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御伽


 わたくしにはご主人がをります。九つになる少年でございます。ご主人は河原で私を御拾ひになつて、大切に育てゝくださいました。 然し、ご主人には困つたものです。〝カヘルの王樣〟といふ繪本を御讀みになつたご主人は、わたくしにもキスをすれば人間になるのではと思し召しなのです。わたくしは兩生類無尾目、由緒正しき雨蛙。蛙たるもの、人間の温もりに触れるなど言語道斷。ましてやわたくしは雄蛙、ご主人はお姫樣ではないのですよ。ご主人には申し訳ありませんが、貴方のキスをいたゞくことは出來ません。

 翌朝、私はご主人のキスで目が覺めました。ご主人!!噫、生暖かい肌、二足歩行、黑々と生ひ茂る髪の毛、咽を膨らませるだけでは出せないご主人と同じ言葉。間違ひなく人間になつて仕舞つた。はう、此が噂に聞いてゐた懐中時計。一、二、まだあと三分も人間として過ごさなければならないのですか。

〝ネェネェ、しりとりしやう!〟

 まつたく。然し、ご主人の話し相手になるのも惡くないものです。

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※この物語は服飾學生が仕立てた衣裳の元となる
フイクシヨンです。

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