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YouTubeにまつわる良いニュースと悪いニュースがある

※2021年4月14日に配信したメールマガジンに掲載したテキストです

どっちから聞きたい?(言ってみたかっただけ)。

まずは良いニュースから。

YouTuberは新陳代謝が激しく、どんどん新しい投稿者/配信者が登場する。中でもノリに乗っているグループYouTuber・コムドット。現在、登録者数173万人だ。(執筆時点の数字。2021年11月現在は274万人)

人気のYouTuberを見る時、正直ちょっとビビるというか尻込みする自分がいるのを否定できない。

押しも押されもせぬ人気のクリエイターや作品を目にして、もしもその良さや面白さが一切自分にわからなかったらどうしよう、という不安。

面白さはわかるし人気が出る理由もわかるけど、自分には向いてない」ならいい(これはよくある)。「全く面白さもわからんしなんで人気なのかミリもわかんねえ」はマズい。こういう仕事をしていると特に。

それは自分の感性が錆びついてしまったか自分が世間とあまりに乖離しすぎてしまったかのどちらかを意味するからだ。

そんで、私にとってはTikTokやYouTubeを起点にいつかその時が来るという予感があって、まあその時は潔く隠居すればいい話なんだけどまだ仕事したいし!

ということで恐る恐る見始めたコムドット。いや、めちゃめちゃ面白いよ! 良かった、安心した。

「地元ノリを全国ノリに」「放課後の延長」のキャッチコピーそのまま。

企画はユニークなものが多いんだけど、それを抜きにしても5人のメンバーのただのやりとりが面白くて腹抱えて笑いながら見てる。まじで地元にいるノリのいいバカなヤツらって感じ。

ある種の会話においては意味ではなくテンポが命で、テンポさえよければ素人の会話でも別に無限に聞いてられる。テンポの良さを生み出しているのは、会話の瞬発力しかり、編集しかり。

ただの友達のノリだから全部が遊びで、楽しそうな企画考えたり、SNSのフォロワー数とか反響を競って勝負しあったり。

明らかに無理してない、ただの悪ノリ。しかもガチなヤンキーじゃなくてヤンキーとも仲良いけどクラスでチャラけてるくらいのメンバーでそれがまた居心地が良い。

これだよこれ。YouTubeってこういうのでいいんだよな、って感じ。

楽しみが増えました。これが良いニュース。皆さんも是非視聴されたし。オススメは「即下車」シリーズ。

さて。悪いニュース

新陳代謝が激しいっていうのはどういうことかというと、かつてはYouTuberを代表して好きなことで生きてきた先達たちが、苦戦を強いられているということを意味する。

YouTubeは残酷なもので、急上昇ランキングでも関連動画でも、久しくお目にかかることはなくなった投稿者/配信者たちも、すぐ隣に目を向ければ同じリングの上に存在している。

再生数は何よりも雄弁だ。かつては数百万は当たり前、時には4桁マンを叩き出していたあいつらの栄光も今は昔。

何が明暗を分けたのかはわからないしそれぞれに個別の理由がある(炎上をきっかけにファンが離れるのが一番多いかも)。

かつて道頓堀でヤンキーにドロップキックを華麗にブチかましていたあいつらも、クズすぎる彼女オーディションで再生数を荒稼ぎしてきたあいつらも、今も同じリング上にはいるのに、ステージが全く変わってしまった。

元祖YouTuberは、スタッフとのいざこざで内部分裂して、今では細々と(?)活動している。

元気にセミを食ってたあの人は普通に犯罪で逮捕されました。

それぞれの最新の動画を見ていると、胸が締め付けられてやるせない。

同じようなことは昔からどこでも起こっている。若手が台頭し、下から突き上げられても存在感を保てるケースもあれば勢いを失っていくケースもある。

ただ、かつてと決定的に違うのは、そのすべてが数字として並列化されていることだ。

例えば作家や芸能人だったら、「最近あの人の活躍聞かないな」と思って調べても、ある程度はわかるけど作品の部数の推移、出演している番組の視聴率、おおよその収入、なんて言うのは知る由もなかった。今は違う。YouTuberの場合、登録者数や動画の再生数が、それらをほぼすべて物語ってしまう。

その可視化は過剰なほどだ。失敗してもいいし何度でもやり直して挑戦し続けられる社会であってほしいと自分は思うが、その過程が脚色なくすべてダダ漏れていて、見ている方としてもとても受け止めきれない。

かつて名を馳せたYouTuber第一世代とも呼ばれた投稿者は、今もずっと動画投稿は続けていても、編集も粗く、タイトルも明らかに適当につけているのがわかる。もはや自暴自棄になっている感じさえ漂っている。再生数も数千がアベレージだ。

つい先日、聞いたこともないメディアにその方のインタビューが掲載されていた。

かつての炎上騒動を「ただの嫌がらせにあいました」と振り返り、自分を省みることない発言が続いていた。

もうなんでもいいんですよ」「いろいろありますよ!」云々。本人もメディアも、なんでこんなインタビューを載せたのか。意図がわからない。

最後に「これから目指す方にアドバイスを」という質問。

悩んでいるのであれば、まずやれと声を大にして言いたいですね」「とりあえずやりなさい! 動画は作ってみないとわからないから」。

別にこれ自体はありがちなやりとりなのに、誰が言うかでここまで言葉の響きが変わるものなのか。

インタビュアーにはさすがに腹が立った。高度な煽りじゃないかと疑っている。とにかくこの箱は開けてはいけなかった。本当に気分が滅入った。

これももしかしたら、昨今言われているミドルクライシスなのかもしれない。

かつて好きなことをして生きて来られたYouTuberのセカンドキャリアを考えるのは自分の役目ではないが、多くの前途有望なキッズたちが配信者を目指し、一時は話題を集めてもその先には道が続いてないかもしれない。

良い歳こいた大人になってこれまでのように動画ではしゃげなくなってきた時、鏡の前の自分と向き合うのに十分な準備をYouTuberたちはできているんだろうか。

新見直

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KAI-YOU Premium Chief Editor
1987年生まれ。サブスクリプション型ポップカルチャーメディア「KAI-YOU Premium」編集長/株式会社カイユウ取締役副社長。
ポップリサーチャーとして、アニメ、マンガ、音楽、ネットカルチャーを中心に、雑誌編集からイベントの企画・運営など「メディア」を横断しながらポップを探求中。

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