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三島由紀夫と肉体とVTuber

※2020年11月25日に配信されたメールマガジンに掲載されたテキストです。

11月25日は、三島由紀夫の没後50年だ。

人に話すとひかれるのであまり言わないようにしてるものの、大学を決める時に三島由紀夫が割腹自殺をした駐屯地に一番近い学校を選んだのだった。

今ではいろんな研究や証言によって広く知られていることだが、三島由紀夫はコンプレックスの塊だった。身長や虚弱体質といった、肉体への負い目がとりわけ強かった。
当時の平均身長としてはそこまで低いわけじゃないものの、本人は身長をえらく気にしていた。そして、戦争出兵を免れたのも身体の弱さだったことも、その思想に強く影響を与えた。
その弱さを克服するために、三島は後年、剣道やボディビルによる肉体改造に励むようになった。

(決して読みやすいとまでは言えないものの)荘厳で美麗な文体も、その筋肉と同じく、三島にとっては鎧のようなものだった(その辺りは、『太陽と鉄』というとても読み応えのある鋭い評論で自ら解題している)。
繊細な魂を覆う、まさに鎧として存在した文体や筋肉。

三島の代表作『金閣寺』には、足の奇形を抱えた柏木や、吃音の主人公・溝口といった人物たちが登場する。お互いにどう影響し、金閣寺の放火に走るのか。実際に起こった事件を題材に、ミステリーのような読み心地もある、今さら言うまでもない傑作だ。

『金閣寺』は、それぞれの障害が彼らの思想や選択にどう影響したのかをつぶさに描いているのも特徴的だった。
障害でなくても、コンプレックスでなくても、単なる身体的な特徴ーー太っていること、痩せていること、力が強いこと、弱いこと、禿げていること、剛毛であること。それらは、自分が気にしているしていないに関わらず、その人の思想に影響を与える。それは当たり前のことだ。

三島由紀夫の人生がそれを雄弁に物語っているし、だからその作品には、肉体という器に強く影響され、縛られた登場人物たちが登場する。
三島由紀夫は、割腹という方法で肉体からの解放を企図した、と言うこともできる。

だから、もし三島由紀夫が今生きていたら、バーチャルYouTuberといったアバター文化をどう受け止めるのかを考えたことがある。
死者は語らないので答えは出ないんだけど、その問いの延長に、勝手に一つの光明を見出した。
それは、三島由紀夫に強く影響を受けて作家デビューし、三島についての評論を書いている平野啓一郎という作家の存在だ。

彼は現在、仮想空間やアバターをモチーフに「人間とは何か」をテーマとして問う『本心』という小説を書いている。
三島由紀夫の薫陶を受け、そして「本当の自分などというものは実は存在せず、無数の人格(分人)すべてが自分だ」という“分人主義”を唱えてきた平野啓一郎が、肉体から離れた仮想空間の人格をどう定義するのか。興味が尽きない。

新見直

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KAI-YOU Premium Chief Editor
1987年生まれ。サブスクリプション型ポップカルチャーメディア「KAI-YOU Premium」編集長/株式会社カイユウ取締役副社長。
ポップリサーチャーとして、アニメ、マンガ、音楽、ネットカルチャーを中心に、雑誌編集からイベントの企画・運営など「メディア」を横断しながらポップを探求中。

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