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聾唖者と青春音楽映画『coda あいのうた』

豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。

(『coda あいのうた』公式サイトより引用)

これだけ読むと、「だいぶ説教臭い映画かな」と思えてくる。しかし観た感想は「エンタメの王道」だったし、『ブラス!』のように音楽で人生を切り開くという古典的な型を使ったストーリーだった。かなりベタと言ってもいいかもしれない。

この作品の新しさは、主人公のルビーの父母と兄は聾唖者で、言葉を話すことが困難だということ。そういうマイノリティを主人公の家族に設定していること。ルビーは、漁業を営んでいる家族の手話の通訳として「ヤングケアラー」の役割を担っている。彼女の音楽の才能と、家族の通訳としての役割の間での葛藤によって物語が進んでいく。A24が制作してアカデミー作品賞を取った『ムーンライト』も極めてオーソドックスな恋愛モノの型を使いながら、黒人の男性同士の恋愛を描いて評価されたけど、それと相似形かな。

キャラクターに新しさを足して、ストーリーは定番なので安定のエンターテイメントになっている。逆にストーリーに新しさを持ち込もうとした作品は往々にして小難しくなる。それでも別に悪くないけど、この設定とキャラクターで物語が小難しいと、観るのが辛くなってしまうので、物語を定番に振ってくれてよかった。

この作品のもうひとつ面白いところは、音響で、ところどころで耳が聞こえない人が世界をどう感知しているのかを疑似体験させること。これによって聾者になったような感覚で映像を観ることができる。その瞬間、物語の中により強く引き込まれる。

それと、この映画では「当事者による表象」が徹底されている。聾唖者を演じているのは「聾唖者で主に手話で会話している役者さん」なのだ。大河ドラマで『龍馬伝』をやっているときに龍馬の土佐の実家のお姉さんを高知県南国市出身の島崎和歌子さんが演じていたけど、アメリカの映画では、これをすべてのマイノリティの役柄で実現しようというトレンドがある。そういう意味でのリアリティが宿っているのがこの作品で、それによってエンタメでありながら社会性をもったテーマも伝わってくる。

あと、アメリカの音楽教育では1960年代のマービン・ゲイとか70年代のジョニ・ミッチェルなんかを普通に使うんだというのも驚きだった。物語も音楽もよくて純粋に楽しめた。サンダンスで4部門取ったけど、アカデミーも何か取るだろうか。

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