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『会社を綴る人』が発売されます

双葉社の文芸誌『小説推理』で連載していた『会社を綴る人』が、単行本になります。11月20日には書店に並ぶそうです。ネット書店でも予約を受けつけています。

『会社を綴る人』双葉社公式サイト

私は生まれついての活字中毒です。就学前検診で強度近眼が発覚して読書を禁じられたり、「お宅のお子さんは学級文庫を読むこと以外、何もしないがあれでいいのですか」と三者面談で問題にされたり、いろいろありました。読むのが好きというよりは、読まないと苦しいと言うほうが近いので、親から見たらほとんど病気だったろうと思います。

大人になった私にとって文字と文書があふれる会社は天国でした。会社の書庫のビジネス書はあらかた読み、他に読みたいものがあれば経費で好き勝手に買ってもいいと言われて、会社とはなんていい所なんだろう、と思っていました。2社目の企業では、400人もの社員たちが交わすメールや連絡書や稟議書などを読むのが好きでした。

書くのも好きでした。一番多く書いたのは市場調査の報告書です。当時の上司にはこう言われました。「口で喋るのが苦手なのなら、紙の上で勝負すればよい」実際そうでした。文書自体に力があれば、取引先の人たちはプレゼンターがたとえ黙っていたとしても、ちゃんと読んでくれるものなのです。

でも、今はコミュニケーション力全盛の時代です。二度目の転職活動をした時、エージェントに言われた言葉が忘れられません。「文章の力なんて必要とする会社はありませんよ」と。

でも、本当にそうだったろうか、と会社を辞めて9年たつ今も思うのです。口から出た言葉はいずれは消えますが、文書は残ります。会社を動かしていたのは、決してコミュニケーション力が高いわけではない人たちが綴る、夥しい数の文書だったのではなかったかと思われてなりません。

『会社を綴る人』はそんな私の「社内文書が好き!」という思いが詰まった小説です。

今回、主人公の紙屋を描いてくださったのは丹地陽子さんです。文章を書くこと以外の能力がないため、いろいろと辛い目に遭う彼ですが、いただいた装画の中の紙屋は微笑をたたえていました。「そうだったな、私も会社勤めは大変だったけど、書いている間だけは幸せだったな」としみじみ思いました。

今作では小説としては一風変わった趣向もご用意しました。最終話で紙屋が書くとある社内文書を、単行本の巻末に付録として全文掲載してみました。小説家としてではなく、会社員として精出して書きました。どうでしょう、こういうのって面白いかしらん?

発売を記念して、明日から5回、社内文書にまつわるプチエッセイを書いてみようと思います。隔日くらいで更新するつもりなので、そちらもあわせてお楽しみください!

朱野帰子

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「マタタビ潔子の猫魂」で第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。既刊本は「海に降る」「駅物語」「会社を綴る人」「わたし、定時で帰ります。」「対岸の家事」他。最新刊は「わたし、定時で帰ります。ハイパー」 。ここでは告知と駄文を書きます。
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