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遠い星の仲間を探して 1

 それにしても、このミーティングってのが苦痛で仕方ない。
パソコンの画面越しに、何かを説明している同僚の話し声が聞こえるけれど、もういい加減にやめてくれ、これ以上は限界だ。
 イヤフォンをつけて、話してる内容は何となく聞こえるようにして、リモートワークの机の上のホコリを拭いたり、アイロンをかけたり、ネコのご飯の仕度をしたりして、まともには聞かないようにしているけど、それでももう限界だ。どうでもいい話にもうかれこれ一時間も費やしている。
 そうして今日もまた、いたたまれなくなって、画面上の「退出ボタン」を思わずクリック、毎週木曜日定例のウェブミーティングの接続を自ら切ってしまった。
 そしてまた、いつものように後悔する。社内会議を勝手に退出してしまったことにではない。どうしてこんな世の中に生まれちまったのか、どうしてこんなにも違うのか、一体彼らの具体的にどこが不満なのか。そんな堂々巡りの自問自答に、いままで何万回と繰り返してきた疑問に一向に答えが見つからないことに。
 私が彼らの輪の中に決して入ることができない、その理由を探し求めてきた、思えば私の人生を要約すれば、そういうことだろう。
 ウェブ会議のパソコンの画面の向こうで、ハキハキと大変に明るく言語明瞭に受け答えをし、上司の質問にも一点も滞ることなく、さっきから見事な主張を展開しているこの男。こいつがどうにも許せなくて、人間のカス、こいつがいなければ人類全体に幸福が訪れるとさえ思うほどの最低な人間だと、勝手ながら自分の中では太鼓判を押したにもかかわらず、そういう男が、メンバーみんなの人気者で、上司からの信頼も厚く、さっきのウェブ会議でも、部長から、なんやらチームの仕事を統括するようにと仰せ付かり、なんたらチームのリーダーに選任されたのを見たばかりだった。
 そうなんだ、私がどうにも食えないカスと見込んだ人間が人気者として重宝され、取り立てられ、信頼され、反対に、この人の先行き見るに絶えない、どうかささやかな幸せをこの人の上に降り注ぎたまえ、と祈った人に限ってますます前途多難な人生が待ち受ける。
 私は何も過分なものを要求しているつもりはない。ただ教えてほしいだけなんだ、どうして受け入れてはくれないのかを、自分の一体どこがいけないのかを、どうしたら受け入れてくれるのかを。
 私とあの人たちとを隔てるものは一体何なのか、あの人たちと、いったい何が違うのか。ただ知りたいだけなんだ。

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