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不安の正体は、未来の予測だった!

ディーン・ブオノマーノ著「脳と時間」。著者はUCLAの神経生物学・心理学部教授。脳の時間処理機構を研究している。

「明日のプレゼン、失敗したらどうしよう...練習だ!」

「こんなことでは、あいつに先を越されてしまう...業績上げるぜ!」

「シュークリーム、食べたいけど太るのやだ...やめとこう。」

ヒトいつも将来が不安。だから現在を変えようと頑張る。

ヒトの脳は、過去のデータから将来を予測する、という機能を獲得した。
これは動物にはない機能。この機能によって、ヒトは気まぐれな自然を創造的に改変して、繁栄を勝ち得ることができた。
でもそのおかげで、自動的に将来を予測する脳が不安を呼び起こすことによって、苦しみを引き受けるという運命を背負ってしまった。

将来が不安であるから、我慢してでも現在を変える。シュークリームを食べたいが、太るからやめておく。これができるためには、ヒトにとって将来は不安であることが必要

著者はこの本の中で、アマゾンのヒダハン族という、将来を予測しない部族が現在だけを考えて幸せに暮らしていることを紹介している。彼らの平均寿命は45歳だそう。
ヒトが苦しみを引き受ける一方で、寿命を延ばしてきた例。

しかしヒトは、将来を予測しながらも近視眼になる。
今すぐに1万円もらえるか、1か月後に1万2千円もらえるとしたらどちらを選ぶだろう。多くの人が今すぐもらえる1万円を選ぶ。
なぜなら、明日死ぬかもしれないから。これは、動物としての生存本能に基づく行動。
ヒトは、将来を予測する能力を持ちつつも、自分の生存を守るため、自我のために短期的な利益を優先する。

これが、地球規模でのCO2の排出や環境破壊につながっていて、経済活動や選挙活動においても、自分の利益を優先して将来の人類につけを回している。
著者は、将来を予測する機能は我々の脳が比較的新しく獲得したものだから、我々は未だこれをうまくつかいこなせていないのだ、この機能をもっと使いこなそう、と語る。


未来を予測しつつも、自分だけの利益にとらわれない、自我に執着しない生き方ができたとき、人類はやがて訪れるはずの破滅を避けることができるのかもしれない。

ところが、現在の物理学が捉える時間の世界は、私たちが感じているように過去から未来へと変化していくものではなく、過去、現在、未来のそれぞれが同時に存在するのだそう。

これはブロック宇宙といわれている。
ブロック宇宙は、空間と時間の4次元でできていて、私たちが自由に選択していると強く感じている将来は、過去や現在と同時に存在している。

脳科学の見地からも、私たちにそもそも自由意思はなくて錯覚しているだけ、という見方がある。
ヒトが手を動かすとき、意識する0.5秒も前に、すでに手を動かすためのニューロンが発火している、つまりヒトは行動した後でそれを意識しているだけという実験結果があるそう。


ブロック宇宙は、粛々と物理法則に従う。
ブロック宇宙は、私たちが努力して、自我を離れて未来を予測することに成功したとしても、物理法則に従って消滅していく、そういうことなのかも知れない。

ブロック宇宙が正しいのか、私たちが実感を持って感じる、将来は改変できるものである、という宇宙が正しいのか、結論は出ていない。

どちらにしても、私たちの不安は将来を予測することから生まれる。それを受け止めて、自分に与えられた時間を自分にも他者にも、有意義に充実させることができれば良い、と考えたい。