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石原慎太郎氏 『死への道程』を読んで。

景虎



 文藝春秋4月号に掲載された石原慎太郎氏最後の寄稿「死への道程」を読んだ。慎太郎氏の寄稿がなければ文藝春秋なんぞ読まないのだが、この文章のためだけに手に取った。

 6頁ほどの文章の中に最後まで死に向き合い続け、哲学的に捉えようとしていた様が詰め込まれていた。


 自分の死とは自分だけに与えられたものだという主旨で述べているが、この「自分だけに与えられたもの」という箇所は慎太郎氏の文学作品を嗜んでいる者なら思わず目を止めるだろう。この概念は氏の文学作品に散見される副題と言っても良い。もちろん氏の作品の主題は「死」(生と死とも言える)だが、ともすればこの記述はその主題と副題が見事に組み合わさった文章と言える。


 ここまで死というものを深く考察し続けた人間もいないのではなかろうか。それは文学者という一面も相俟っての事に違いない。あるいは氏が政治の現場で直面した数々「死」も考察の一因になっているのではないか。

 この寄稿の中に氏の小説である『死者との対話』収録の『––––ある奇妙な小説––––老惨』に同様の記述があり、あれはやはり私小説だったのだと確認できた。


 寄稿は氏の作品に数多く登場するアンドレ・マルロオの名文句で締め括られているが、途中にはジャンケレビッチの労作『死』にも言及している。この本は先日参列した石原慎太郎さんのお別れ会において再現されていた書斎に積み上げられた本の一番上にあったものだ。




 慎太郎氏の寄稿の次には四男の延啓氏の寄稿が掲載されている。それによると慎太郎氏は『死への道程』を書いて、すぐに文藝春秋へ掲載してもらう事を望んだそうだが、闘病生活を静かに送る事ができなくなる可能性を考えたご家族の判断で判断で見合わせそうだ。『死への道程』の文章も「まだ格好を付けている」という事だが、息子ならではの視点だろう。


 延啓氏の寄稿はそういった息子視点で存分に語られており、やはり慎太郎氏のお子さんなのだなぁと思わせる博識を感じさせる記述も多かった。ちなみに上記リンクの「お別れ会」の記事でも書いたが、延啓氏に「文藝春秋の寄稿、拝読しました」と言ったら「ありがとうございます」とお返事を頂いた。延敬氏は5月号にも寄稿しているようなので、いずれそちらにも目を通したい。


 さて、先に述べたように慎太郎氏の寄稿がなければ文藝春秋なんぞ読まないのだが、ついでに読んだ他の記事を自分のためのはしがきのように羅列しておく。


巻頭随筆
・『生意気な小僧だよ』藤原正彦(作家・数学者)
 作者の父親、新田次郎氏が直木賞を取った際に芥川賞を取ったのが大旋風を巻き起こした石原慎太郎氏であり、その説話が書かれていて面白かった。特に作者と慎太郎氏が会った時の慎太郎氏の回想が紹介されているが、印象的だった。


・『「あの日」の西村賢太さん』阿部公彦(東京大学教授)
 西村賢太という文字を見て読まずにはいられなかった。西村氏も本当に魅力ある小説家だ。


・『大久保利通』塩野七生(作家)
 作者が明治維新を革命と表現しているが、革命という言葉の認識を違えている。明治維新は革命ではない。


本文
・『尖閣〝日中激突の海〟を見た』山田吉彦(東海大学海洋学部教授)
 虎ノ門ニュースや民放の番組でもお馴染みの山田先生のルポルタージュ。虎ノ門ニュースの特集でも取り上げられていた内容だったが、改めて活字で読んで勉強になった。

・『三途の川で待ってろよ』亀井静香(元衆議院議員)
 石原慎太郎氏への追悼文。月刊WiLL「甘辛問答」でも対談していた御二方。亀井氏は慎太郎氏の政治参加について文化人、芸術家としての遊び感覚に近いというような事を言っているが、決してそうではなかったろう。慎太郎氏の政治姿勢を見ても、そして著書『国家なる幻影』等々を読んでも、必死だった事がわかる。
いま、東京の空が青いのは彼のお陰です」とディーゼル規制の功績を称えていた言葉が印象的だった。


・『ベストセラーで読む日本の近現代史』第103回 『白い巨塔』(山崎豊子著) 佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
『白い巨塔』(山崎豊子著)を取り上げて論評している。私は原作を読破しているし、唐沢・江口版のドラマの大ファンなので興味を持って読んだ。
 佐藤優氏には何の興味もなかったが、これだけの頁数に十分過ぎる程に内容がまとめられており、原作を読んだ時の事を思い出せた。キリストを引用しての記述や、最後の作者の体験を交えてのまとめ方も良かった。

・編集だよりの慎太郎氏に触れた記述部分


 おそらくこれくらいだろう。


 それと慎太郎氏の『太陽の季節』と当時の芥川賞選考委員の書評が掲載されている。『太陽の季節』はもちろん何年も前に読了済みだし、慎太郎氏の受賞の言葉もとっくの以前に読んでいる。選考委員の書評は特に読んでいたないが、今述べた全てのものは私が所持している芥川賞全集にも記載されているのでぱらぱらと目を通した程度だった。


 文藝春秋では慎太郎氏の寄稿に際して、「絶筆」と題されているが、それは形骸的なものでしかない。氏が書いた作品は生き続ける。


 美空ひばりの歌の詞から「いつかは沈む太陽だから」という引用をしながら慎太郎氏は語ったが、氏が我々の心に灯した太陽は沈む事はない。


 ちなみに表画の写真が使われていたのも良かった。



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景虎
〜私的な詩的表現の詩的な私的物語〜 小説を通して国家を謳い、伝統文化を伝える/尊敬する人物:石原慎太郎、高杉晋作、古賀俊昭/小説・短歌・書評・随筆・ルポルタージュ/毎日更新/「忖度」「〜させていただく」という言葉の誤用には日本語の乱れを感じる。本来の日本語(国語)文化を守るべき。