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宮崎駿の家にピンポンダッシュして猛省した僕が今思うこと

※2020年12月2日に配信したメルマガに掲載したコラムです

定期的に宮崎駿の作品作りにおける独裁的な振る舞いや、辛辣な発言がネット上で話題になる。

特に最近は『鬼滅の刃』の社会現象で、興行収入面からジブリ作品が比較に挙がるため、普段より注目が集まってる感じがする。

実際、自宅周辺でゴミ拾いしてる宮崎駿に凸したメディアがあって、悪い意味で話題にもなってた。

宮崎駿の自宅は地元の近所なので、昔はよくその辺を歩いてる宮崎駿を見かけた。どこにでもいる本当にしょうもないクソガキだったから、小学生のときに一度だけピンポンダッシュしたことがある。

その頃から怒らせると怖いっていうのは知ってたから出てくるかどうかも確かめずにピンポン押すやいなや本気でダッシュしたことを鮮明に覚えてる。

あのクソガキのクソイタズラ行為のせいで当時の『もののけ姫』の制作が10秒くらい遅れてしまったかもしれないことを後から思うと、自分のことながら許されざる行為だったと猛省してる。ピンポンダッシュは犯罪だし迷惑行為なのでやっちゃダメだし、クリエイターの時間を奪うのは大罪だ。

今でも高確率で宮崎駿を見かけるスポットがあって一部では知られてるんだけど、自分の知る範囲では彼の憩いを乱そうとする不貞の輩はいない(怒ると怖いっていうイメージがあるしそもそもみんな宮崎駿や彼のつくるアニメが大好きだから)。

宮崎駿の攻撃力の高さは昔からで、昔のインタビュー集なんかを読むととにかくなんでもあけすけに話してる。作品名、個人名を出して批判するもんだから読んでてハラハラするんだけど、そういう人だからこそ妥協しない作品を生み出せるんだろうなと月並みなことを思う(『夢と狂気の王国』とかからも一目瞭然なんだけど)。

(友達だという前提で)押井守のことをぼろくそに言ってるくだりもある。

「いや、なにを犬に狂ってるんだ、バカってね(笑)(中略)押井守は、なんか犬のために伊豆に引っ越ししたでしょう。家の周りに犬の通路作ったりしてね、そのバカ犬をさ、雑菌に対する抵抗力がないから外に出さないとかね。それを聞いたとき、なにやってんだこいつ、って思ったんですよ。大体、ブリーダーってみんな胡散臭い顔してるでしょ(笑)。」(『風の帰る場所』より)

面白いけど完全に人格否定!

でも、自分の作品制作において言ってることはわりとまともというか素直だ。

昔から作品に悪人が登場しないと言われがちな宮崎駿は、「僕は回復可能なもの以外は出したくないです。本当に愚かで、描くにも値しない人間をね、僕らは苦労して描く必要はないですよ!」とぶっちゃける。

ここは口の悪さが露骨に出てるんだけど、要するに宮崎駿がごくシンプルに言いたいのはここだろう。

「『人というのはこういうものだ』っていうふうな描き方じゃなくて、『こうあったらいいなあ』っていう方向で映画を作ってます。『こういうもんだ』っていうのは自分を見りゃあわかるんでね」(同上)

その姿勢は、多くのクリエイターに共通するところだろう。えげつないこと、みっともないものは現実で十分だ。フィクションは現実の焼き増しじゃない。(だからきっと、小学生だろうがピンポンダッシュをするような自分は、駿にとって「本当に愚かで、描くにも値しない人間」なんだろう。過去に戻ってやり直せる機会があったらあの日の俺をとっつかめてブチのめすことを誓います!)

映画は幻想を映し出すもので、僕は美しいものを撮りたいと言う押井守と、宮崎駿とは、だから創作についての根っこの部分では対立してない(ように思えるけど、お互いの作品を認め合ってるかどうかは怪しい)。

無理くり並べるつもりはないんだけど、この点において『鬼滅の刃』にも共通する要素があるように自分には思える。社会規範や倫理を高い水準で体現して、人間の高潔な理想を一身に背負ってるようにさえ見える鬼殺隊たちとか(ある種の説教くささとか)。それらはリアリティとは異なる、物語の美しさだ。

宮崎駿作品の方にはもっと人間的な登場人物が多いし、欲望を体現した悪としての鬼なんてものは出てこない。でも、あの鬼をジブリ作品における穢れのようなものだと考えることも、あるいは可能なんじゃないかと思ったりした。

宮崎駿への取材(押井守のくだりだけ97年の取材)が行われたのは、1990年11月、ちょうど30年前のこと。

リアリティではなくて純粋なフィクションを志向した時代があって、それで今、もう一回ねじれて2020年に着手してるような、そんな気がした。

新見直

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KAI-YOU Premium Chief Editor
1987年生まれ。サブスクリプション型ポップカルチャーメディア「KAI-YOU Premium」編集長/株式会社カイユウ取締役副社長。
ポップリサーチャーとして、アニメ、マンガ、音楽、ネットカルチャーを中心に、雑誌編集からイベントの企画・運営など「メディア」を横断しながらポップを探求中。

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