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スミスさんと私とアップルパイ

角のお家に住むのはスミスさんという外国人のおばあちゃんで、家の前を通ると甘くておいしそうな香りとゆったりとした音色の音楽が流れてくる。スミスさんに初めて会ったのは、私が5才の頃だ。

くんくんくん…と美味しそうな匂いにさそわれて、勝手にお庭に入り込んだ私は、テレビ以外で初めて、ブロンドの髪と透き通った青い目を見た。

「あら?お客さんね。今アップルパイを焼いていたのよ、お腹空いてるかしら?」ひとめ、私を見たスミスさんはそう声をかけてくれた。

アップルパイと聞いた私はもちろん「うん!」とうなづき、「わたし、すみれっていうの!よろしくね!」と自己紹介してスミスさんの家に上がり込んだ。初めましての人には自己紹介すること、そう母に言われていたのだ。

その日、スミスさんが焼いたアップルパイを一緒に食べてから、スミスさんはお友達、そして美味しいお菓子と外国の面白いお話をしてくれる人になった。幼稚園から帰ったあととか、お休みの日とか、しょっちゅうスミスさんに会いに行っていた。スミスさんは子どもが好きらしくて、いつも大歓迎してくれた。

スミスさんはいつもきれいなブロンドの髪を、頭の後ろでくるくるっと束ねてお団子にしている。小さかった私は、どうしても同じ髪型をしたくて、母に頼んだっけ。母は困り果てていた。そのころ私の髪の毛は肩に届くか届かないかくらいの長さで、とてもじゃないけど、スミスさんのようには結べなかったのだ。

スミスさんはよく音楽をかけている。けれど、スミスさんはなぜか自分がいる部屋ではなく、少し離れた部屋で、ちょっと大きな音にして音楽をかけてるのだ。不思議に思った私が、「どうしてここのお部屋で流さないの?」と聞いたら、「だって、あの部屋に演奏家や歌手の人がいるみたいでしょ」と言っていた。

スミスさんはよくアップルパイを焼く。白雪姫みたいにお手伝いしてくれる小鳥たちはいないけれど、とっても上手に焼ける。レーズンを入れたり、シナモンを入れたり、いろいろアレンジしてくれる。そして、いつも私が食べたいなあと思っていた味のアップルパイが待っている。なんでだろう?

5才だった私も、次に桜が咲くころにはもう小学校を卒業して中学生になる。スミスさんのキレイだったブロンドの髪はいつの間にか淡いグレーになっていて、これもまたとってもきれい。そうだ、明日スミスさんのお家に言ったら、恋の話をしよう。スミスさんの旦那さんの話も聞きたいし、スミスさんの初恋の話も聞きたいな。私の恋の話も聞いてもらおう、ちょっと恥ずかしいけれど、スミスさんは秘密にしてくれるしどうせすぐに気づかれちゃう。アップルパイを私の前に置きながら、きっとこう言うんだ。「すみれ、気になる男の子できたのね」って。明日は何味のアップルパイかな?シナモンがいいなあ。

スミスさんはとっても不思議なおばあちゃん。
スミスさんはずーっと私のお友達。

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