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<旅日記② Sep.1995>マレーシア南部

出発から3日目 バックパック丸ごと無くす。

半年間の地球一周旅を目指し、1995年9月1日に成田を出て3日目。マレーシア南端の都市ジョールバルからマラッカに向かうクルマで、パスポートと貴重品、航空券、鉄道切符、カメラを除く、すべての荷物である、バックパックを丸ごと無くしてしまった。

半年の旅に備え、日本から用意してきた衣類やら雑貨などのすべてが、ちょっとした油断で消えてしまった。幸い、貴重品は確保してあったので、アジアで安い衣類やらバックパックを買えば済むと開き直ればよいが、まだ、旅は始まったばかり。かなり落胆した。

どこで荷物を無くしたかと言えば、それはクルマのトランクの中。ガソリンスタンドで運転手がトイレへ行ったので、わたしもと、しばらくあとで追い掛けた。途中、運転手とすれ違った際、声を掛けなかったのが失敗のもと。クルマに戻るとあるべきところにクルマはなかった。スタンドのお兄さんに「クルマは?」と聞いたら、もう出て行ったという。運転手は、たった一人の乗客であるわたしを置いて出発してしまったのだ。
幸いだったのは、車外に出るとき、パスポートや現金、クレジットカード、銀行のキャッシュカードなど貴重品の入ったカメラバッグは持ち出したことだった。

警察が親切、丁寧に対応

マレーシアの南部のどこにいるのかもわかない田舎。とんだところに放り出されたものだ。この先どうしていいのか。途方に暮れるわたしにガソリンスタンドのお兄さんは、すぐそこに警察署があるからそこに行け、という。駐在所のような小さな警察署で事情を説明した。警察官は先ほどのガソリンスタンドに行き、状況を確認したうえで戻ってきた。運転手から連絡があったら警察に電話をするようにと伝えてきたのだという。まあ、しばらく、ここで待っているようにと気休めを言い、わたしに1本のタバコを勧めてくれた。タバコはその2年前にやめていたが、このときだけはついつられ手が伸びそうになった。

警察で待つこと1時間半でスピード解決

 連絡を待つこと、1時間半。やっと、電話が鳴った。運転手からだった。走行中、高速道路に入るから料金を支払ってくれと後部座席にいるはずのわたしに声を掛けたが返事がないので振り返ったらだれもいなかったのでようやくわたしを置き忘れてきたことに気づいたということらしい。さてはあのガソリンスタンドから無賃乗車で逃げられたのかと思い、トランクを開けたら荷物があったので、念のためガソリンスタンドに電話をしたところ警察から手配が来ていると教えられたのだという。

 わたしがトイレに行くことを伝えなかった非があるにせよ、出発する際、後部座席に客が乗っているか乗っていないのかを確認せずに出発する運転手がどこにいるのか、1時間半も客がいないことに気づかずに走るなんてと思ったが、悪意はなかったらしい。警察に到着した運転手は警察官にペコペコと平謝りしている。警察官の親切で適切な対応ぶりに、マレーシアという国の治安の良さを信頼することができた。

 笑顔のお巡りさんにお礼を述べクルマに乗ると、さっきまでペコペコしていた運転手は態度を一変。「お前のせいで時間が余分にかかったし、余分に走った。その分、支払ってもらうからな」。客を置き忘れていくお前も悪いのだからと、追加分は半分に値切り、夕食はおごることにして手打ちとした。

「世界どこでも99%の人は親切」

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 旅は始めから波乱含み。しかし、万事スムーズでは旅の思い出は残らない。少し遠回りだからこそ、思わぬ人情を知る。日本を出発する前、世界を7年かけ旅したというアメリカ人が「世界どの国に行っても99%の人は親切だよ。恐れることはない」と、背中を押してくれた。あの運転手とも、慣れないマレーシアのビュッフェ・スタイルの大衆食堂でいっしょに食事をし、笑顔を交わすことができたのだから・・・。旅は出会い、ふれあい。

                       (1995年9月3日)

               てらこや新聞83号 2012年 02月 25日発行


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