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なぜクマは長い冬眠中に筋力を維持できるのか

今回は、なぜ熊が冬眠中に筋肉量を維持できるのか、そのメカニズムを明らかにした研究をご紹介します。
非必須アミノ酸が冬眠中の筋肉量の維持に重要であることが示唆されています。
このメカニズムは、筋肉量が減少してしまう様々なケース、例えば、長期間にわたる入院や、運動量の少ない高齢者に起こる筋肉量の減少を抑制することに応用できる可能性を秘めています。

筋萎縮はQOL(生活の質)を下げる

筋肉は、長い間使われないと萎縮してしまいます。
この筋肉がやせることを筋萎縮といい、高齢者や長期にわたる入院、宇宙飛行中など、長い期間に渡って筋肉を動かさなくなるような場面で起こってきます。

筋が萎縮すると筋力も低下し、今まで出来ていたことが出来にくくなるため、QOL(Quality Of Life: 日常生活の質)が著しく下がります。

筋萎縮を食い止める、あるいは、萎縮してしまったあとに筋肉量を復活させるような効果的な治療法があれば、高齢者のQOL改善や、入院期間の短縮につながります。

冬眠する動物が、筋萎縮治療法のヒントをくれる

自然界には、冬の間は冬眠して全く動かずに生きる動物がいます。
クマやリスが冬眠することは皆さんよくご存知だと思います。

でもクマやリスは冬眠が明けた直後でも、筋肉量が減って動けないということにはなりません。

なぜ冬眠中の動物では、長い期間全く運動をしないのに、筋萎縮が起こらないのでしょう。

今回紹介する研究では、冬眠する動物で筋萎縮が起こらないメカニズムを調べて、ヒトの筋萎縮治療に応用しようとしています。(↓論文)

Proteomic and Transcriptomic Changes in Hibernating Grizzly Bears Reveal Metabolic and Signaling Pathways that Protect against Muscle Atrophy.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31882638


この研究では、冬眠中のクマ(グリズリー)の筋肉中の遺伝子発現やタンパク質発現を網羅的に調べて、冬眠中に筋萎縮が起こらないメカニズムを明らかにしようと試みています。

非必須アミノ酸が、冬眠中の筋萎縮を防ぐために重要

この研究では、まずはじめに、冬眠中のクマの筋肉では非必須アミノ酸の量が増加していること示しています。
逆に高齢者の筋肉では非必須アミノ酸量が減少していることも明らかにしています。

非必須アミノ酸とは、体内で合成が可能なアミノ酸のことです。
タンパク質を構成しているアミノ酸20種のうち、 11種類が非必須アミノ酸となります。
非必須アミノ酸は、体内で合成できるため、 必ずしもそれ自体を摂取する必要はないのですが、体内で重要な役割を果たしているものも多いです。

またこの研究では、非必須アミノ酸を培養中の筋細胞に添加すると、筋萎縮が抑制されることを明らかにしています。

ですので、非必須アミノ酸の摂取が、筋萎縮の抑制に効果的であることを示唆されます。

筋萎縮抑制に重要な遺伝子:Pdk4とSerpinf1

次に、冬眠中のクマと、筋萎縮が起こっているヒトの遺伝子発現を網羅的に比較しています。

冬眠中のクマでは、筋萎縮しているヒトに比べて、Pdk4とSerpinf1という2つの遺伝子の発現量が低下していることが明らかになっています。

またこの2つの遺伝子発現を抑制した培養筋細胞では、筋萎縮が抑制されることが調べられています。
よって、Pdk4とSerpinf1は、筋萎縮治療薬のターゲット(標的分子)になりうることが示されています。

人間以外の動物種の生態を研究して、ヒトの疾患を考える際のヒントにするというのはとても面白いですし、他の動物 = "自然" に学んでいる感じがしていいですね。




今後も分かりやすい、簡潔な記事を心がけていきます🙇🏻‍♂️