坂道の街

冷えた林檎みたいな赤色を纏っていた。
突き刺すように背伸びして、君の全身は呼吸する。
坂道ばかりの街の空を、その小さな体で見上げて居たいと君は言う。
喉から朝日が昇るような、透き通った悲しみがこの街を照らす星々の正体と仮定したなら、
夜の瞬きの、その隙間からこぼれる歌は、子どもたちの安心の証。
誰が死んでもこの街から安心の歌が途絶えることはなく、みんなは天国を信じていた。
さあ、僕らも、夜空を這う海月に乗って旅に出よう。みんなに会いに行こう。
柔らかく、摩擦が世界中に拡がる。すべてが碧くのみこまれていく
君は僕を最低と称し、一番大切にしてくれました。

そして、息もできない僕を横目に9度目の春を跨いだ。

前髪から覗く君の性に違和感がなかったわけじゃない。小さな口や鼻、美しい眉の形を思い出す度にその瞳の奥だけは知らないということ、睫毛の陰からどんどん遠ざかっていく気配を受け入れたわけじゃない。
恋を目の前にして全ては肌触りでしかなくなったよ。あの頃は君さえ風景だった。
この街が好きでした。
時の流れでさえ真っ直ぐではないのです。誰かを振り払うように蛇行しながらも前へ。
今では僕の方が背が高いけれど、
宇宙で1番先に朝が来るのは君の額だ。