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アメリカ:現代の精神的、道徳的権威であるラビ、ハロルド・クシュナー氏が死去

USA: Rabbi Harold Kushner, a leading contemporary spiritual and moral authority, has died

世界的に有名なラビであるハロルド・クシュナーは、4月27日にマサチューセッツ州カントンで88歳の生涯を閉じた。彼は、特に人間の苦しみに関する著作と講演で活躍した。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に掲載された遺稿の著者によれば、クシュナーは、「実践志向の神学者で、たとえ善良な人々に悪いことが起こっても、彼らは常に神の無限の愛と正義に包まれていると、さまざまな人々に納得させることができた」という。

クシュナーの最も有名な著書は、間違いなく『When Bad Things Happen to Good People』(マウゴルザタ・コラシェフスカ(Małgorzaty Koraszewskiej)によるポーランド語訳、Verbinum 出版1993)である。この作品は、世界中で数十か国語に翻訳され、日本では岩波文庫から「なぜ私だけが苦しむのか」というタイトルで、『現代のヨブ記』という副題がつけられて出版されている。

これは、息子アーロンの致命的な病気に関する著者の体験と考察の記録である。アーロンは、生後間もなく、医師から、年齢とは関係なく体が急速に老化していく珍しい病気、プロジェリアと診断された。10歳のとき、少年は生理学的にはすでに60歳を過ぎており、4年後にこの世を去った。父親にとっては、聖書のヨブの苦悩に匹敵するドラマであり、ヨブと同様に、クシュナーは、友人たちとさまざまな議論を交わし、さらには神ご自身とも語り合った。

その苦しみのなかで、クシュナーはいくつかの重要な結論に達し、それは後に著書を通じて、多くの苦しむ人々にとっての道標のようなものとなった。彼は、「私たちが世界で起こるすべての不公平なことに対して神に責任を負わせなければ、道徳的価値観の源として神を真剣に受け止めることは、はるかに簡単になる」。と確信した。「なぜある人は致命的な病気にかかり、ある人はかからないのか、私にはわからない。私たちには理解できない自然の法則が働いているのだろう。しかし、神が誰かに病気を『送る』ということは信じられない」と述べた。

このラビの本は、当初2社から断られた。しかし、ショッケンブックスから出版されると、たちまちニューヨーク・タイムズのベストセラーリストで1位を獲得し、それまであまり知られていなかったラビを人気作家、コメンテーターにした。また、『Who Needs God(誰が神を必要とするか)』など、他の著書も世界の出版市場で成功をおさめた。この本で、著者は聖書を幅広く引用している。また、ヨブ記からの引用に加え、詩編、特に詩編23を引用し、『主はわれらの牧者―現代人の心を癒す詩編23のメッセージ(The Lord Is My Shepherd: Healing Wisdom of the 23rd Psalm)』と題する別の著書を出版している。

ラビは、自分だけでなく、たとえばアウシュビッツの地獄を生き抜いた人々の苦しみについても、問いを立てずに書いている。「その時、神はどこにいたのか」と問うことなく、そこでも神とともに生きている。「人は他人の慈悲によって大きく助けられることは事実だが、『神は特に他人を支える人を助け、苦しみのなかで、神は本当に大切なものに目を向けさせる』ということも事実である。ヨブとの対話と同じように、人間との対話をしている」。

20年間、東京の白百合女子大学でキリスト教の霊性を教えていたポーランド人のドミニコ会士パウロ・ヤノチンスキー神父は、人間の苦しみの意味(homo patiens/ホモ・パティエンス)を、住む文化に関係なく人々に説く世界の権威だと、故人をみなしている。

「神の知恵に満ちたこのラビの作品を手にとることは、私にとって常に深い経験であり、それを受講者に伝えようとしてきた」とドミニコ会士は言った。「たしかに、ヨブ記に限らず、旧約聖書には『神は苦しむ人を助ける』(詩編37:40、イザヤ41:10参照)と明確に記されている。そして、神は受肉と十字架の苦しみと死を通して(その十字架をクシュナーはもう見つめ続けることはないが)、『ご自分も試練を受けて苦しまれたので、試練を受けている人々を助けることがおできになる』(ヘブライ2:18)と、さらに私たちの苦しみの傍らに立たれた。しかしながら、『さまざまな苦しみがあっても、神との関係において、豊かな人間性を生きるとは、どういうことか』という、このラビのメッセージの普遍性に、私は心を打たれる」とヤノチンスキー神父は語った。

ハロルド・S・クシュナーは1935年4月3日にニューヨークのブルックリンで生まれ、2023年4月27日にカントンで亡くなった。コロンビア大学とユダヤ神学校(JTS)で学び、1960年にラビとして叙階される。1972年、聖書に関する論文で同校の博士号を取得した。その後、エルサレム・ヘブライ大学、クラーク大学、JTSラビニカル・スクールで教鞭をとる。6回にわたり名誉博士号を授与された。常任ラビとして、マサチューセッツ州ナティックにあるナティック・シナゴーグのテンプル・イスラエルで24年間奉仕した。また、ラビ議会のメンバーでもあった。
 悪の存在に関する問題を扱ったベストセラー『なぜ私だけが苦しむのか、現代のヨブ記(When Bad Things Happen to Good People/悪いことが良い人に起こるとき)』をはじめ、多くの著作がある。この本では、人間の苦しみの意味、神学、神の存在とその全能性などについて問いかけている。その他の著作には『How Good Do We Have to Be?(私たちはどれだけ善良でなければならないのか)』、『To Life!(人生に乾杯)』などの人気の高い神学書がある。『Etz Hayim(エッツ・ハイム):A Torah Commentary(生命の木:トーラーと解説)』は、ハイム・ポトクとともに共同編集者を務め、2001年に前述のラビ議会やシナゴーグの会衆とユダヤ人出版協会が共同で出版。『人生の8つの鍵(Living a Life That Matters)』は2001年の秋にベストセラーとなる。『主はわれらの牧者―現代人の心を癒す詩編23のメッセージ(Lord Is My Shepherd)』は詩編23の随想で、2003年に出版された。また、サイモン・ヴィーゼンタール(Simon Wiesenthal)の許しに関する著書『The Sunflower: On the Possibilities and Limits of Forgiveness(ひまわり:許しの可能性と限界について)』のなかで、彼が投げかけた質問に答えている。

Fr. jj (KAI Tokyo) / New York

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