見出し画像

なんか変!?カナダのチップ事情

 最近カナダのレストランでのチップのあり方がどこかおかしいと、カナダのあちらこちらで声が上がっています。チップとは客が味やサービスに満足した際に自由意志で支払いに追加するもの。それがコロナ以降、もらって当然という態度やシステムに組み込まれていることに違和感があります。
 


税金にまでチップ、そして30%が登場


 トロントの中華街で飲茶を食べたとき、友人が出してくれたんですが、店主らしき女性が友人に何か言っていました。どうやらチップが少ないと文句を言われたらしいのです。15%出したら、伝票にチップ20%と書いてあると言われ、変だと思いながらも数ドル足したら不服そうに「オーケー」と言われたようです。

 元来チップは良いサービスに対して感謝することや、サーバーの低賃金を少しでも補うための心づけ的な存在だったはずで、カナダでの相場は税金を払う前の金額の10~15%あればいいというものでした。それが、コロナによるサーバーの生活の不安定さを気の毒に思い、コロナ解禁後に客が多めにチップを払うことが習慣化しました。

 今では支払い時のPOS機に自動的に出てくるボタンから15%が消えたところもあり、18%、20%、25%、なかには30%という数字が出てきます。支払いを待っているサーバーの前で、それらをキャンセルして自分で金額を入れるときには、ちょっとバツが悪かったりします。家に帰ってからレシートを調べると、税金(オンタリオは13%)を加えた額でチップを計算するところが増えました。コロナ以後、レストランでの料理の値段が上がったうえに高額なチップを要求され、チップとインフレーションを合わせて「チップフレーション」という造語もできました。とにかく外食が高くなりました。
 

コロナ禍から歯止めが利かなくなった


 「特に良いサービスを受けたわけではないのにチップをもらうのが当然という態度を取られる」「チップの少ない客には不服そうな物言いをする」「チップの%の数字がどんどん上がる」「セルフサービスの店でもチップを要求する場所が増えた」と、せっかく外食をしても納得のいかない気持ちにさせられることが増えました。物価高で料理の値段が上がるのは仕方がないとしても、コロナに便乗してチップを多く要求されることに、消費者が疲れてきています。

 チップの話題になると、「私はいつも20%以上のチップを払っている」「チップはカナダの習慣だから出すのは当然」と恰好をつける人もいて、チップを出ししぶるとケチだと思われるかもしれない、とプレッシャーを感じます。

 カナダは物価の高い国で、特にコロナ以降の物価上昇が生活に影響しているのは客も同じです。外食が高すぎることとチップフレーションに嫌気がさし、外食を控える人が私を含め周りにも増えてきました。受けるサービスの対価が見合わないのです。チップの強要は客足を遠のかせ、結局は自分たちの首を絞めることにはならないでしょうか。
 

フランスはチップをやめた


 フランスも昔はチップの習慣がありましたが、今ではチップ込みの値段になっています。昨年久しぶりにフランスに旅行すると、食事後に頭を悩ませたり、カナダでのようにチップで気分を害する必要がなくなり、とても快適でした。頑張っても時給は変わらないからサービスの質が低下するということはなく、どこでもちゃんとサービスしてもらえました(日本もチップの習慣はありませんが、低賃金という問題があります)。

 カナダでは、客がなぜサーバーの生活の心配をしないといけないのか。オンタリオ州の最低賃金は時給16.55ドルです。生活するのに必要な給与はオンタリオ州平均で20ドル、トロントでは25ドルと計算されています。オンタリオ州の最低賃金は過去10年で60%上がったものの、生活に必要な給与には届きません。しかし、従業員の生活の心配は雇用主であるレストランがすべきであって、客がチップが少ないと文句を言われたりケチだと思われる筋合いはないはずです。

 客に恥をかかせるサービスが良いとは思えませんし、生活できるレベルの給料を従業員に払う、または工夫するのが店の責任です。
 

チップ込みの値段が一番の解決策


 チップ込みの値段にすると、一皿の値段が上がり客足が遠のくとの理由で敬遠する経営者がいますが、私はまったく逆だと思います。客がもっとも嫌がることは、メニューに書かれていない金額を要求されることや、楽しく食事をした後にチップという煩わしいものが待っていること、そして、少ないと思われるかもしれないと心配することです。

 チップの面倒くささから解放されて食事ができるなら、多少値段が上がっても、それに見合う料理とサービスを提供するなら客は店にやってきます。「料理の味を工夫する」「サーバーにサービスのトレーニングする」「店内の掃除や装飾に気をくばる」等、店ができることはたくさんあります。
 近頃はチップ込みの値段設定に変えたレストランも出てきたようですが、飲食業界全体でチップ込みでの値段に決め、この煩わしさから客を解放してほしいですね。
 
参考:Global News, November 7, 2023, Most in Ontario need at least $20 an hour for a living wage, study suggests https://globalnews.ca/news/10069791/study-suggests-most-ontarians-need-20-or-more-an-hour-to-make-a-living-wage/
 

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年4月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-50

「カエデのマルチリンガル子育てブログ」を読みたい方はこちらへ 
☞ https://warmankaede.com/

☞ クリエイターへのお問い合わせへ


いいなと思ったら応援しよう!

カエデ・ワーマン@トロント
いただいたサポートを励みに頑張ります!