景虎
『死者との対話』 石原慎太郎 著 考察
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『死者との対話』 石原慎太郎 著 考察

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 表題にもなった本作は令和元年7月号の文學界に掲載された作品である。慎太郎氏御年87歳で発表されたものだ。


 こうして考えると、昭和〜平成〜令和と常に文壇を引っ張り、注目され続け、まさに第一線にいた作家であったとしみじみ感じる。昭和を知らない世代にも、作品を通してその時代を教えてくれた存在でもある。


 本作は意外にも大学4年生を主人公として描いており、アルバイト先で出会ったひとりの患者との物語を丁寧語で表現している。ただ、書きたかった視点はむしろ患者側の方であり、その表現をむしろしやすくするために大学生側を主人公にしたのではないだろうか。


 収録されている氏のもうひとつの作品『––––ある奇妙な小説––––老惨』と同様、死生観も描かれており、死後の世界があるのかないのかという点や、難病と向き合う患者の視点が描かれている。内容は決して類似しているわけではない。


 特筆すべきは、慎太郎氏特有の海に関する記述と、命を看取る側の心情に重きを置いて描かれている点だろう。この患者の台詞には氏の小説『公人』のモデルにもなった賀屋興宣氏が慎太郎氏に語った死生観がそのままの言葉で表現されている。


『公人』は確か『わが人生の時の時』(新潮社)に収録されていたと思うが、この賀屋氏の言葉は慎太郎氏の随想には度々登場する。例えば『私の好きな日本人』(幻冬舎)でも賀屋氏について取り上げていて、そこでも出てくる。


 本作『死者との対話』の後記には、河合隼雄氏の座談の中の挿話にヒントを得て書かれたと記されている。河合隼雄氏は調べてみると、心理学者で文化庁長官等を歴任した方のようだ。


 どの部分が想を得て描かれたのかはわからないが、題目である『死者との対話』を意味する記述は慎太郎氏が元々持っていた種ではなかろうか。この題目の由来は明らかに作中に登場する「不思議な電話がかかってくる」と言う点にあるだろう。その不思議な電話は、創作ではなく実際にあったのだろうと推察する。霊的現象ではあるが、世の中には人知では計れない事も稀に起こる。


 おそらくは慎太郎氏が海と人生を共にする中で、実際に聞いた話ではないだろうかと推察する。あくまで一読者としてそう思うという私見ではあるが。


 こうして読了すると、もっと氏の小説を読みたかったなぁという気になる。まだまだ読んでいないものも多くあるのだが。


 本書も残り4話の短編となった。読んだらその都度、感想を上げる事にしたい。


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〜私的な詩的表現の詩的な私的物語〜 小説を通して国家を謳い、伝統文化を伝える/尊敬する人物:石原慎太郎、高杉晋作、古賀俊昭/小説・短歌・書評・随筆・ルポルタージュ/毎日更新/「忖度」「〜させていただく」という言葉の誤用には日本語の乱れを感じる。本来の日本語(国語)文化を守るべき。