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BOOK REVIEW ❻:なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?

大阪箕面高校で最年少民間人校長に採用された、日野田直彦校長の著書で2018年に出版されています。公立高校から海外進学者を輩出し、世界最高峰と言われるミネルバ大学への合格者をも出した日野田先生の4年に渡る取り組み。特に海外とのコネクションを生かしながら、生徒や教員のマインドセットづくりを基礎として、無力化された学校ではなく、教育の本来の目的は何かを呼び覚ますような、独特の取り組みが紹介されています。

日野田先生はご自身が帰国子女でタイのインターナショナルスクールで教育を受けた経験から、「対話の中から、答えが見つかる」という信念で改革を進めて行きます。現場で働く先生方ならよく分かるでしょうが、対話のない学校現場では画期的なことです。日本は慣例主義で同調圧力の強く、残念ながら大切な課題でも議論をせずとも進んでいくことが多くあります。しかし、本来は一人一人が異なる意見を持った多様な集団であり、そのような環境ではゼロベースで対話をしながら進めていくことで落とし所を見つけていくしかありません。インターナショナルスクールで培ったそのようなスキルと情熱で、日野田先生は学校改革を進めます。伝統的な学校の体質を考えると職員からの反感があったことなどもほのめかされていたので普通のハートではきっと成し遂げられなかったでしょう。

特に面白かったのは、マインドセットを変えることに注力していたことです。特にクリティカルシンキング、グロースマインドセットを軸に、自分が何者であるか(Who You Are)を語れる人物になれるよう、そしてそのための自尊心を育む教育に力を入れています。世界の一流のビジネスマンや学者、生徒などとの対話を通して、自分と向き合い徹底的に考え発信していくトレーニングを行います。

英語が話せることは二の次としていますが、マインドセットができてくるに従って、英語力が上がったりチャレンジ精神が旺盛になったりする生徒が増えてくることもとても興味深かったです。

また、タクトピアやベルリッツなど外部機関をうまく活用していたり、戦略的に学校経営をしていくあたりも手腕を感じました。

公立高校から海外の大学へ進学することは、実際にはまだまだ珍しいことです。私自身も10年を超える教員生活の中で海外進学を手伝ったのはたったの一人、アメリカのコミュニティカレッジへ進学したのみです。進路の話を生徒向けにしていても「海外の進学を考えて」といえば、やはり冷たい視線を感じぜずにいられない、そういうレベルです。英語に力を入れていない学校であればそれが現実なのです。

しかし、この本を読んでいてたらそれが特別ではないことだと改めて感じることができました。教育を通して私たちが子どもたちにプレゼントできるものは自由な選択肢を用意すること、と日野田先生は言います。

私自身も、この10年間、毎日授業をする中で「何のための教育か」「どのような能力を生徒につけさせているのか」「それがグローバルスタンダードとどれぐらいズレているか」「なぜその軌道修正が公立高校ではできないか」を考え続けてきました。それは私自身がアメリカで学ぶときに苦労した経験があるからです。今まで真面目に一生懸命勉強してきたけど、それは一旦日本を出れば何も私を助けてくれなかった、と悔しい思いもしました。これからの子どもたちに必要なのはもっと違う能力だ。それを教えたいと思って教師になったのに、それができない苦しさに長く苦しみました。

日野田先生が「クリティカルシンキングやグロースマインドセットなどのマインドセットを変えることを軸にして進めてきたWho You Are が言える人材育成や自尊心を育む教育」として定義しているものを、できればグローバルスタンダードと比較しながら明確にどのような能力(コンピテンシー)のことを言うのかリスト化したい、というのが今の私の目標。博士課程で学びたいと思っています。

Teachers of Japanではティーチャーアイデンティティ (教師観)の発見を通じて日本の先生方がもっと自分らしく教育活動に専念し本来は多様である「教師」の姿を日本国内外へ発進しています。日本の先生の声をもっと世界へ!サポートいただけたら嬉しいです。