Ride on Shooting Star

チルアウトしていると不意に音楽を聴きたくなる。時には想像でも良いが、やはり直接的な視覚を感じたくなる。最適解は自身がYouTubeで作った好きなアニメの曲のプレイリストだ。ランダムを回すうちにFLCLの映像と共にthe pillowsのRide on Shooting Starが流れてくる。海外でも人気のアニメだ。僕がプレイリストに入れたのは歌詞原文とアルファベットでの発音と英語訳の字幕付きのものだった。ぼんやりと眺め、曲が終わりかけの中で衝動的にもう一度初めから巻き戻した。英語訳に違和感があった。ファンが投稿したものだから、安易なGoogle翻訳ではないはず。そんなことがあるのか?もしかしたらこれは日本語が持つ特異性を知ることができるのではないか?そうして僕は、取り掛かった。

オレンジのスライド映す空
The sky refrects an orange slide

https://www.uta-net.com/song/58895/

直訳すると「空がオレンジのスライドを反射する」。
理解できなくはないが、僅かな違和感を覚える。「空が」「オレンジのスライドを」「反射する」。語句による分断が強く、一文として成立しているせいで酷く文章的に感じる。日本語では「オレンジのスライド映す空」という一つの名詞である。もちろん名詞のみでも文章としては成り立つし、文節も存在していることは承知しているが、そもそも句か名詞ではその持てる刹那が違う。感覚的に一言で済むものが、区切られている。時間は現在の我々の持てる知恵を以てしても、可変できないものだ。そんな偉大なものを、表現できていないままに、世界向けに変換されたものがこのような状況であることに愕然とした。僕が訳すのであれば「Oranged slide refrected sky」である。やや形容詞的過ぎるが、それも織り込んでの訳だ。僕のファッキンでチャイルディッシュな英語力的感覚で言えば、英語はしばしばクドい形容詞を避ける傾向にある。これはそれほどでもないが、些かそういう感覚を抱いてしまう。そんなプライドが邪魔をする。だから避けられたのではないか、そのような事態を思わせてしまう訳である。

スポンジのプライドぶらさげて
and dangles the sponge pride

https://www.uta-net.com/song/58895

まずandが気になってしまう。「オレンジのスライド映す空」は、句点で区切られているはずだ。なのに小文字のand!?!?!?このぶら下げてはぶら下げてではない。ぶら下げている状態を表している。ということはつまり「The sponge pride dangling」でなければならない。なのに「空がオレンジのスライドを反射して、スポンジのプライドをぶら下げてる」という意になってしまうではないか!あれ?こうして繋げてみると時制的な違和感はほとんどないな。でもなんか気に食わない。…そう!結局のところandが気に食わないのだ!なんだよ「と」って。「オレンジのスライド映す空"と"スポンジのプライドぶら下げてる」って!!!そこにいらねえよ!!!繋がっちゃうじゃん!!!繋げないっていう行間が欲しいじゃん!!!なんで足してるの!?!?!?ってなるじゃん!!!そういうこと。

スパイダー生け捕ったその予感に
Spyder. The opprehension that was caught alive

https://www.uta-net.com/song/58895/

え?スパイダー区切っちゃうの?違くない?そこ区切るところとじゃなくない?強いて言えば俺なら「Touch the aliving spider inside」だね。まず歌として、Spyderを区切ってしまう気持ちはわからなくはない。でも、ここを我慢して、繋げるのが本質である。ふと蜘蛛を生け捕りに掴んでしまったその感覚。その表現が求められている。この邦訳は難しい。「生け捕りの不安」か「生け捕る不安」と訳すべきか悩ましい。何れにせよ納得しきれないのだ。「蜘蛛を生け捕ったその予感に」以上の訳はないのだ。これは歌詞だから一見次の文節に繋がっているように見えなくても仕方がない。そのままならば「Concerning the aliving spider inside」が最正だ。原文にinsideに相当する言葉はない。だが蜘蛛の予感を感じるとすれば、主に手の内側だ。口もあるかもしれないが、その場合は強烈さを伴う食感か、予感程度の希薄でしかなく、どの道これ以上の濃淡が伴ってくる。他の部位だろうが同じこと。兎にも角にも、この的確さと想像性を残すには"inside"しかない。

隠さなくなくたっていいんだ
It's okay, even if I don't hide it

https://www.uta-net.com/song/58895/

は???また区切られてるやん???今度は「,」で。いらんてそれ。「Don't have to hide」でいいねん。そもそも原文は一文やん?なんで読点に相当するものが入るの???「It's okay」ってなんやねん。ガキみたいに「大丈夫だよ、私は隠さなくても」って。曲調ではそのまま流すように歌うじゃん?なのにわざわざ余計なカンマが、まるで諭しているかのような時間を与えてしまっているじゃん???
それに本当に「I」だろうか、ここで綴っているのは。Youでも良いし、He/Sheでもいいし、Weでもいい。誰に向けているかわからない余白が!!!ない!!!誰でも良い、というのはまるで相手に何も期待していないような気がしてしまい、日本語的には避けがちな表現である。あくまでそれは口語上での話あって、ストーリー性やメッセージ性をぼやけさせても許される歌詞においては、関係のない話だ。でもそのような印象を少しでも抱かせないためにも、主語を抜いて「隠さなくたっていいんだ」としているのだ。なおのことカンマなんてちゃんちゃらおかしい。CSVかよってなる。

色のついた夢見たいな
I want to have a colored dreams

https://www.uta-net.com/song/58895/

はいまた「I」~!歌手か聴き手かなんてどうでもよくない?「Wanna have a colored dreams」じゃダメぇ?テンドンだからもう次移るよ。

Ride on shooting star

https://www.uta-net.com/song/58895/

まあここは世界共通だよね。なんてったってみんな学校で習ったもんね。Google翻訳君の「流れ星に乗って」にも違和感を覚えないもん。はい次。

心の声で散弾銃のように歌い続けた
The voice of my heart is like shotgun but I keep on singing

https://www.uta-net.com/song/58895/

またすぐ区切るやん!!!どこが区切ってるって?「The」だよ「The」!!!イニシャルが大文字ってことは、文章がひと段落したっていう感覚があるの!!!「Ride on shooting star, with singing shotgun voice from my heart」だよ!!!コンマよりも、イニシャルがデカくなる方が境界性を強く感じるの!!!
さっきの主語を否定した流れに反して「my」があるのはなんでかと問われれば、自身のものを表現するものが他にないから。ニュートラルな所有が他にない。ここでは「my」にするしかない。「yours」でもいいかもしれないが、そうすると聴き手に届けようとしすぎてしまう。誰の「my」か敢えてわからなくさせることが、可能な限りの表現に繋げているつもりだ。
「心の声はまるでショットガン、だけど僕は歌っている」逆変換するとこうだ。いらんいらんいらん。まるでに相当する「like」どころか「だけど」に相当する「but」なんてもっといらん。

疲れた。言語にはここまでのギャップがあるのだ。熱心なファンであろうと、原住民からすれば違和感なのだ。本当は2番とラスサビまで書くつもりだったが、エネルギーを消費しすぎたのでここらへんにしておく。

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