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日本女性の声の高さは社会の鏡

  ザ・クラウン・シーズン4で、元英首相マーガレット・サッチャー役のジリアン・アンダーソンが、本物のサッチャー以上にかなり低い声で演じているのを観て、冷酷な鉄の女で知られたサッチャーと私に意外な共通点があることを発見しました。今回は女性の声の高さについて書いてみたいと思います。


サッチャーはわざと声を低くした


 マーガレット・サッチャーは、若い頃は高い声の持ち主で、保守党党首選挙に備えボイストレーニングを受けて声を低くした話は有名です。今も残る彼女の演説の動画には、ドスの利いた男性的な話し方をする姿が数多くあります。

 フォーブスに、161人を対象に行った研究で、人は話の内容よりも、実は声の高さや大きさで信頼性に優劣をつけると結論付けた記事があります。声が大きく低い男性的な声の持ち主を、高くてか細い女性的な声の持ち主より信頼できると感じる人が多いそうです。極端に言えば、中身のない薄っぺらな話でも、声を大きく堂々と、低い声で話せば人から信用してもらえる可能性が高いということです。

 また、BBCの記事に、相手を説得する必要がある場面で声を低くするのは、人間だけではなくサルも含めた霊長類の本能だとあります。戦う準備があることを周りに知らしめるためだそうです。

海外女性キャスターの声は低い


 実は、私も20代の頃、意識的に声を低くした経緯があります。時は80年代で世の中はバブル。雇用機会均等法が始まり、日本女性が理想とする女性像が、それまでの寿退社を夢見るお茶くみ女子から、颯爽と闊歩するキャリアウーマンに変わりつつありました。

 ニュース番組での、それまで男性キャスターの補助的役割しかなかった女性アナウンサーに替わり、メインキャスターとして中央に座り、英語を操るかっこいい女性たちが現れ衝撃を受けました。宮崎緑さんや安藤優子さんです。そして彼女たちがお手本にしたのは、アメリカのABCや CBSの女性キャスター、バーバラ・ウォルターズやダイアン・ソイヤーだったのではないでしょうか(想像ですが)。そして、彼女たちアメリカ人女性キャスターたちの声はとても低いものでした。

 男性社会で生き残るため、アメリカの女性キャスターたちはわざと声を低くしていると何かで読み、それ以来私も、女性的な自分の声を半オクターブほど下げて話すようになりました。今ではそれが自分の地声になっています。

日本女性の声が世界一高い理由


 音声ジャーナリストの山崎広子さんは、現代の日本女性の声の高さは世界一、それも不自然なくらい高いと言います。日本女性の声はバブル期に一旦低くなったが(これは私の見解と一致しています)、2000年代に入り、若い女性の声がどんどん高くなっているのだそうです。

 バブルがはじけ不景気になり、かっこいい女性キャスターたちはほぼ姿を消しました。今は、ふわふわスカートの民放女子アナの独壇場です。山崎さんによると、成人女性の地声の平均周波数が220~260Hzのところ、民放女子アナの声の高さはずば抜けて340Hzだそうです。

 一方、海外では女性の声がどんどん低くなっています。日本語を話す時より英語を話す時に自分の声が低くなると気付いた人は多いと思います。前述のBBCの記事に、オーストラリアの研究で、若い女性の声は、1945年から1990年代にかけて229 Hzから206 Hzまで下がったとあります。

 アニメキャラの幼児のような高い声、民放女子アナやタレントの甘ったるい高い声。コンビニに入ると聞こえる「いらっしゃいませ~」という営業的な高い声。どれも作り声です。日本社会は、また、昔のように若くてかわいい女性を求め、女性も社会の要求に答えようと声が高くなっていきます。

 私も日本滞在中は、電話に出た時に不機嫌に聞こえないようにわざと一段高い声を出すことはよくありますが、カナダではまずありません。カナダ人女性が高い声を出さないので浮いてしまうからです。日本女性は、かわいさや若さを強調するためにずっと作り声をしているのです。

かわいい声を出さないところから始める


 ジェンダーギャップ指数下位の国、いわゆる男女格差の大きい国の女性の声は高いそうです。そうなると、男女平等ランキング125位の日本女性の声が高いのは当然と言えるでしょう。子猫のような高い声を出すことで、責任を持つことや人を説得することを自ら放棄しているのです。夫や会社、社会の男性に保護してもらいたい、嫌われたくないと、無意識に刷り込まれているのかもしれません。

 かわいくないと思われるのが怖い。不機嫌だと批判されたくない。愛想がないと決めつけられたくない。そう恐れるのは、自分が他人軸で生きているからではないでしょうか。

 山崎広子さんは、自分が無理に高い声を出していると感じているなら、本来の声、オーセンティック・ヴォイスを見つけて話すようにすると、それは人にも自分にも心地よいはずだと言います。サッチャー氏のように、必要以上に声を低くする必要はありませんが、人為的な高い声を出し続けることは、身体にもメンタルにもよくありません。まずは、不自然なかわいい声を出さないところから始めるとよいでしょう。

参考:
Forbs, Nov 25, 2014 How To Convey Power With Your Voice
BBC, Feb 22, 2022 The reasons why women’s voices are deeper today
女子SPA!June 9, 2022 日本人女性の声は世界一高い。心地いい“自分の本物の声”の見つけ方
文春オンラインJuly 16, 2023 「お局」「笑わないなんて生意気」とバッシングが…「なぜこんな風に扱われるのか不思議だった」安藤優子(64)が学者になることを選んだワケ

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2023年12月号に寄稿したものです。https://torja.ca/kaede-trilingual-46

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