ?こんなチャンス逃すのかお前?」

金平「そうだぞ、この原田さんがここまで段取りしてくれているのに信用出来ないのか?男じゃないなー君は。そんなんだったらこの件は無しってことでいいのか?」

そう言いながら500万円の札束に手を添える。

激しく揺れた。

これは本当にチャンスなのか、それとも騙されているのか。

これがチャンスだった場合、僕みたいな24歳の若造が500万の大金を用意するなんて何年後かわからない。

何年もコツコツとアルバイトをしながらスタイリストとデザイナーを目指す、そしてそこから成功して店を持つ、果たしてそんな夢は実現するのだろうか?夢を追い続ける気力と体力は保てるのだろうか?一体何年掛かるのだろうか?

そう思うと今目の前にある500万円さえあれば…、成功すればいいんだ、僕は絶対に成功出来るはずだ、原田だって今までも僕を可愛がってくれていた、騙す様な人じゃないはずだ。

根拠のない自信、確信のない都合の良い自信が不安な気持ちに蓋をし、最終的には押し潰した。

僕「いや、わかりました。やります、やらせて下さい!」

そう言いながら内容も全く理解せぬまま、その契約書にサインをした。

金平「おー。さすが原田さんが言った通り、漢気があって今時珍しく熱い男だな。よし!これから一緒に頑張っていこうな」

そう言いながらがっちりと握手をした。

僕よりも遥かに大きく分厚い掌で握り潰されるんじゃないか、というくらい力強い握手だった。

僕「あの…この契約書ってコピーは頂けるんですよね?」

原田「いやこういう契約書は普通これ1枚でコピーなんてしないんだよ。大丈夫、俺がちゃんと預かっておくから」

今考えればそんな契約書はあり得ないことは勿論理解している。

ただ、その時の世間知らずの僕は「そんなもんなのかな…」と、そこまで深く考えず、この時の契約書がキッカケで想像を絶する地獄の様な2年間が待っていようとは思いもよらなかった。

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