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もし子どもがLGBTQ+だったら―親の立場から

 カナダはLGBTQ+に対して理解のある国です。しかし、他者の性には寛容でも、自分の子どもの性自認や性的指向がマイノリティに属する場合はどうでしょうか?カナダで子どもを育てた親の立場から考えてみたいと思います。
 


カナダはLGBTQ+に最も寛容な国


 LGBTQ+は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングまたはクィアを指し、現在では、「+(プラスアルファ)」を付け特定の性自認に当てはまらない人も含みます。性とは0か100ではなくスペクトラムであり、また個人差があり、どの枠にもはまらない人がいるということが、次第にわかってきました。

 カナダはLGBTQ+にとって世界一安全な国の1つだそうです。同性婚は2005年に世界で4番目、ヨーロッパ圏外では最初に合法化されました。一方、お隣りのアメリカは、ますますLGBTQ+に対する締め付けが強くなりつつあります。学校でのLGBTQ+教育の禁止や、トランスジェンダーの人々の競技参加の禁止などを含む法案が、各州で相次いで可決されています。カナダ政府は、LGBTQ+であるカナダ市民がアメリカへ旅行する際、法律や差別に注意を払うよう警告しています。

 しかし、最もLGBTQ+に寛容なカナダでも、残念ながら彼らに対する差別や暴力は存在します。トロントのゲイコミュニティーで2010年代に起こった連続殺人事件は、警察が本腰を入れなかったため、被害者の数が8人にまで増えた経緯があります。

 さて、では、自分の子どもが社会的に差別を受けやすい性的マイノリティであると分かったら、カナダの親はどうするのでしょうか。
 

LGBTQ+の子どもはたくさんいる


 私がカナダで親しくしている友人家族には、知っている限りで4人のLGBTQ+の成人した子どもがいます。娘の小学校からの親友は同性愛者で、高校生の頃からそれがわかっていました。トランスジェンダーや自分のアイデンティティに近い名前に変えた子もいます。

 それに対して親たちはどのような反応だったでしょうか。私が見てきた限りでは、どの親も否定的な態度は全くとっておらず協力的です。そして、私には、子どもに同性の恋人がいることや、ホルモン治療で体をアイデンティティに一致するよう変えている途中であることを話してくれます。

 私や私の家族は、昔から彼らの性自認を知っていたので、特に驚くことはありませんでした。友人や知人がすることは、彼らが望むように「彼」を「彼女」に呼び変えたり、新しい名前で呼ぶようにするだけです(親がまだ時々以前の名前で呼び間違えますが)。

 私のそれほど多くない友人関係の中でも、すでに複数のLGBTQ+の人たちがいるのですから、ごく身近に存在すると考えて良いでしょう。統計によると、カナダの15歳以上の人口の4%に当たる100万人がLGBTQ+であると言われています。日本では、電通の調査によれば、約10%の人々が該当するそうです。日本でもだんだん認知されてきてはいるものの、実際にカミングアウトした人への理解はまだ進んでいない印象を受けます。
 

不安定な時期をサポートする


 10代や20代という年齢では、自分の性自認や性的指向についての認識が不安定です。自分が好きになるのは異性なのか同性なのか。以前ママ友たちと話していた時、今の若い世代は、自分が同性愛者かどうかいったん試してみるらしいという話題になりました。子どもが異性の次に同性を恋人として家族に紹介することもあり、私たち親世代は、それでも何食わぬ顔で対応するのがカナダ式です。

 CNNによると、トランスジェンダーの人々の自殺を試みる割合は、悲しいかな平均より7. 7倍多いとのことです。いじめもひどく、また、ホルモン治療も影響があるのかもしれません。これを見ると、精神状態が不安定な子どもたちに対して、親や知人が余計なプレッシャーを与えたくないと思うのは当然のことだと思います。

 昨年、タレントのryuchellさんが誹謗中傷に追い詰められ、自ら命を絶たれました。男性として生まれ、女性と結婚して親になった後で、自分の心と体の性の不一致に違和感を持ち始めたそうです。円満離婚し、子どもの親としての責任を果たしながら女性として生きていくと決めた矢先でした。結婚して親になったのに今更無責任だとSNSで非難されたようですが、若者の性自認には時間がかかります。勇気をもってカミングアウトした人に鞭を打ち、誹謗中傷した人は、自分の行いを一生悔いるべきだと思います。
 

ジェンダーより大事な親子関係


 私も自分の子どもがLGBTQ+だったとしたら、とよく考えます。そして、何度考えても答えは1つで、ありのままの子どもの存在を尊重して受け入れると思います。子どもを否定して遠ざけることは私には考えられません。

 LGBTQ+について理解するためには、学校教育や情報収集が必要です。今後親になる人も、多様性を受け入れる土台を自分の中に作っておくと良いのではないでしょうか。もし子どもが性自認に関して不安定な様子を見せたら、親は家庭内だけでなく、支援グループや専門家に相談するなどのサポートを受けると良いと思います。LGBTQ+は決して珍しいことではありません。

 良好な親子関係は何事にも代えがたいものです。短い人生、子どもの多様性をリスペクトして受け入れ、豊かな人生を送るのが最良ではないでしょうか。
 
参考:
電通グループ、「LGBTQ+調査2023」を実施 2023年10月19日 https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001046.html
CNN, June 28, 2023, Transgender people face significantly higher suicide risk, Danish study finds https://www.cnn.com/2023/06/28/health/transgender-suicide-risk/index.html

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年5月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-51

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