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夢・お茶室で直木賞受賞の電話を待つ

 台風の接近の日にもかかわらず、茶道のお稽古に多くの生徒さんが集まって来ていた。さすがにこの台風の中、着物で来た生徒はいなかった。かく言う私も正座をして支障がないように、ボトムはNorth Faceのトレッキング用のズボンに白い足袋。上は紺系のストライプのアロハシャツと言う出で立ち。第三者から見れば、この人、何考えてんだろうと思われるが、ここは茶道のお稽古。みんな納得してくれる。
 お稽古の茶室に入るなり、先生も開口一番、
「御機嫌よう。蜻蛉さんも、今日は台風バージョンの出で立ちね」
 と、ご挨拶。
「はい。外に出るまで何度も悩みましたが、これが無難かと思いまして」
 ということで、
「本日もお稽古、よろしくお願いいたします」
 と始まった。まずは、私はお客様の役。主人のお点前は、姉弟子の「茶杓飾り」。
 問答の場面になった。ほとんど、先生のオウム返し。
「お茶杓のおいわれは?」
 と、お客の私が質問。主人の姉弟子は、ここで詰まった。
「・・・・・・」
 しばらくして先生が助け舟。
「たとえば。わたしの菩提寺は、K県の禅宗の総本山のS寺。そこのご住職におめでたい日のお祝いにいただきました、と言う感じ。嘘をつくのも大変よね」
 姉弟子は、助かったとばかりに、
「〇〇〇○のお祝いにいただきました」
 その後、主菓子についての問答。
「ご銘などございましたら」
「鈴虫にございます」
「このゴマが鈴虫に見えます。風流で結構なお道具、ありがとうございました」
 今度は、私が主人の番で「お棗飾り」のお点前。
 古帛紗を出して、お棗拝見。
 お客役の妹弟子に、質問される。
「お棗のおいわれなど、ございましたら」
「はい。文学賞の受賞のお祝いに、先生にいただいたものでございます」
 その時、先生は部屋の反対側で別の姉弟子のお稽古のお相手をしていらした。私の答えを耳にして、時を得たりと破顔一笑して一言。
「蜻蛉さん。受賞したら、本当にお祝いでさしあげますよ」
 その言葉に私もつい、
「先生、頑張ります。直木賞の受賞のおりは、その報せの電話を、姉弟子の方々と先生に囲まれて、このお茶室で待ちたいと思います」
「そうね。お約束よ」
「はい!」
 と、お稽古の場でも激励していただきました。
 ということで、直木賞を受賞するまで、茶道のお稽古のお茶室通いは、やめられないことに・・・。

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