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子どもの僕の冬

ぴゅーん、しゃんしゃん、ぴゅーん!
僕は自転車が大好きだ。歩くより、走るより、自転車に乗って進む方がいい。なんだか大人になった気がするんだ。乗り物に乗っている感じ、何かを操縦している感じ。わくわくする。

幼稚園に入ってすぐ、僕は「ほじょなし」になった。ちょっと不安だったけれど、ちかちゃん、僕より一つ年上の6才のお友達がすいすい乗っていたから「ぼくだってできるぞ」と思ってお父さんに頼んで教えてもらったんだ。ぐらぐらして最初は怖かったけれど、3日目に「今日乗れるようになる!」と僕は思った。そして、ほんとにほんとにあの時の僕を褒めたいのだけど、なんと坂道からシャーっと勢いつけて滑り出したんだ。青木さんちも、ちっちゃいおばあちゃんちも、みかんの木の家も、たくさんたくさん、お家を通り過ぎて、いつも行く公園の横の壁にぶつかるまで僕は進んだ。だから、僕は今、ちかちゃんみたいに、いや、ちかちゃんよりも上手に、すいすいと自転車に乗ることができる。

今日も「いってきまーす」と玄関を出た。外はとっても寒くて、ぶるぶるっと震えてしまった。そうしている間に、お母さんが出てきて「あらあら、向こうの山、雪のぼうしをかぶってるわね」と言った。うちから見える山があるんだけれど、そのてっぺんが白くなっていて、お母さんの言う通り、帽子をかぶったみたいだった。

その日はちかちゃんの家であそんだ。ちかちゃんちは僕の家から5つ目の家。夕方、外に出たら空から白い綿のような雪が降っていた。「気を付けてね」とちかちゃんとちかちゃんのおかあさんに見送られて、僕は自転車に乗って家に帰った。そして、翌朝、窓の外は真っ白で、夢の中に戻ったみたいにとってもきれいな世界になっていた!

「だめよ!自転車はすべってころんじゃうわ!」とお母さんに言われた。僕がまさに、自転車にまたがろうとしていた時だった。だって、こんな雪のなか、自転車に乗って駆け抜けたらきっとすてきだ。なのに、おかあさんはわかってない。でも、お父さんも、いつもは僕の味方をしてくれるのに、「お母さんの言う通り、今日は自転車は乗らないこと」と言ってきた。こんなにわくわくしているのに、お父さんまでこんなことを言うなんて。雪なんて降らない方がよかったかもしれない。「なんで雪なんかふったんだろう。自転車に乗れないなんて、つまらない」と言ったら、お父さんが「雪は面白いんだぞ、雪だるまやかまくらを作ったり、雪合戦したりもできるんだぞ」と言った。僕は全然わくわくしない。靴を脱いで、家の中に戻った。

しばらくして、外に出ていたお父さんに「おーい、いいもの見せてあげるから、出ておいで」と呼ばれた。僕はこたつに入ってゲームをしていたのに、お母さんも「ほら、行ってきなさい」というので、しかたなくまた靴を履いて外に出た。そしたら、大きな木の板に寝かした杖が2本ついてるみたいなのが、僕の目に飛び込んできた。お父さんに「さ、ここにのってごらん」と言われたままに、それに乗ったら、するすると動き出して、僕は慌ててしがみついた。お父さんが「これはソリと言って、サンタクロースの乗り物。サンタクロースにとってはこれが自転車だ」と教えてくれた。サンタクロースの自転車!もっと早く教えてくれればよかったのに!

お父さんが連れてきてくれたのは、山よりは低いけれど、ちょっと山みたいなのがある原っぱだ。今は真っ白いからごはんにかかったシチューみたい、冷たいけれど。そのてっぺんまで登ると、お父さんが僕をソリごと押したんだ。僕は最初「なんてことするんだ!」と思いつつ、一所懸命ソリにつかまって、目をぎゅっとつむった。けれど、3秒くらいしてちょこっと目を開けてみた、僕は見たかったんだ、どんなかんじか。そしたら、僕はぴゅーんと空を飛ぶように進んでた。それから、僕の周りには見たことないような白いフワフワとしたものが飛んでいた。最初雪が降っているのかと思ったんだ。でも、違った。それは地面につきそうになってもまたふわりと浮かびあがって、僕についてきていた。絶対にそうだ。間違いない。

「お父さん、今の見た⁉僕の周り、白い妖精みたいなのいた!」と僕が大きな声で話しながらお父さんの方を振り向いたら、「え?何もいなかったよ」と言われた。おかしい。2度目にソリで滑った時は、歌も聞こえた。3度目には小さな小さなソリに乗って僕の横を滑っていた。なのに、お父さんは何度聞いても、「何も見えなかった」としか言わないんだ。そんなわけないのに。お父さんが「もう最後にして帰ろう。お昼ごはんの時間だ」というので、僕は最後にもう一度滑った。そして、僕は話しかけてみた、初めて会った白い妖精に。

「ねえ、君たちだあれ?」と僕が聞いたら、「君は知っているわ」と答えた。やっぱり妖精なんだ、と思った。「なんでここにいるの?」とまた僕が聞いたら、「今日はお休みなの。もう今年のプレゼントは準備できた。だからここにいるの」と教えてくれた。前をみたらもう下についてしまいそうだった。「ねえ、また会える?」ともう一つ聞いてみたら、「きっと、君が私たちを忘れなければ」と言った。

山の下に着いたら、お父さんも降りてきた。そして、妖精たちの姿はどこにも見えなくなってしまった。僕はもう、お父さんにその話をするのは辞めにした。なんとなく、お父さんがかわいそうな気がしたから。だって、忘れてしまったみたいだったから。僕は一生、覚えていよう。そして、またきっと彼らに会うんだ。


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