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ボリュームインフレーションとだらだら展開が、いかにして時代に合わなくなったか

※2016年の時点では自分の推論や分析に妥当性があると考えていましたが、2020年5月に消費者白書などを調べた結果、妥当性が弱いこと、つまり、推論や分析に誤りがあることが判明しました。

現時点で最新の推論は、こちらです。「商業エロゲーが黄金期を終え、一時的に衰退した理由についての推論」。

以下の文章については、2016年当時の誤った推論としてお読みください。

 美少女ゲームのパッケージ市場が2000年代後半から縮小したのは、次の8つの理由による。

1.2004年の『Fate』以降、ストーリーゲームにシフトしすぎたところでラノベブームが爆発、ラノベと競合状態に陥って客を失った
2.2008年のリーマンショック&格差社会のコンボが、エロゲー購入層の財布を直撃した
3.上記2つにより、全国レベルで、エロゲー売り場が減少した
4.2004年に同人ゲームが隆盛、抜きゲーと競合状態に陥った
5.2008年以降、スマートフォンが浸透を始め、2011年に一気に広まり、可処分時間を奪った結果、エロゲーに当てられる時間的&金銭的リソースが減少した
6.2011年のMacBookAir以降、ノートパソコンの軽量化&薄型化に拍車が掛かり、光学ドライブが内臓ではなくなったことが、若い顧客の流入を減少させる大きな一因となった
7.キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した
8.ストーリーの展開速度が速い物語に慣れた90年代生まれの子たちが流入してきた時、新しい顧客層に対して対応(展開速度のスピード化)ができず、客離れを起こした

 おおよそほとんどすべての理由には、外的な理由と内的な理由とがある。また、物質的な理由(モノの誕生や拡大による理由)と非物質的な理由とがある。

 今回の場合でいえば、外的な理由は2、3、4、5、6。内的な理由は1、7、8。物質的な理由は5、6。非物質的な理由は1、2、3、4、7、8である。

 美少女ゲームは、2000年から10年をかけて50%市場が縮小し、さらに2011年から5年かけて50%市場が縮小した。8つの理由のうち、いくつかは2000年代の縮小に大きく関係し、いくつかは2010年代の縮小に関係している。

 2010年代に入って市場を縮小させた原因は、

2.2008年のリーマンショック&格差社会のコンボ
5.2008年以降、スマートフォンが浸透を始め、2011年に一気に広まり、可処分時間を奪った
6.2011年のMacBookAir以降、ノートパソコンの軽量化&薄型化に拍車が掛かり、光学ドライブが内臓ではなくなった
7.キラータイトルが減少して、若者の注意を引き寄せる機会が減少した
8.ストーリーの展開速度が速い物語に慣れた90年代生まれの子たちが流入してきた時、新しい顧客層に対して対応(展開速度のスピード化)ができなかった

 
である。このうち、

8.新しい顧客層に対して対応(展開速度のスピード化)ができず、客離れを起こした

 について、具体的にどういうプロセスでそうなっていったのか。改めてまとめておきたい。矢印を使ってまとめると、こういう感じである。

・2000年の『Air』の大ヒット
・DVD-ROMの普及


上記2つにより、2000年頃にボリュームインフレーションが発生。『Air』以降、美少女ゲームのシナリオ量は、KB(キロバイト)の時代から、MB(メガバイト)の時代に入る。

シナリオ量が増えた分、序盤~前半のテンポがスローになる

コントロールキーで飛ばす顧客も多少増えるが、そのだらだらを楽しむ顧客も増加

ボリュームインフレーションによってもたれされただらだら展開は、「がんばっても意味は見つからないし成功もしないし、傷つきたくない」というY世代にマッチ

シナリオ量を増やしたのに、「シナリオ短い!」というラウド・マイノリティの声があがる

ソフトハウスはシナリオ量をどんどん増やす

シナリオ量が増えた分、序盤~前半のテンポが非常にスローになる

だらだらには必要なだらだらと不要なだらだらがあるが、不要なだらだらが増加

コントロールキーで飛ばす顧客が増加、でも、萌えバブルで潜在的危険はわからないまま

2008年頃、時代がシフト、速いストーリー展開に慣れた世代(90年代生まれの世代)が流入

新しい顧客には、ボリュームインフレーションによってもたらされただらだら展開や、序盤~前半の超スロー展開は退屈or苦痛

新しく入ってきた顧客の定着率が低下

2008年付近から、エロゲーのパッケージ市場の顧客年齢が上がりはじめる

スマホの浸透や格差社会の浸透により、可処分時間が減少。既存客がエロゲーをプレイする時間が減少。新しい顧客の感性も変化

ボリュームインフレーションによってもたらされただらだら展開や、序盤~前半の超スロー展開は、メインの顧客に合わなくなっていく

業界側はその変化に対応できず

ますます顧客離れ

 一言でいえば、変化した市場(顧客)に対してアジャストできなかったということである。

2000年代前半……たくさんのシナリオボリュームやだらだら展開を歓迎
2010年代……スピーディな展開を歓迎。だらだら展開は忌避

 このように、時代がシフトしてしまったのだと思う。だが、序盤~前半のストーリー展開をスピーディにすることは、業界全体としてはできなかった。ストーリー展開をスピーディな方向へシフトするには、ディレクターのパラダイムシフトも必要だったろうし、シナリオライターのスキルアップも必要だっただろうが、一番は、時代の変化に気づくことが必要だった。

 ボリュームインフレーションと、それによってもたらされただらだら展開とは、2000年代前半までは効力を持っていたし、2000年代前半までの市場に合っていた。両者は当時の時代のニーズに合っていたのだと思う。

 しかし、2010年近くになって時代がシフト&顧客が変化すると、両者は時代(市場)に合わないものとなっていった。にもかかわらず、対応できなかったため、さらに顧客離れを促す一因となった。 

 主因かどうかは今の時点ではわからない。ぼくは一因――ひとつの原因としてこの文章では位置づけている。

 美少女ゲームは、元々序盤~前半の展開速度が漫画なみに速かったわけではない。だが、90年代のシナリオ量は、それほど多くはなかった。ぼくが業界に入った95年、ゲーム1本全体で200kbのシナリオを書いたら、「もっと減らしてくれ」と言われた経験がある。99年でも、ゲーム1本500kbあれば充分だった。

 ゲーム1本1MBが当たり前となったのは、『Air』以降である。すなわちボリュームインフレションの発生である。明らかに美少女ゲームのシナリオ量は多くなったのだ。今ではゲーム1本2MBが標準になっているようだ。その分、序盤~前半の展開はどんどんスローになり、だらだらが増えていった。特に不要なだらだらが増えていったのだろう。それはその当時は時代に合ったものだったが、時代に合わなくなった時にもそれが継続されたため(つまり、新しい時代や顧客へのアジャストが行われなかかったため)、顧客が離れた。

 ところで、ラノベだってだらだら展開はあると主張する人がいるが、ラノベ1冊は200~250kbである。200kbレベルでのだらだらのたるさと、2MBレベルでのだらだらのたるさは同じものではない。シナリオ量500kbレベルのエロゲーのだらだら展開のたるさと、1MBのエロゲーのだらだら展開のたるさと、2MBのエロゲーのだらだら展開のたるさもまた、決して同じものではない。シナリオ量が500kbから2MBへ増えたといっても、イベントCGが4倍の分量になるわけではない。必要なプロット成分を巧く補充できない限り、どうしても不要なだらだら展開は増えてしまう。そして、それは新しい顧客にはミスマッチとなってしまう。

 10年という時間は、顧客が変化すること、それに対して制作者がパラダイムをシフトさせることを要求する。それができないと、女性向け雑誌『cawaii』のように廃刊ということになるのだ。

 かつて、女子高生に思い切り人気があった『cawaii』という雑誌があった。数十万部を売り上げていた業界ナンバーワンの存在だったが、96年当時の「女子高生の実像」と、10年後の2006年当時の「女子高生の実像」とは違うものになっていた。だが、96年当時の女子高生の実像をベースにして紙面作りを継続。結果、売り上げの減少が止まらず、廃刊となってしまった。

 2000年代前半の美少女ゲームの顧客の実像と、2010年代の顧客の実像とは違う。今の顧客の実像を把握し、さらに今の顧客に合わせられなければ、当然の如く売り上げは減少するのである。

というわけで。

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作家。ゲームシナリオを書いて25年。中世国際政治が舞台となるゲームをつくっています。高校生が城主になって活躍するラノベも書いてます。ゲームシナリオのハウツー本も書いています。拙著『非実在青少年論』の中で、東浩紀のデータベース消費を乗り越えるウロボロス消費を提唱しています。